男の子は、いらない。
女の子可愛い。
そう、母が言う度に。
女の子可愛い。
そう、祖父母が言う度に。
男の僕は、複雑な気持ちになっていった。
娘じゃなく、息子の僕。
女装は、さすがに強要されたりはしなかったけれども、心の奥底では、僕に女装を求める人たち。
そんなのが、家族なんて。僕は、男だよね?
自分に疑問を抱く度に、必ず味方になってくれた人がたった一人だけいたんだ。
それが、僕の父。
父は、自分の両親から、ひしひし受ける女の子希望に耐えて、男の自分を維持した人物だ。
父の兄弟は、皆男で、三兄弟。父は、長男だ。女の子が欲しくて、頑張ったが叶わなかった両親。それでも、まだ諦めつかなさそうな親の様子に、弟二人は呆れて反抗している。真ん中の弟は、結婚してから滅多に帰ってこないし、末っ子は、未だ独身、都会で一人暮らしだ。
父だって、僕の祖父母から逃げたかったけれど、祖父が病気になって、介護が必要な身体になって、逃げそびれた。
そんな父は、いつも僕に謝る。
そして、僕に妹が出来た日の、僕への扱いが怖いってもらした。
それでも、兄弟欲しいか?
僕は複雑だ。兄弟は、欲しいよ。一人っ子さみしい。でも、弟でも、妹でも、こんな人たちの中にいたんじゃ、きっと、僕と同じ位苦しむ。
苦しみを分かち合うと言えば、聞こえはいいけれど、苦しむ人を増やしただけになるんじゃないか?
僕は悩み続けた。
小学三年生になったある日、父が交通事故に遭った。
僕は、永遠に、本当の兄弟をねだることが出来なくなった。
そして、家の中の味方を失った。
僕は後悔した。
しなかった後悔をした。
した後悔は、きっと気持ちいいんだろう。
だけど、しなかった後悔をする僕は、きっと誰より大人なんじゃないか?少なくとも、家族の誰よりも、大人だと、思いたい。
現実には、喪服の黒ネクタイすらぴったりサイズがなくて、ブカブカな、小さな僕。
なんで、先に死ぬべき祖父母は生きていて、なのにずっとずっと長生きすべき父が突然いなくなったの?
涙を流したいのに、涙は流れなかったのは、僕が男だから、だろうか。
僕は、なんで、男なんだろう?
性別なんか、糞くらえだ。
母は、僕を食べさせるために働き始めた。
水商売と昼間の仕事を掛け持ちして、遺族年金もらって。
おかげで、僕は、進学費用には困らなかった。
反抗したりはしたけど、ここで、反抗しすぎれば、僕は糞くらえな家から抜け出せないかもしれない。僕は本気で家が嫌いだから、悩んだ。
高校では、アルバイトに精を出して、独立費用を貯めた。高校出て、就職して、早速一人暮らしを始めた。
安月給の3K仕事でも、ここでは、男の僕を当たり前のように認めて頼りにしてくれる。
僕は、やっと地上の天国を手に入れた。
もう、あの家からは、サヨナラだ。
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