スリル・ミー感想①
スリル・ミーの噂は、2021年にコロナで中止になってしまった頃に聞いていました。内容が犯罪ということで、ちょっと敬遠していたのですが内容が良かったと絶賛している感想を見て、少し気にはなっていました。
そして今年、廣瀬友祐が出ているなら観てみようかな、と思って本当に軽く観にいきました。
つまり、こんなにハマるなんて思いもよりませんでした。
大阪で尾上×廣瀬を一回、耐えられず一週間後に名古屋で尾上×廣瀬、そして尾上×柿澤のCDを購入し、木村×前田、松岡×山崎を配信で拝見しました。
やはりこの作品では誰で観たかによって大きく印象が変わるので、どうまとめるのが適切なのか分かりません。が、役者の違いに関することを中心に、思いつくままに書きました。
・尾上×廣瀬(2023/10/09@大阪)
記念すべき初見の日です。
実話をもとにしていることへの抵抗感を示している人もいて、自分は耐えられるか不安でした。
が、よく考えると浄瑠璃とか歌舞伎でも実際の事件の脚色は多いわけで、実話が元であることは問題ではない、と自分を納得させて見に行きました。
個人的にはミス・サイゴンとかNever say goodbyeとか、戦争が題材の作品の方がしんどかったです。
また、同性愛描写があるのは全く知りませんでしたので、大変驚きました。
尾上×廣瀬初見の印象としては、カリスマ性の高い「彼」×狂信的なメンヘラ「私」、でした。
語りが「私」であることから、また全ての結末も何も知らないで見たので、常に彼に弄ばれる「私」であり、常人の理解を超える「彼」です。
そもそも、廣瀬「彼」、怖いんですよ。
壁を蹴ったり、急に怒鳴ったり(何度オペラグラスを落としかけたか)、そもそも虚空を見つめ過ぎているし(目があった気がしたけど、こっちを見てはいなかった)、何を考えているか全くわからないし、どこでいつ彼がキレるか予測ができなかったんです。子供の誘拐のところとか特に怖過ぎて子供誰もついていかないよ…と思ってました。
その理解のできなさが、廣瀬「彼」の長身と顔面の美しさによって「超人」として理解するしかできませんでした。
そして、その前半があった分「死にたくない」の叫びの野太さとピッチの低さに絶望感と人間味が溢れていてよかったです。
一方の「私」は尾上さんだからなのか女性的な印象を受けました。
声のヒステリックさとか、また弱さが滲み出ているように思っていました。だからこそ、「私」が「彼」を超える優秀な存在であることが俄に信じられず、最後のどんでん返しは、「私」が今までの失態を「彼」に取り繕うための嘘に過ぎないのではないか、と思って見ていました。
あるいは、「私」が「彼」を見返すために起こした、愛や情欲というより「彼」への劣等感からくる承認欲求から99年計画をおこなったというように観ていました。これはおそらく、尾上「私」よりも背が小さく、廣瀬「彼」がスタイリッシュすぎるのも関係あるでしょう。
ただし、この勝負に「私」は結局勝てていないところが少し悲しくもあります。「超人」として「彼」に勝利したはずが、結局打算が外れて途中で「彼」が殺されることになってしまったからです。
・尾上×廣瀬(2023/10/15@名古屋)
気がついたら私は名古屋にいました。
2回目の観劇だったことで話の展開構成がよくできていると感じました。契約書を作ってしまったことによって、全ての行動が契約がらみの行動になってしまい、二人の関係に歪み(元々歪んでたけれど)が生まれていってしまったのでしょう。
ただし、二人の関係は大阪で拝見したものと別物でした。好き勝手やってるようにみえて試し行動をする子供な「彼」と自分の情欲ばかり優先して「彼」自身を見ているとは思えない「私」、でした。
全てを知った上で、かつ皆様の感想を拝見した上で鑑賞したからなのか、廣瀬の演技が変わったからなのか。これほど自分が映像記憶とかができたらよかったのにと思ったことはありません。
基本的に私の記憶力はザルです。
キスの仕方があまりに違ったことだけは朧げな記憶があります。(これは10/8のとき、顔をぐるぐるさせてキスしてて、あまりに独特な感じだったので記憶に焼き付いてしまったせい)
今回はなぜか「私」よりも「彼」視点で見てしまいました。噂によると本公演は廣瀬「彼」が優しくなっていたそうです。そのせいなのでしょうか。
例えば、「スリル・ミー」の歌の時は彼の乗り気のなさと傷ついた様子が10/8にもましてすごかったですし、「彼」の懇願シーン。ここまで追い詰められないと「彼」は自分の本心を曝け出して言うことができない、けれど「私」の心をどのように繋ぎ止めればいいのか知らない、そんな風に見えました。そして、99年の最後の死ぬシーンのうなだれも物凄かったです。
また子供の誘拐の場面では「彼」の優しさと、自分もああいうふうに父親に接してもらいたかったのではないかと感じました。それでも最後の「一緒においで」はものすごく怖かったですが(それにしてもよくあれだけ声が棒読みで、しかもそのまま機械音のように維持できるな……)。
そして、「私」はそんな彼の様子に気がついているのか、いないのか。少なくとも尾上「私」は「彼」が家族のことを深刻に捉えていることに気がついておらず、ことあるごとに家族との仲の良さを見せ、彼の弟のことを話していたように見えました。個人的な体験としても家庭環境の悪い友人が世間一般の家庭の人間を幸せそうだと言う理由だけでものすごく憎んでいたので、「彼」の心情や言動がものすごく自然に理解できました。
・尾上×柿澤CD(2014)
CDを血眼になって探して買いました。
廣瀬「彼」はめちゃくちゃ大人で超越したカリスマ感が凄かったですが、このCDの「彼」は、まだ少年っぽさも(声)あって。また別の彼でした。このことによって、他のペアも見るべきであったと徐々に反省していました。今後しっかり聞いていく予定です。
(ちなみに最近アナスタシアを観たことで田代万里生の歌唱力の高さに気づいてしまったため、田代の方も買おうかものすごく迷っています。)
・木村×前田(配信)
最初は木村×前田ペアの配信だけ購入しました。複数の友人も巻き込んで視聴していました。配信の感想にはところどころに友人との検討の結果も含んでいます。
宣伝映像で塩酸を受け取るシーンで「私」が「彼」に泣きついているのがとても印象的だったのが購入の決定打です。身長が同じくらいで、別に「私」は「彼」にコンプレックスがそんなになさそうであるからこそ、また別の関係になっているのかなと思っていました。
またこちらの俳優たちを知らなかったのですが、調べるとテレビやドラマを中心に活躍していると分かり、映像で見るのがぴったりなのではないかと思ったのもあります。
印象としては、実は常軌を逸していた「私」に完全に「彼」が負かされていってしまう話に思えました。
「私」の恋愛感情がより前面に出ている感じました。彼と接触するだけでものすごく幸せそうな顔になってしまう様子が上手で、そりゃ自制が効かないだろうな、と思いました。
ただ一方で、尾上×廣瀬ペアで感じたようなコンプレックスといった執着の理由は分かりにくくなると感じました(廣瀬さんがスタイリッシュ&良い意味で大人すぎると言うことです)。
木村「私」は「彼」に人懐っこ過ぎて可愛らしくて、普通に他にも友達がいそうで、「彼」に執着しなくてもよさそうす。一方で、だからこそ「私」が「彼」に求めているものが肉体的なものにしかないようにも受け取れました。
もう一つ衝撃だったのが、「私」が全てを仕組んだようにしか見えなかった点です。脅迫状の場面で「これで、完璧だ」の台詞を少し笑うように言ったことはもちろん、嘘のアリバイを述べた後に少し笑い、そして最後のネタバレの場面で本当に心の底から嬉しそうな様子。「私」が計画を運んでいるようにしか感じませんでした。
そして、ラストの笑顔について。自由になったと言われたものの、まだ心は彼から自由にはなっていないのだと感じました。
写真によって彼の顔を久しぶりに見られたけれど、その場にはいないことに気が付くという解釈は、どのキャストも同じだったと思いますが、木村「私」は、最後の微笑みによって彼の幻覚をまだ見ている、あるいは自殺でもして会いにいくことができたというように感じました。
「彼」については、「彼」の軽薄な感じがよく出ていたと思います。冒頭ではニヤリと笑って「私」の心を利用している様子が映っていました。
懇願のシーンでも最後の先に後ろを向いてしまうシーンがはっきり映っているせいか、心からの懇願というよりもまた利用しようとしているようにしか見えませんでした。あるいは、「私」の表情が「彼」が軽薄であると感じさせたのかもしれません。
また、この「彼」は何かを誤魔化す場面で笑って台詞を言うのが特徴だと思いました。おそらくそれは彼のプライドや焦りを隠すためで、例えば子供の死体が見つかった時に「もっと排水溝の奥に押し込んでおけば」の場面。ここの笑いは本当によかったです。
・松岡×山崎(配信)
噂で、溢れ出る幼馴染感、と聞いて、途中で耐えきれなくなって追加で購入しました。なぜ始め買っていなかったかというと、廣瀬「彼」の印象が強過ぎて超人っぽくない「彼」には少し抵抗感があったからです。
が、実際に見てみるとものすごく私好みでした。
むしろ、その辺にいそうな人たちが、こうなってしまった悲劇性を高めていてよかったです。普通の範疇にとどまれたはずの人たちが自らの選択を全て誤ることによって破滅する。良いですね。
まず、台詞回しが上手いです。再演だからでしょうか?また、音が割と正確で余分な雑念を感じずに観ることができました。(他の組ではたまに、なんか転調が早いな、とか思ってしまったりしたので……)
超高速会話(見比べたら、明らかに、信じられないくらい早かったです)は二人の頭の回転の速さを表しているようでありこの作品に非常にあっていましたし、また歌や重要な台詞とのメリハリを持たせていたと思います。もしかして実際に生で見たら聞き取りやすさの問題からまた違った印象になったかもしれませんが。
「私」の冗談めいた様子と、それに乗ってしまう彼、そして拒否できない「私」の様子がすごくよかったです。
契約を結ぶきっかけになった言葉とも言える「君のいう通りにしても君は僕の言う通りにはしてくれない」、子供の誘拐計画、そして警察でうまく切り抜けた後の「どう褒めてくれる?」。
この辺りは全て「私」にとっての冗談めいた、あるいは皮肉も混じった言葉だったのではないかと感じました。この無神経に何かをいってしまう「私」は、同じく弟について無意識に彼を刺激したりする「私」の造形と合致し、非常に一貫した印象を受けました。「彼」がニーチェにハマっていることを知った時の「ニ〜チェェ?」や、血の契約の部分の「何それ。インディアンじゃあるまいし」の時の冗談だろって感じの話し方にもそれが表れているようでした。
一番理解しやすく、また日常で生きていけそうな「私」で、それがこの過ちの重大さを引き立たせていました。
台詞が良かったのは「彼」もです。例えば、塩酸やロープの準備をしている場面。他の役ではこんな基本的な準備すらできない「私」を責めているような口調でしたが、今回の「彼」はそこまで気にしていないような印象を受けました。「私」に対して何かを思うというよりは、ひたすら家族に関して不満を持っているような印象を受けました。
他に好きな点は息遣いです。マイクの関係なのか、結構歌や台詞以外の音もしっかりと入っていて良かったです。
特に「スリル・ミー」の歌の最後の部分の大きな深呼吸は、「私」自身が「彼」に関係を迫ったことの重大さを自覚しているように思わされました。それ以外でも、呼吸で不安感を表現したりしていて非常に良かったです。こういった身体的な分かりやすさは、劇場で見る場合に特に光ると思いますので、実際に現場で見れば良かったと後悔しています。
おわりに
スリル・ミーの魅力の一つに、演じる役者によって中身が全く異なるという点があると思います。そうなるように、それぞれのペアの色が被らないようにあえて作っていると思います。
ぜひ、今後は上演されるたびに全てのペアで拝見したいと思います。
そして、今回は大阪・名古屋でしか生で観ませんでした。しかし、本作品は小さなキャパの劇場でやることでより面白さや没入感を得られるのではないかと考えています。ですので、今後は東京にも観に行きたいと思っています。
何はともあれ、再演・アーカイブ配信ありがとうございました。今後はぜひブルーレイ、DVDの発売をお待ちしています。
言い値で買います。
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