瀬戸内海「無人島」の町有地買い取り狙う~「借金漬け」ピースウィンズ・ジャパンに開発する資格はあるのだろうか?

1、PWJの観光部門NPOが本部を移転

 愛媛県上島町は人口およそ6500人、弓削町・生名村・岩城村・魚島村の4町村が合併して2004年に誕生した町です。

 NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)の観光・地域振興部門ともいうべきNPO法人瀬戸内アートプラットフォーム(大西健丞理事長)は最近、本部を神石高原町からこの愛媛県上島町に移しました。

 所轄官庁となった愛媛県男女参画・県民協働課によると、「主たる事務所」の場所を変更する定款変更認証申請を広島県経由で受理したのは4月17日でした。1カ月間縦覧したうえで、6月1日付で認証したということです。

 主たる事務所は「上島町弓削豊島42番地」です。広島県神石高原町は従たる事務所の所在地となりました。

2、NPO交付金を受け取る要件

 この引っ越しの背景にあるのは、PWJに対する「ふるさと納税」による支援が妥当なのかという2019年12月11日の上島町議会での質疑応答です。

上島町では、条例で町内に本部を置くNPOしか対象にできないことを明記していますが、なぜか町役場は広島県神石高原町に主たる事務所を置くPWJ、瀬戸内アートプラットフォームの2団体を支援対象として認定していたのです。

上島町ふるさと応援条例では支援対象を以下のように定めています。
(1) 「子供が元気なまちづくり」に関する事業
(2) 「人が元気なまちづくり」に関する事業
(3) 「生業が元気なまちづくり」に関する事業
(4) 町内自治会への支援
(5) 町内に主たる事務所を置く特定非営利活動法人の支援
(6) その他町長が必要と認める事業

 NPOの場合、「主たる事務所」を町内に置くことが要件になっていますが、町役場は(5)に準じる法人として扱い、ふるさと納税寄付から交付金を渡していました。これは明らかに条例の規定を逸脱しています。条例違反の公金支給ではありませんか?

 PWJグループの活動に懐疑的な寺下満憲町議(共産)の質問に対する町役場の中辻洋総務課長の答弁は苦しい、矛盾に満ちたものでした。

 「主管課である総務課としても疑義がございまして、団体の方に確認等行っております。協議を行いつつ、今のところは認定を続けている」

 疑義があるなら交付を取りやめるか、条例を改正して町外のNPOも認定対象にするか、どちらかだろうと思いますが、大西健丞氏を高く評価する町長の手前、厳しい措置をとりにくいようです。

 筆者は、町長が必要性を認めれば認定対象にできる(6)を適用すれば、問題が解決するのではないかと町役場に尋ねたこともあります。しかし、役場はあくまで(5)に準じた取り扱いにこだわり続けるのです。意地を張っているのでしょうか?

 地方自治は尊重したいと思いますが、条例の規定を強引にねじ曲げるような町政に対しては、国や県が是正を指導して欲しいと思います。このようなケースに接すると、地方自治体、指導者の側もまた地方分権を妨げる要因になっていることを感じざるを得ません。

3、PWJには「支部」設立を要請

 昨年12月時点で、瀬戸内アートプラットフォームは、町役場がある弓削島の南側、無人島の豊島(とよしま)で宿泊施設などを運営していましたが、あくまで「従たる事務所」でした。PWJは町営の「海の駅」の管理を受託したことはありますが、事務所はありませんでした。2020年度には「海の駅」の受託も返上しています。

 宮脇馨町長はせめて支部を作るようPWJに要請する考えを表明していました。以下が昨年12月11日の町議会答弁です。

 「活動の拠点を全国的に見ても、各支部で行っている部分というか、それを認定していただいている部分もございますので、上島町にも支部を開設する形で本格的に取り組んでほしいということは要請していこうと思っております」

 繰り返しますが、支部では条例の要件を満たせません。PWJを支援したいのなら条例上の扱いを「町長特認」とするか、町外に本部があるNPOも対象にするよう条例を改正するしかないはずなのです。

 そんな背景を考えれば、瀬戸内アートプラットフォームが本拠地を上島町に移すのは、「ふるさと納税」からの交付金を受け取りたいなら当然のことなのです。

 PWJの方はどうでしょう?引き続き広島県に主たる事務所を置き続けるようです。上島町役場に問い合わせたところ、所管の総務課からは以下のような回答が届きました。

 「町内での活動実績を鑑み、上島町ふるさと応援条例第2条第5号の町内に主たる事務所を置く特定非営利活動法人に準じるものとして支援対象としています。今後の支援については、引き続き団体と協議中です」

 まるでメンツにこだわるような町の対応をみていると、町役場の対応を待つより、交付金をもらおうとするPWJの大西健丞代表理事ら役員が上島町の条例をよく読み、ふるさと納税支援対象のNPOとしての登録を取り下げるのが手っ取り早いと思います。

 これまで町の条例の要件を満たさないのに公金である交付金を受け取っていることは明らかです。今後もそのような団体として登録し、交付金の受け取りを申請するのは法令順守が求められる認定NPOにふさわしくない行動です。この点は所轄官庁である広島県も事実関係をよく調べるべきだろうと思います。

4、旧豊島コミュニティセンター用地を有償譲渡

 ところで、もう一つ、上島町との関係で気がかりなのは、昨年、PWJが町から無償で払い下げを受けた旧・豊島コミュニティセンター建物に続いて、建物のある場所の土地も有償で払い下げられそうなことです。

 町役場によると、この建物は、研修等・宿泊棟・浴室棟の3棟から構成されています。同施設のために使用している町有地は31,480㎡もあり、現在はPWJに貸与中です。

 払い下げにあたっては「地域住民のコミュニティ活動及び町内外住民のアートを切り口とした交流の拠点となる施設用地として使用するもの」が条件になっていて、建物を町役場の同意なく転売できない取り決めになっているということです。

 土地の譲渡議案は6月16日開催の6月議会に上程する予定ということです。

5、ゲストハウスは旧村上ファンドに売却済み

 気がかりな理由は2つです。1つは、豊島事業を担当するPWJグループのNPO法人瀬戸内アートプラットフォームは所有していた豊島ゲストハウス(旧ヴィラ風の音)を2019年2月に投資家村上世彰氏の傘下企業に売却していて、NPOの活動自体、村上氏の同意と支援なしには展開しにくい状態にあると推定されることです。

 NPO瀬戸内アートプラットフォームは、上島町へのふるさと納税50万円以上の高額寄付者をゲストハウスに招待するというふるさと納税ビジネスを手がけ、町役場から交付金を受けてきました。

 

 設計事務所のサイトに全景写真(上)が掲載されています。PWJがドイツ人現代アーティスト、ゲルハルト・リヒターから寄贈を受けたガラス作品を一般に公開するための美術館も隣接していますが、思うように集客も進まずNPOは債務超過状態です。ゲストハウスを手放したのも財務内容の悪化が原因だと思われます。

 ちなみにリヒター作品は時価4億5千万円相当と評価されていて、2017年度に債務超過に陥ったPWJは鑑定評価を受けて、翌2018年度から資産に計上しています。PWJの債務超過解消はこの作品のおかげです。

 瀬戸内アートプラットフォームは、2019年度も資金繰りが厳しく、事実上開店休業という状態が長く続いていたようです。ゲストハウスを村上氏企業に売った後、PWJグループは豊島にどうかかわろうとしているのでしょう?

 もし、旧コミュニティセンターの土地を随意契約でPWJに売却するならば、今後、どのように利用する計画なのか、具体的な利用計画や資金繰りを確認する必要があるはずです。PWJや瀬戸内アートプラットフォームには、村上氏企業からの借り入れもあり、土地が旧コミュニティセンターの建物や土地が担保に提供されたりする恐れはないでしょうか?

6、目標未達の「ふるさと納税」募集

 2つ目の理由も、PWJグループの資金繰りに対する懸念に関連します。

 瀬戸内アートプラットフォームは2019年12月から2020年3月末まで上島町のふるさと納税を利用して「海の道の現代アートプロジェクト」のための200万円の寄付を募りましたが、実績はわずか112万円(寄付者12人)という惨憺たる結果でした。

 この事業の目標は、以下の通りです。

 2020年 リヒター作品の一般公開、土地購入・ライブラリー設計、改装資金の調達、ライブラリー着工

 2021年 ライブラリー完成・開館、記念セミナー開催

 2022年 アーティストの招へいと創作活動支援(以後も継続)

 ライブラリーは「1980年代以降の主要な展覧会のカタログ、作家の作品集などを収蔵・公開する予定」ということです。

 計画は「資金調達の状況によって変わることがあります」ということになっていますが、寄付集めが目標に満たなかったことでどんな影響が生じているかの説明はありません。PWJグループの「ふるさと納税」では保護犬(ピースワンコ)がよく知られていますが、それ以外にもたくさんのふるさと納税を利用した資金調達を試みていて、その多くが目標未達に終わっています。

 瀬戸内アートプラットフォームは債務超過状態にあり、貸付などで支援しているPWJも一時は債務超過に陥ったことがあり、決して資金力が豊富な団体ではありません。

 PWJは2020年1月末現在出15億円も負債を抱えていて、上島町の旧コミュニティセンターの土地を買い取って、果たしてどんな設備投資ができるのでしょう?

 神石高原町や上島町で2020年を目標に開校させるといっていた「ピースワラベ」国際学校も今のところ開校のメドは立っていないようです。ふるさと納税という公金を利用していながら、PWJグループの事業計画や資金計画はあやふやに過ぎるようです。

 また、団体の資金力が乏しい以上、PWJに対する大口債権者であり、実質的なスポンサーである村上世彰氏のグループ企業がどこまでPWJを支援する用意があるのかを確かめる必要もあるでしょう。


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