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猶予期間に「悪質業者」重点検査のススメ~犬猫販売業界は3年、愛護団体は4年の経過措置


ケージ規制、適用1年猶予

  環境省は12月25日開いた中央環境審議会・動物愛護部会(部会長、新見育文明治大学名誉教授)に2021年6月1日施行を目指す犬猫飼養管理基準(数値規制)省令最終案を示しました。
 
 最終案に追加されたのは経過措置(省令付則)です。ケージなど飼養施設の基準は新規業者には2021年6月から適用しますが、既存業者には1年間猶予し、2022年6月から適用することになりました。従来から流通するケージのサイズでは対応できないことも多く、資材の調達自体に時間がかかることを考慮したようです。

 従業員の員数基準つまり「1人あたり飼養頭数の上限」に関しても同様に新規事業者には2021年6月から適用しますが、既存業者のうちペット店や繁殖業者(ブリーダー)など第一種動物取扱業は1年間猶予の後、2年かけて段階実施し、完全適用は2024年6月からとなります。
 
 第二種動物取扱業の場合は2年間猶予の後、2年かけて段階実施するため、完全適用はさらに一年遅い2025年6月からとなります。

 繁殖方法などに関する規制は、年1回の健康診断と帝王切開に関する診断記録の保存は2021年6月から実施し、雌の交配年齢や出産回数に関する制限は繁殖台帳への記入など確認できる体制を整えて2022年6月から始めます。

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 経過措置の設定は前回10月に開いた審議会でも必要性を確認していました。パブリックコメントでは「経過措置期間を設けないで欲しい」という意見も出ていたものの、十分な経過措置を設ける、段階的に実施するという意見も多く、25日の審議会では経過措置の設定そのものに異議を唱える意見はありませんでした。

第二種優遇に疑問の声


 ただ、経過措置のうち第二種動物取扱業に対する飼養頭数制限の適用猶予期間が2年間で、第一種よりも1年長く設定されている点を疑問視する意見が複数の委員から出ました。大規模な譲渡団体、個人の飼養施設が動物の遺棄、虐待といった問題を起こすことも目立っていているからです。

 環境省は、営利を目的とする第一種のブリーダー等から第二種の譲渡団体が引退犬猫などを引き取って里親探しをする時間的順序を想定して、第二種業者への適応を猶予する期間を長くとったと説明しています。

 一種、二種の猶予期間をそろえるよう求めた委員のほかにも、多頭飼育崩壊を防ぐため個人飼い主にもこうした飼養頭数上限を適用することを求める委員もいて、環境省が今後、法整備上の論点を含めて検討を進めていく考えを明らかにしました。

2月に省令公布、6月施行へ

 また、委員のうち地方自治体関係者からは、新型コロナ対応で保健所関係の職場は忙殺されて、犬猫よりも人間の命を優先せざるを得ない状況が続いていて、先行きもまだ見通しがい状況にあるという意見も出ていました。経過措置があったとしても現在の地方自治体の動物愛護関係部局の人員配置、予算では十分に対応しきれない可能性もありそうです。

 答申案の取りまとめは、部会長一任となりましたので、数値規制と経過措置の内容はこれで確定といってよいでしょう。2021年6月1日施行を目指して、2月頃には省令が交付され、専門家による環境省の動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会(武内ゆかり座長)も開催して、基準の解説書の作成作業も本格化するでしょう。

「悪質業者」とはだれのこと?

 ところで、この数値規制案の制定経過を見て思うのは、環境省の準備不足です。数値規制の原案を今年7月に公表した環境省の専門家検討会の発足は2018年3月でした。この間に、十分に時間があったにも関わらず、ペット業界の犬猫の飼養実態、流通実態、さらには事件・問題事例を十分に分析していませんでした。

 小泉進次郎環境相は悪質業者にレッドカードを出しやすくする規制だと説明していますが、どのような業者を悪質と想定しているのかがはっきり示せず、ペット業界全体が悪質であるかのような議論さえ引き起こしていました。

 その一方で、譲渡・保管などの業務を非営利で行う第二種業者でも、例えば広島県神石高原町の認定NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)が運営するピースワンコのように犬を3千頭近く飼養し、狂犬病予防法違反などの容疑で警察の捜査を受けた団体もあります。

 譲渡団体への頭数制限の適用を2年も猶予するなど、今回の規制案は営利目的のペット業者には厳しく、非営利の愛護団体には甘く設定されていますが、悪質な業者はどちらにも同じようにいます。

要注意業者、大規模団体を重点検査対象に

 適用を猶予したり、段階実施したりするのは、データを示しながら業界や愛護団体を納得させつつ、議論を進めてこなかったので、最後の段階で妥協せざるを得なかったからです。動物愛護部会の審議でも、新しい規制を導入する際は影響を可能な限りデータで検証しつつ議論するよう求める意見が出ていました。

 都道府県は動物愛護管理法に基づく立ち入り検査を実施しても、勧告や措置命令をすることは稀です。たいていの場合は強制力を持たない形での助言、注意です。しかし、そうした行政指導であっても内部でメモを作成し、保存しているケースが多いはずです。

 2021年6月以降も既存の業者に対する施設基準や員数規制の適用が猶予される期間は、これまでに繰り返し指導してきた業者や、極端に大規模な業者を重点的に検査し、新しい基準を念頭に置いたうえで、悪質な事例があれば、積極的に勧告を出していって欲しいと思います。規制がまったく適用されない猶予期間でもできることはたくさんあるはずです。

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