【エッセイ】MRI体験
「くちびるの感覚がない!」
朝ご飯のパンを食べながら、その感覚のなさに驚いた。
でも唇はちゃんとついている。
3年前のこと。結果的に何ともなかったのだけど、朝起きたら顔半分の感覚がなくなっていた。唇を触ったり、ほっぺを触るのだけど、正座をして足がしびれた時みたいに何も感じない。
くちびる?
もしかして歯の神経かもしれないと思い、歯医者に行くことにした。
女の先生は、私の症状を聞いて口の中を見てくれるがなんともないと言う。そして、唇や顔をピンセットでつんつんして
「これは何本でさわってますか」と尋ねる
「? 2本?」
「これは?」
このクイズ全然分からない。でも、はっきり言って、正常な状態でも分からないと思う。難しすぎるクイズだ。
先生は歯ではなさそうだと判断し、脳神経外科への紹介状を書いてくれた。
脳神経外科では、顔がゆがんでいないか、血液検査などをして、後日MRIを撮ることになった。
MRIは強い磁場が発生している機械である。
男性の検査技師さんが
「金属製のものは身につけていませんか?」
と聞く。そしてこう言う
「金属製のものをつけていると、非常に危険です。例えばマスクにワイヤーが入ってたりすると」
と言って、手にもっていたマスクをMRIの空洞に投げ込んだ
「こんな風になります」
マスクはまるで無重力地帯にでもいるかのように浮き上がり、MRIの側面に貼りついた。
金属製のものは、ひっぱられるようだ。
そこで、私がしていたマスクに金属のワイヤーが入っているか調べたが、プラスチックのワイヤーだったので問題なかった。
準備が整い、検査台に寝転ぶと、MRIの中へとゆっくりと動き始めた。
決して動いてはいけないということで、緊張が高まる。
じっとするのは結構体力がいるのだ。
動かないことに集中していると、ある思いが浮き上がった。
下着(パンツ)に金属はついてなかった?
小さな飾りがついている下着をいくつか持っている。
もしかしたら、そこには金属がついているかもしれない。
今日はどの下着をつけていた?
そんなの覚えていない。
思い起こすと、小さな飾りがついていたような気もしてくる。
私は想像した。
下着がMRIにぎゅいんと引っ張られ、体が宙に浮き、ぶつかって大けがをする姿を。
怪我の理由がパンツなんて恥ずかしすぎるし、レアケースすぎて新聞に載るかもしれない。
検査技師さんを呼ぶボタンを押そうか迷った。
でも、下着が心配になりました・・・と告白するも恥ずかしい。
私はいちかばちかのカケに出た。
あと、少しでMRIに体が全体が入る。
・・・・・
下着は飛び出したりしなかった。大人しくしていた。
無事検査が終わった。
後日検査結果を聞きにいくと、顔の神経に炎症があるとのことだった。
悪性腫瘍の可能性もあるが、いろんな神経が通っているところなので、細胞を取ったりするのは、逆に神経を傷つけるので危ないという。
とういうことで、何もせず様子を見ることになった。
そしておまけみたいに隠れ脳梗塞が見つかった。
これも何か治療をするということでもなく、他人よりかなり早い老化ということで終わった。
感覚がなくなってMRIを体験して、老化を突き付けられた。
ちなみに顔の感覚の方は、覚えてないくらい自然に回復した。
読んでいただきありがとうございます!一緒に様々なことを考えていきましょう!