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謎解き「大間まぐろ」④漁業法違反の出荷業者は川崎北部市場にも出荷していた!

 ヤミ漁獲されたクロマグロを大量出荷して漁業法違反で逮捕、起訴されている青森県大間町の仲買業者2社のうち最北水産が、神奈川県の川崎市中央卸売市場北部市場にクロマグロを出荷していたことが明らかになりました。

 販売を取り扱った川崎北部市場の卸売業者はこのクロマグロは国が設定した漁獲枠内のものかどうかを「確認はしておりません」(横浜魚類川崎北部支社)ということです。卸売会社としてとても残念な対応です。

 大間産クロマグロの不正流通量として青森県農林水産部は昨年8月、2021年度分として約60トンと公表していました。

 しかし、今年2月に出荷業者2人を逮捕した青森県警の捜査では、同年度分として約98トンが確認されています。

 水産庁と青森県が把握した数量が県警把握分の3分の2にも満たない状況で、川崎北部市場への出荷分の把握漏れがその原因の一つではないかと思われます。


2020年度は日本沿岸でマグロが大量にとれるようになった時期です。

 川崎市の北部市場業務課によると、同市場への青森県産クロマグロの出荷量は2020年度、2021年度にそれぞれ11トン台へと急増していました。2018、19年度は1トン前後、2022年度の実績はわずか630キログラム(0.63トン)です。東京と横浜に挟まれた限られた商圏しかない北部市場にとって、11トンもの出荷は異例ともいえる大きな数量なのです。

 このうち「大間産」のクロマグロがどのくらいあったかは、「販売原票の産地欄は都道府県名までの記載になっているため、すべての大間産クロマグロの数量を集計することが難しい状況」(北部市場業務課)ということです。

 しかし、出荷業者を絞って集計すればおおよそ把握できるはずで、面倒な調査を避けているだけだと感じます。

 筆者が北部市場に2社ある水産卸会社に問い合わせた結果、大間の業者と取引があったのはの2社のうち横浜魚類であることがわかりました。同社の説明によると大間の業者から出荷された青森県産のクロマグロは2019年度283キログラム、20年度約3.9トン、21年度約3トン、22年度210キログラムでした。

 北部市場での青森県産クロマグロのおよそ3分の1程度の数量ですが、それらが漁業者の漁獲実績として青森県に報告され、認められた漁獲枠内のものであるかどうか、横浜魚類としては確認していない状況です。

 「漁獲枠内のマグロかそうでないものかを確認するルールが無いため産地への確認はしておりません。同様に産地証明書についても取得しなければならないというルールが無いため取り寄せておりません」(横浜魚類川崎北部支社)

 ふだんでも産地証明を求めれば出荷業者は発行していました。しかし、それはただの紙切れで、水揚げ場所を確認できたり、漁獲枠内で合法的に獲れたことを裏付けたりできるものではありませんでした。

 大間マグロが大量に不正出荷されていた静岡市中央卸売市場では、2019年度以降、不正が発覚した21年8月までの間に青森県産のクロマグロが約130トン出荷され、そのうちなんと約120トン分は「ぶり」「その他鮮魚」と品名を偽って取引されていました。

 月別にみて最も多かったのは不正流通発覚直前の2022年8月で、統計上781キログラムの取り扱いしかないとされていた青森県産クロマグロの実際の取引量は約31.5トンに上っていました。

 あきれるほどデタラメな取引が静岡市が開設した中央卸売市場で繰り広げられていて、しかも魚種を偽るだけでは何の罪にも問われないという卸売市場の現実も世間にさらされました。

 筆者は昨年6月17日に業界専門紙「日刊水産経済新聞」でその事実を詳細なデータとともに報道しました。それを契機に青森県警は捜査を本格的に始めたもようです。水産庁は詳細な事実関係を静岡市から受けていたにもかかわらず、青森県や県警にその内容を伝えていなかったようです。

 川崎市は筆者による昨年5月19日付のダイヤモンド・オンライン記事「『大間まぐろ』崩壊の危機、最高級ブランドの2つの闇のメスで大揺れ」を受けて、同月26日の関係者会議で大間まぐろの取り扱いについては十分注意を払うよう業者に促していたそうです。

 その後、静岡市場で魚種偽装が表面化しても川崎市は北部市場内でのクロマグロ取引データの再確認をしていません。注意喚起だけして体裁をとり繕い、真相を解明するための調査を怠っていると私は思います。

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