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第10回「まるわ食堂」季節はずれの海岸で出会った、感動的なD定食|パリッコ

 2019年9月なかば、僕はサーモスの保冷缶ホルダーにセットした缶チューハイを片手に、逗子海岸の浜辺をぶらぶらと歩いていた。フリーライターとして独立してからまだ半年たらず。バタバタと慣れない生活に追われているうちに、大好きな夏はどんどん過ぎてゆき、「そういえば今年はまだ海を見ていないぞ」と気づいて、慌てて湘南新宿ラインに飛び乗ったというわけだ。

 あいにくの薄曇りだが、空気にはまだ夏の名残りがあり、控えめに蟬も鳴いている。何より、人気(ひとけ)のほとんどない海の水は透き通って美しく、履いてきたサンダルのままちゃぷちゃぷと足を浸すと、よし、一応夏の儀式をひとつ消化したぞ! と、悪くない気分だった。

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◆やっぱり海はいい……

 つまみは、駅からここまで歩いてくる途中にあった、珍しいクッキーの自販機で買った「湘南クッキー」の「あおさ味」と「じゃこ味」。甘じょっぱくてなかなか酒の進む味わいではあるが、慌ててやってきたのでまともに食事をしておらず、お腹が空いた。ハイシーズンにはずらりと並び建つ海の家が、あわよくばひとつくらいまだやっていないかと期待もしていたんだけど、すべてきれいさっぱり骨組みだけになっている。まぁ、駅前に戻ればちらほらと営業中の飲食店もあったし、浜辺の端まで行って、何もなかったら戻ればいいか。そんなふうに考えていた僕の目に突如飛びこんできたのが「まるわ食堂」だった。

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◆ビーチからかろうじて見える距離のロードサイドにぽつりと一軒

 はためく「定食」ののぼりが頼もしい。駐車場も充実しており、昔ながらのドライブイン的な食堂らしい。入らない理由は見当たらないだろう。

 店前のボードを見ると、1500円の「まるわ定食」というのがあって、これが一番の名物と書いてある。刺盛り、アジフライ、魚の煮付け、しらすおろし、南蛮漬けに、ご飯、味噌汁と漬物という内容だが、どう考えても自分には多すぎる。そこで、地魚5点盛りにご飯セットの付く「D定食」に狙いを定める。

 昼時のピークタイムを過ぎた店内に人はまばら。ほとんどが、刺盛りなどの豪華ものではなく、ごく普通の定食や、ラーメンなどを食べている。完全に地元密着型の定食屋。

 券売機を見ると、生ビールに瓶ビールに缶ビール、日本酒、焼酎、ハイボール、レモンサワーと、酒類は過不足なく揃っている。さらに、「コロッケ」や「しらす」などの単品が100円台からあり、つまみにも困ることはなさそうだ。こういう店のカレーやラーメン、きっと絶妙にちょうどいいんだろうし、「エビ玉丼」なんてのも気になるけれど、僕はこの店ではまだおのぼりさん。初志貫徹で、D定食と缶ビールを注文した。

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◆湿度の高い海風と「スーパードライ」が最高に合う

 店の前のテラス席が広々として気分がいい。水上にせり出す絶景! とまでいかず、海との間に街道を1本挟んでいるところが、まさに日常の隣にある非日常、天国酒場という感じで嬉しくなる。ここでビールをチビチビとやっていると、D定食完成のアナウンス。店内に受け取りに向かったら、そこにとんでもない衝撃が待っていた。

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◆刺盛りが超豪華な舟盛り!

 この日の内容は、アジ、イワシ、イサキ、ワカシ、ブリ。どれもこれもとろりと旨味濃厚でうますぎるのは、さすが海辺の街。しかもこのボリューム。これにご飯、味噌汁、漬物が付いて、なんと1300円というんだからどうかしてる!

 絶品の刺身を口へ放りこんだら、熱々の白メシで追いかける。そのハーモニーを堪能したところでグイッとビール。そんな幸せを、何度でも思う存分堪能することができる。

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◆「まるわ食堂」、出会えて良かった

 観光シーズンであろうとなかろうと関係なく、逗子海岸の片隅で営業してくれている天国酒場。こんどはぜひ、日常的な料理をつまみに飲んでみたい。あえて冬に行くというのもいいだろうな……。


まるわ食堂
住所:神奈川県逗子市新宿5-3-28 逗子海岸ロードオアシス
電話:046-871-1099

※本文中の価格はお店訪問時のものです。