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ペット行政、環境省の怠慢~悪質業者と格闘する自治体の実情把握おろそか

1、規制導入へ説得努力が不足

 10月12日に私が情報公開請求した件について話を聞くため、14日午後、環境省に行って来ました。動物愛護管理室長の長田啓さん、室長補佐の野村環さんが応対してくれました。

 先方が期待した「情報公開請求の取り下げ」をしないまま、私は開示を求めた文書の内容について概略の説明を受けました。そして環境省の実態調査不足を実感し、追加的な調査や関係者、国民への情報提供が必要なのではないかと申し入れました。

 「請求を取り下げてくれとは言っていませんよ」と長田さん。

 「『取り下げませんよ』と先に言ってあげたのだから当然です」と私。

 説明を見返りに申請取り下げを働きかけることはよくないことなのだ、とわかっていただけたのであれば、私としては満足です。
 
 ただ、説明を聞く限り、残念なことに開示を求める一連の文書には、新しい規制を導入するための説得材料としてのパワーは感じられず、力の入れ方にもチグハグな印象を受けました。

 数値規制案に関するパブリックコメントと並行して、ペット流通の実情や問題点を可視化できるようなデータをまとめ、一般に公開していく必要があると思いました。それが行政府の責務でもあると思います。

2、上限値弾力運用を採用せず

 主に口頭で説明を受けた内容を少し整理しておきたいと思います。

 3つの請求のうち1番目は、従業員1人あたりの犬猫の頭数制限を弾力運用するかどうかを検討した経過を検証する目的です。あらためて紹介しますが、私が申請した内容は以下の通りです。

 10月7日開催の中央環境審議会動物愛護部会提出資料3-1②の2ページ目 最上段の「従業員の員数」に関する条文案において、検討会報告が検討課題とした「上限値強化、上限値緩和」について採用しないことを決めた検討経過を示す検討資料、議事録、稟議書当の行政文書一式(国会における動物愛護議連、メディア等との質疑応答記録、電子メール等を含む)

 ここでいう検討会とは、環境省の「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」のことで、8月に公表した報告書は、

犬:1人当たり繁殖犬15頭、販売犬等20頭までとする

猫:1人当たり繁殖猫25頭、販売猫等30頭までとする
(いずれも親と同居の子犬・子猫は除く)

という基準(数値規制)案を示していました。

 その際、「課題のある事業者の上限値強化と優良な事業者の上限値緩和を検討する」という文言も付記されていました。

 しかし、10月7日に開催された中央環境審議会動物愛護部会に来年6月施行の省令案を諮問するにあたって、環境省はこの上限値を強化したり、緩和したりする仕組みは「採用しない」としたのです。

 どのような情報をもとに検討をしたのかを知りたいと思って私は行政文書の開示を求めたわけですが、長田室長の説明によると、数値そのものを弾力運用する政策の前例が見当たらないことや、自治体ごとに運用するとバラツキが出て不公平になる等の意見が省内で出たようです。

 また、ある自治体の制度創設に反対した動物愛護団体代表の意見を長田さんが個人的に聞き取ったことも決定を後押しする要因になったそうです。

 どちらかというと実例に基づかない机上の議論に終始し、個人的にもたらされた情報を頼りにした印象を受けました。

 環境省からどのような文書が開示されるか私は注目していますし、個人的な意見や提案が政策決定に影響しているのならその証拠としても文書の開示を求め続けたいと思います。

3、記録に残らない指導の実態把握を

 そもそも「悪質」な動物取扱業者はどのくらいいるものだとイメージすればいいのでしょうか?

 ブリーダーやペットショップはすべて「悪」だと思う人もいるかもしれません。ある程度、可視化できるデータが欲しいところです。

 例えば、業者に対する行政処分の実情について考えてみましょう。

環境省動物愛護管理行政事務提要によると、第一種動物取扱業者数は全国44828(2019年4月1日現在)も登録されています。犬猫の販売業は16335業者でそのうち繁殖も行うものは12730業者です。

 第一種業者に対する立ち入り検査は年間22078件(2018年度)も行われているのですが、業務停止命令0件、登録取り消し命令0件という実情です。

 処分するための明確な基準、つまり数値が示されていないため、悪質であっても処分ができないということで今回の数値規制が導入されるわけですが、いままで「0」だったものがいったい何百件、何千件、何万件の処分になるのかということがまったくわからないところが大きな問題だろうと思います。

 好ましくないことを見つけて是正を求めるやり方は、全国各地の自治体・動物愛護センターにより様々でしょう。しかし、たいていの場合は口頭での助言、注意喚起、要請にとどまり、記録も残されていないケースも少なくないようです。

 「悪質業者排除」を狙うなら、なぜ、環境省は全国の自治体から情報提供を求めて、悪質業者の状況をデータで示す努力をしてこなかったのでしょう。それが極論を引き起こし、議論を混乱させる原因の1つでもあると思います。

 年に複数回、立ち入り調査を受ける業者、施設の状況は?

 口頭で注意された業者の数、その内容は?

 書類送検された業者の数、その容疑内容は?

 立ち入り検査をするにあたって妨害はあるのか?

 環境省のネットワークを利用すれば、アンケート調査をすることは3日もあればできると思います。いまからでも遅くありません。是非調査をして、公表してはどうでしょう?

4、岡山県が採用している「目安」

 数値規制の導入例についても同様です。

 私は広島県のNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(広島県神石高原町、大西健丞代表理事)の保護犬事業(ピースワンコ)の問題点を検証しているうち、偶然、岡山県動物愛護センターが適正飼養の目安として「スタッフ1人あたり小型犬30頭まで」という目安を採用して、動物取扱業者の指導にあたっていることを知りました。

 すべての都道府県の調査はできていませんが、地方独自に「数値」の目安を導入しているところの実情も調査しておく必要があると思います。残念ながら環境省はそうした地方の取り組みを調査したことがないようです。

 岡山県の場合も新規登録する業者には効き目があるようですが、古くから営んでいる先には強制することが難しく、多少の超過も容認せざるを得ないということでした。それが「目安」にとどまる原因であり、限界でもあるわけですが、国の数値規制の導入にあたって参考になる情報がたくさんあるはずです。


 そして大きな問題点は、そもそも動物取扱業者がいったい、何頭の犬猫を飼養しているのかその実数を環境省が把握していないことです。これには正直なところ、驚きました。

 統計もないところに政策や規制はあり得ません。私は日本近海でのクロマグロの資源管理問題を長く取材して、水産庁の規制導入の動きを観察してきましたが、漁獲統計をまず整えてから、段階的に規制を導入してきたという経緯があります。

 スタッフあたりの頭数の規制をするなら、スタッフ数、頭数の状況を把握し、誰にでも閲覧できるよう公開したうえで議論を進める必要があったと思います。

 この点、10月7日の審議会で、ペット業界を代表する委員が環境省による業者の実態調査を求めたところ、動物行政に詳しい学者から「何をいまさら」とこっぴどく叱られていましたが、私はこうしたデータの不備をみると、業界にも環境省にも同じくらいの怠慢があったと思います。 (次回も統計について取り上げます) 

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