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広島県動物愛護センターは「共犯者」~ピースワンコの狂犬病予防法違反から2年


1、「忖度」か「後ろめたさ」か?

 2018年6月21日。ちょうど2年前のこの日、広島県警は狂犬病予防法違反容疑でNPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)の事務所など関係先を家宅捜索しました。

 その後、県警が書類送検、検察は不起訴(起訴猶予)処分としましたが、PWJの大西代表らは容疑事実を認め、広島県に再発防止策も約束させられました。

 しかし、大きな疑問が残りました。なぜ、広島県動物愛護センターが、年間千頭以上も引き渡す譲渡先の不始末を見過ごしてしまったのか、という点です。

 私は今回、もう一度、広島県が開示した行政文書を読み返し、プロセスを検証してみました。そして、広島県動物愛護センターは、PWJの狂犬病予防法違反など法令違反に関しては「共犯者」だったのだと確信しました。

 譲渡後の犬がどのように扱われているかフォローすべき立場にある県愛護センターは十分な監視を怠っていたのです。県は見て見ぬふりをしていたことを全面的に否定します。

 しかし、経過を調べれば調べるほど、意図して見逃していたのかもしれないと思えてきます。

 広島県愛護センター職員が歴代引き継いでる「団体等譲渡施設監視台帳」には、いつだれが施設を立ち入り調査したかが記録されています。

 情報公開請求で入手したその文書を読むと、2017年5月12日以降半年余り、PWJの施設への立ち入り調査や監視を行っていないことがわかります。

 週刊誌でPWJのピースワンコ(保護犬事業)のシェルター(犬舎)の劣悪な飼養環境が暴露され、そして、それにも関わらず例年にない大量引き渡しが行われた時期でした。立ち入り調査の頻度を上げるならともかく、逆に県愛護センターは立ち入り調査を減らしているのです。

 「殺処分ゼロ」を実現したと宣伝して「ふるさと納税」などで巨額の寄付を集めるPWJトップと県知事の親しい関係を忖度したのでしょうか?

 それとも、受け入れ能力を十分に確かめもせず殺処分されそうな収容犬をPWJに丸投げした後ろめたさからでしょうか?

 以下、湯崎英彦広島県知事記者会見の「想定問答集」などその後開示された大量の行政文書も使って、PWJに対する県警捜査の前後の出来事を時系列にそって整理し、発表当時にはわからなかった事件の真相を浮かび上がらせてみようと思います。

2、立ち入り調査、半年間の空白

  2017年の出来事

1月11日 PWJのスコラ犬舎(神石高原町)に立ち入り調査
3月30日 PWJのスコラ犬舎に立ち入り調査
5月10日 週刊新潮5月18日号「偽善の履歴書」を掲載
5月12日 県動物愛護センターがピースワンコ(本部犬舎)を立ち入り調査
「概ね適正」と判断
6月13日 県健康福祉局長、医療・がん対策部長らがピースワンコ施設を視察、大西PWJ代表理事らとも意見交換
11月27日 愛護センター、スコラ高原(スコラ犬舎)を監視
12月26日 愛護センターが電話で口頭指導
    「狂犬病予防法登録、注射の徹底。鑑札及び注射済票の装着」
12月29日 PWJ職員が県医療・がん対策部長に電子メールで相談
12月30日 部長が部下に「検討してみてください」と指示

 2017年度の動きをご覧いただくとおわかりのように、新年度入り後初めての県動物愛護センターによるPWJの犬舎への立ち入り調査が行われた後、2回目調査(11月27日)まで半年余りの空白期間があります。

 ふだんの年ならそれでもよかったのかもしれません。しかし、その頃、PWJの保護犬活動(ピースワンコ)は動物愛護関係者の間で劣悪な飼養環境に対する懸念の声が大きくなっていた時期です。

 5月10日に週刊新潮が「犬『殺処分ゼロ』でふるさと納税をかき集める『NPO』偽善の履歴書」を掲載し、動物愛護関係者や犬好きに衝撃を与えました。広島県庁でも「ふるさと納税」を担当する税務課が動物愛護担当の食品生活衛生課や神石高原町役場に事実関係の確認や影響を聞き取るなど波紋は様々な方面に広がりました。

 翌年6月の県警捜査後にPWJが自ら公表したことですが、県愛護センターなどから引き取り、保護した犬の数は2016年度1400頭、2017年度はそれをさらに上回る1800頭にも及んでいました。

 「月に100-150頭という、想定を超える引き取りへの対応に追われ、一部の犬の狂犬病予防注射が一時的に追いつかない状況が発生しました」(2018年6月25日付の「ピースワンコからのお知らせ」より抜粋)

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 ピースワンコのシェルターで深刻な事態が発生していたのです。

3、県職員「ショールーム」を賞賛

 監督する立場にある広島県動物愛護センターの当時の対応はどうだったでしょうか?

 週刊新潮が発行された直後、5月12日に県動物愛護センターは職員をPWJのピースワンコ本部に派遣し、立ち入り調査をしましたが、現地滞在はわずか2時間余りでした。

 調査結果をまとめた報告を読んでも、「犬舎の広さに対し十分に余裕を持った頭数」「各犬舎とも衛生的に管理され、十分な清掃が実施されていた」「(子犬を飼養する)ティアハイムは床暖房、他はエアコン」など充実した施設を賞賛することばであふれています。

 この時は過密収容や鳴き声、糞尿処理などの公害が問題になっているスコラ高原の犬舎にはいかなかったようです。愛護センター職員らはわざわざ見学者をいつでも受け入れる本部のショールームを見せてもらって、それを賞賛するばかりなのです。

 大量の犬の引き受けで、登録や狂犬病予防接種がマヒ状態にあることに本当に気が付かなったとすれば、動物愛護センター指導課の存在意義が疑われてしまいます。気づいていても「狂犬病予防法対応は町役場の仕事」だと知らぬふりを装っていたのでしょう。狂犬病予防法違反について問うと、愛護センター幹部たちはいつもそう言い逃れるのです。

 この立ち入り調査の目的は2つあったと私は推測しています。1つは、ピースワンコの優れた点だけを報告して、「週刊新潮」の報道を機に県庁内でPWJやその監督・指導を担当する動物愛護センターに対する批判を防ぐ狙いです。

 もう1つは6月13日に日帰りで行われた菊間秀樹健康福祉局長ら動物愛護を担当する県庁の大幹部ら一行のピースワンコ視察の下準備です。動物愛護団体の施設を局長、部長、担当課長、愛護センター所長らが一緒に訪問することなど異例中の異例、おそらく最初で最後のことだろうと思います。

 局長ら一行はピースワンコ本部やスコラ犬舎に4時間滞在し、同じようにドッグランやエアコン付き犬舎を視察、両者が連携を密にして動物愛護活動を進めることを確認しています。

4、批判を「やっかみ」という県職員

 当然、動物愛護団体や専門家から広島県動物愛護センターにピースワンコの実情を心配する声がたくさん届いていました。

 私もその年の3月頃、当時勤務していた日本経済新聞社が発行している「日経グローカル」が特集する動物愛護問題の取材を進めていたところ、PWJ犬舎でパルボウィルス感染症が蔓延しているという情報や、収容頭数も急増して過密状態になっていて、不妊去勢手術をしない主義のピースワンコの施設内では繁殖や虐待が起きているという噂を聞きました。

 そうした噂を耳にしたのは熊本市や高松市への取材旅行に出る直前だったため、じっくり取材する時間はとれませんでしたが、旅行の途中に神石高原町に立ち寄り、PWJ職員の立ち合いのもとピースワンコ本部の犬舎やドッグランなどを見学させてもらいました。

 発情期のメスを隔離しているという小屋は犬たちが興奮するという理由で断られ、帝釈峡に近いスコラ高原にある大きな犬舎の見学も移動に数十分かかるという理由で断られました。

 スコラ犬舎には犬の逸走や鳴き声をめぐるトラブルをよく知る地元の知人が車で連れて行ってくれましたが、通りから犬舎を眺めるだけでは保護犬がどのように扱われているのかの確認は困難でした。

 三原市にある広島県動物愛護センターには電話で状況を問い合わせましたが、ピースワンコ施設の調査を担当している指導課の幹部職員から、PWJ批判は「寄付金をたくさん集めるピースワンコへの他の愛護団体のやっかみ」であるかのような説明を聞かされ、愛護センターとPWJの癒着を疑いました。

 その職員は「あなたは新聞記者なのに愛護団体みたいな見方をする」とも言うので、愛護センターはもっと中立、公平な立場で外部からの意見や情報提供に耳を傾けてほしいと所長に申し入れたほどです。

5、県部長、「告発」より「相談」を指示

 「松岡さん、中村さん、ちょっと検討してみて下さい 田中」

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 2017年12月30日午前2時16分、当時の田中剛医療・がん対策部長(現・健康福祉局長)はそんなメモを電子メールで部下の食品生活衛生課長らに伝えました。前日29日にピースウィンズ・ジャパン(PWJ)職員から送られてきた相談メールの内容もそのまま転送されています。

 PWJ職員からのメールは、狂犬病予防法で義務付けられた犬の登録や予防注射が出来ていないこと、そしてそれについて「ある人」が「ピースワンコが狂犬病予防法に違反している」と警察などに電話をしている、という打ち明け話です。

 地元の神石高原町とも相談しながら早急に対応していくつもりなので、県も相談に乗って欲しいという内容でした。

 PWJから相談を受けた田中剛氏にはいくつかの選択肢があったはずです。

 1番好ましいのは、PWJの職員の申し入れを突き返し、愛護センター指導課長と面談するように指示することです。犬の保護団体の窓口は県動物愛護センター指導課ですし、そもそも相談の3日前に愛護センターの担当職員から口頭指導を受けているからです。

 2番目は、部下たちに法令違反の事実を詳しく調べさせ、警察に告発するよう指示することです。

 しかし、彼は、違反状態を解消するから見逃して欲しい、協力して欲しい、と言わんばかりのPWJの「相談」にのるよう部下に指示したのでした。

6、PWJはなぜ部長にメールしたのか?

 ところで、なぜ、PWJ職員は動物愛護センターも食品生活衛生課長も通り越して、ふだんなら会うこともないはずの医療・がん対策部長に直訴するメールを送ったのでしょう?

 部長も健康福祉局長のお供として2017年6月にピースワンコ施設を訪問して、大西健丞代表理事らPWJ幹部との話し合いに参加しており、PWJ職員と面識があったのは確かですが、それなら部下の課長級の幹部への連絡でもよかったはずです。役所は肩書きで仕事をしますので、釣り合う相手は課長かグループリーダーでしょう。
 
 田中剛氏は厚生労働省からの出向者で広島県の部長就任以前から大西PWJ代表理事らと親しい関係にありました。

 以前、広島県に問い合わせたところ「個人的な交遊関係いついてはコメントしない」という趣旨の回答が返ってきました。当然、PWJに便宜を図ったことも否定されることでしょう。

 しかし、PWJ職員の側には大西代表理事の知人で、将来は健康福祉局長になる可能性もある田中氏に頼めば、狂犬病予防法違反での告発を回避できるという期待があったのではないでしょうか?

 2017年12月26日、県動物愛護センターはPWJに狂犬病予防法が求める予防接種などを徹底するようPWJを口頭で指導しています。

 監視台帳には「telにて」と書かれているので、三原市にある動物愛護センター事務所から電話で伝えたものとみられます。

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 同センターは立ち入り調査の際、指導票を書いて渡すはずですから電話での言い渡しは異例です。タイミングも唐突です。

 私はこれまで、現場の動物愛護センター職員が口頭で是正するようPWJ/ピースワンコに指導しているのに、PWJ側がいきなり部長に善処を求めるなど「考え違いも甚だしいものだな」と思っていました。

 しかし、あらためて情報を整理してみると、PWJを警察に告発をすれば自分たちも非難されることを恐れた県動物愛護センターが、PWJ職員と示し合わせて、部長からのトップダウンで話し合いによる告発封じの道を考えた工作だったのかもしれませんね。あくまで推測なのですが、そう考えると、唐突感のある電話での口頭指導も理解できるような気がします。

7、些細な違反だったのか?

 法令違反に関してPWJが釈明するときの特徴が、2017年12月29日付の田中剛部長宛メールの文面にもよく表れています。

「保護犬1頭1頭に鑑札や注射済票が付いていない、という指摘です」

「行政の方には冷静にご対応いただいていますが、引き取り数が相変わらず多く、その世話に必死の状況で、登録や注射が追い付いていないのは事実です」

 自分たちは社会的な意義のある「大きな目標」に向かって一生懸命に努力しているのだが、必要以上に「細かいところ」に目を向けて難癖をつける人がいる、助けてほしい、理解して欲しい、という言い方です。

 狂犬病予防注射を受けていない犬は少なくありません。保健所や動物愛護センターが注意深く調査をすれば、鑑札や注射済票をつけていない犬は簡単に見つけることができるでしょう。どうして、こんな些細なことでPWJだけが非難されたり、警察に告発すると脅されたりしなければならないのか、と言いたげです。

 身勝手というほかありません。PWJは動物取扱業の登録、届出をしているプロフェッショナルです。専門家も雇い、犬を大切に保護すると約束しているから広島県など各地の動物愛護センターから犬を引き取ることができるのです。プロだからこそ個人の飼い主らより責任を強く問われるということを理解していないのです。

 ピースワンコは狂犬病予防法違反で捜査を受けた頃に発表した声明で以下のように書いています。

 

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「一時的とはいえ保護犬の一部について狂犬病予防注射が遅れていたことは、私たちの力不足です。その点は真摯に反省し、今後そうしたことがないよう、接種作業やデータ管理のシステム化をさらに進め、適時・適切な接種の徹底に努めていきたいと考えています」(2018年6月25日、ピースワンコからのお知らせ「狂犬病予防注射に関する現在の対応について」)

 2018年11月に広島県警がPWJを狂犬病予防法違反で書類送検した時の容疑も「犬25頭に予防注射を打たせなかった」などの内容でした。

 しかし、これがすべてというわけではありません。広島県の集計によると、ピースワンコが1800頭を引き取った2017年度の神石高原町の犬の登録申請はわずか777件で、予防注射済票交付件数も前年度と比べて1千件あまりしか増えていませんでした。

 翌2018年度は犬の登録申請が2101件、注射済票にいたっては4517件と激増していて、事後的に法令違反状態を解消しようと躍起になった様子が手に取るようにわかります。

 データから推測すると、2017年度に引き取った犬の半数以上が予防注射未接種、登録漏れだったのではないでしょうか?広島県やPWJには、事後的に補正した違反は何件くらいあったのか是非公表して欲しいと思います。

 ピースワンコと広島県は、法令違反を犯すくらいなら譲渡を止めるという選択肢を検討すべきでした。「殺処分ゼロ」が崩れれば寄付金が集まらなくなるということを恐れて、法令違反を放置していたのでは無いでしょうか。

 法令違反が許される、または言い訳を聞いてもらえると考えているとすれば、それはピースワンコの甘えであり、独善です。ガバナンスの感覚が欠如しているのが、PWJというNPOの欠点ではないかと私は思っています。

 ピースワンコから保護犬が全国に運び出されることを考えると、狂犬病予防システムを破壊しかねない不祥事だったのではないでしょうか。

8、県が隠した法令違反、県警が暴く

2018年の出来事

1月 9日 愛護センター、PWJに再度口頭で指導
  県、予防接種に地域獣医師の協力求めるようPWJに助言(日付不明)
1月29日 県健康福祉局、動物愛護センター移転整備の論点メモ作成
1月31日 PWJ、4991万円の債務超過に転落(2018年1月期)
 5月 1日 県医療・がん対策部長らが大西PWJ代表理事らと協議(神石高原町)
5月2日 県、PWJの要望への対応案を作成
6月21日 広島県警、PWJ関係先を家宅捜索(狂犬病予防法違反容疑など)
    神石高原町副町長が県警捜査開始を電話で県に報告
6月25日 副知事に対応状況を報告「町との合同調査を予定」
6月27日 県議会生活福祉保健委員会で事件を報告
    「直近では5月に立入を実施して確認」と報告
6月28日 県、神石高原町と共同でPWJを立ち入り調査
     狂犬病予防注射の全頭実施、再発防止策を確認
     飼養管理、衛生管理等も問題なしと確認
6月28日 県が知事記者会見に備え想定問答作成
    「譲渡後の犬に県の責任はない」
    「(2017年)12月に連絡を受け、対応を協議した」と記載
6月30日 PWJが狂犬病予防注射の対応状況を公表
    「現時点では2018年度分の予防注射を済ませている」と発表
7月2日 大西PWJ代表理事が知事あてに再発防止策を文書で提出
7月3日 湯崎英彦広島県知事の記者会見
11月20日 広島県警がPWJと代表らを狂犬病予防法違反で書類送検
11月26日 日本の保護犬猫の未来を考えるネットワーク
     動物愛護管理法違反の疑いでPWJを広島県警に告発

 PWJ幹部は2017年末、狂犬病予防法や動物愛護問題を所管する県庁部長に直接、法令違反への対応策について相談したいと持ちかけました。

 県側はそれを受け入れ、2018年1月から法令違反を解消し、再発を防ぐ仕組みづくりについてPWJと協議を続けました。最初に県がアドバイスしたのは、狂犬病予防法違反の状態を解消するよう地域の獣医師にも協力を求めることでした。

 以後、広島県警が6月21日朝、神石高原町にあるPWJの関係先を急襲するまで、県庁内ではPWJを狂犬病予防法違反で告発する声は一切出ていません。補助金を与えて助けようとまでは考えない半面、2017年度から積み残されている狂犬病予防法に基づく登録や予防接種などが事後的にでも完了すれば責任を問わない方向で議論が進んでいたようです。

 解決したら公表すらしなかったことでしょう。しかし、県とPWJが隠し続けていた狂犬病予防法違反の事実を広島県警が暴いたのです。6月中には法令違反状態を解消できると思っていた県とPWJにとっては、あと少しというところで県警が捜査を始めたのは誤算だったのではないでしょうか。

9、県、PWJの費用分担要求は拒否

 行政文書で県とPWJとの協議の様子がはっきりと確認できるのは2018年5月1日になってからですが、その時点では論点がかなり整理されています。1月以降、県食品生活衛生課、動物愛護センターとPWJの間で水面下の話し合いが続いていたに違いありません。

 5月1日の県とPWJの協議は、神石高原町のPWJ事務所で行われています。これも異例のことですが、県からは医療・がん対策部長以下の関係幹部、PWJからは大西健丞代表理事らが出席しました。

 問題を起こしたNPOを救う協議なのにわざわざ神石高原町に出向く県庁幹部たちには「ご苦労様」と言いたくなります。

 協議記録をみると、PWJは自分たちが引き取る犬の頭数が想定より多くなっていることの責任が県による個人向け譲渡の努力が足りないからだと批判したり、その延長だろうと思いますが、狂犬病予防法の登録や予防接種にかかる費用負担の軽減、補助金なども求めたりしています。

 2017年度、PWJは債務超過に陥るなど最悪の経営状態でしたから助成金が欲しくてたまらなかったはずですが、ピースワンコ部門自体は寄付金が好調で潤沢な余剰資金を持っているはずですからまず自己資金を使うべきです。

 県側は費用の分担や補助に関しては、予算上の制約や他の団体とのバランスから受け入れを拒みました。

10、保護犬の活動、情報公開が必要

 翌5月2日には、PWJとの協議結果を踏まえて、副知事が主催する会議まで開かれています。ここでは健康福祉局が「PWJが対応不能になれば殺処分も検討する必要が出てくるかもしれない。そうならないために他の愛護団体に対するアプローチを行う」という考えを明らかにしています。

 副知事主催の会議では、団体別の県からの犬の譲渡数の推移など一般には公開しないデータも参考にしながら、PWJに代わる団体譲渡先として滋賀県の動物愛護団体エンジェルスの名前が具体的に上がって議論されました。

 副知事は「今後接触する団体が実際どれくらいの犬猫を引き取ることができるのか、具体的な数を確認すること。あいまいな確認のまま、その場しのぎで譲渡を行っても継続的ではない」と指示しました。
 
 会議終了後に知事にもその結果は報告され、知事は「PWJへの引き渡し頭数を抑制する方向性はこれでよい」と述べています。

 PWJの不始末を告発しないものの、補助金を出してまで支援するつもりはないし、他の団体が引き取りを増やせないなら殺処分再開もやむを得ないというのが広島県の考え方のようです。

 本来なら「殺処分ゼロ」を言い出したばかりに保護された野良犬や捨て犬の扱いに無理が生じたかは隠さずに公表して、そのリスクについて寄付をする人、ペットを飼いたいと思う人たちにもわかってもらう必要があるはずです。

 ピースワンコの狂犬病予防法違反は、隔離するシェルターを山奥に作るだけでは問題は解決しないということを教えてくれています。

 「殺処分ゼロ」はあくまで結果です。寄付金を集めるための約束として掲げるような目標ではないはずです。

 野良犬の捕獲や不妊去勢、新しい飼い主への地道な譲渡活動などが欠かせません。動物愛護センターが自らクラウド・ファンディングなど資金調達をして施設やボランティアとの連携のネットワークを整え、譲渡活動を活発にしていく必要もあるかもしれません。

 どんな団体が、どこから資金を集めて、どんな活動をしているのか。

 保護した犬猫を譲渡する動物愛護センターや、「ふるさと納税」などで動物愛護団体が集めた寄付金の使われ方から法令順守状況まで、もっともっと情報が公開されること望みます。          (終)

11、知事記者会見と想定問答資料

 最後に狂犬病予防法違反容疑でPWJ/ピースワンコが広島県警の捜査を受けた後の湯崎英彦広島県知事の実際の記者会見の記録(2018年7月3日)と、その前に担当の食品生活衛生課が作成した想定問答資料を全文掲げておきます。相当大規模な狂犬病予防法違反だったはずなのに、広島県がそれを矮小化して県の責任を回避したり、PWJをかばったりする様子がよくわかります。

(幹事社:産経新聞)
 神石高原町で犬の保護に取り組むNPO法人が、狂犬病予防注射を一時的にしていないことが報道されました。犬の譲渡対象団体として同法人を指導する立場にある県の再発防止策と、知事の受け止めをお聞かせください。

(答)
 まずPWJ(以下、PWJ)はこれまで、動物愛護センターから多くの犬の譲渡を受けていただいている団体でありまして、これまでの取組に対しては評価しているところです。しかしながら、狂犬病予防注射の接種の遅れで警察から捜査を受けたということは、残念なことだと思っています。

警察が捜査に入ったということから、6月21日木曜日からPWJへの譲渡は一時的に見合わせをしています。28日に神石高原町と一緒に、動物愛護及び管理に関する法律に基づく立入調査をさせていただいて、その結果、調査時点では、狂犬病予防注射が適切に実施されて、法令違反は解消されていたということが確認されております。

また、今後の再発防止策についても適切に講じられていること、それから、犬の飼養管理の状況であるとか、あるいは、施設の衛生管理の状況等も調査いたしまして、特段の問題はなかったということであります。したがって、本日から、あらためてPWJへの譲渡を再開したいと考えています。

再発防止ですけれども、まず、PWJにおきまして、狂犬病予防注射を実施する獣医師が確保できているということと、それから狂犬病予防注射の定期接種期間であります4月から6月に、十分に実施可能な計画が策定されているということの2点を確認しているところでありまして、県としては、県民の安全・安心を確保するためにも、狂犬病予防注射を含めた譲渡後の状況確認を十分に行って、神石高原町とも連携しながら必要に応じた対応をとってまいりたいと考えています。

県民の皆さまには、動物の命の大切さを、あらためてお考えいただきたいと思っています。PWJに譲渡しているのは、県の動物愛護センターに収容された野良犬、あるいはその子犬でありまして、野良犬を繁殖させないようご協力いただければと思っています。具体的には、飼っている犬は絶対に捨てないでほしいということと、野良犬に無責任にエサを与えないでほしいということと、飼犬には必要に応じて不妊去勢手術をするといったことを徹底していただければと考えているところであります。

(幹事社:産経新聞)
この件について、質問がある社はお願いします。

(中国新聞)
 中国新聞です。本日から(譲渡を)再開されるということだったのですけれども、さまざまな再発防止の、今、お話もいただいたのですけれども、根本的にと言うか、(動物愛護)センターから、かなりの数の犬が、今、PWJの方に行っていると思うのですけれども、その状況をまず県知事としては、年間、千を超える数が(動物愛護センターに)行っているかと思うのですけれども、そこを、まず、どう捉えていらっしゃるかというところと、持ち込みを減らすということで、(県民の皆さまへのお願いを)今、いくつか挙げていただいたのですけれども、なかなか、これまでも言われてきたことかと思うのですけれども。繁殖のことであるとか、「動物を大事に」ということは。(しかしながら、)なかなか減らないということが(実態として)あるのですけれども、そこを何か、新たな一手というか、そういったものが、あるものかどうかというのをお願いできますか。

(答)
 まず、ピースウィンズに譲渡を始めて、譲渡数も増えておりまして、これ(譲渡数が増えたのに)は、いろんな理由があるのですけれども、ただ、現状では想定よりちょっと(譲渡数が)多くなっているのですが、一定、かなりの数を引き取っていただくということは、ピースウィンズもご了解の上で進めていることです。(それ)で、ほとんどが野良犬でありまして、野良犬を増やさないためには、やはり繁殖を抑えると(いうことが大事で)、そのためには、早く(野良犬を)捕獲して、繁殖させないということが一つの方策であると思っていまして、今、県でも、新しい譲渡センターを。(事務方に向かって)譲渡センター(という呼び方)で良いのでしたか。

(事務方)
 はい。

(答)
 譲渡センター(の設置)を計画していますけれども、そういった対応も含めて、譲渡の(受け入れ先を増やす)努力を(行い、受け入れられる数を)増やしていく、それから、野良犬の捕獲を進めることによって数自体を減らしていく、それによってピースウィンズも安定的な受入れと運営ができるようにするというようなことを進めていきたいと思っています。

(幹事社:産経新聞)
 他に質問がある社はお願いします。

(中国新聞)
 2点ほど。一つは今回、狂犬病の注射の案件が発生した背景に、どういった原因があると知事はお考えになっているのでしょうか。

(答)
 これは、かなりはっきりしていまして、想定数以上の譲渡、つまり想定数以上の収容も含めてあったということと、それから、そういう中で感染症がピースウィンズの犬舎の中であって、そこに先方の獣医師が対応を集中しなければいけないという状況が一時的に発生して、その間、注射が結果として滞るという事態が起きたということです。それについては、(県側も)相談もいただいて、地域の開業されている獣医師の皆さんにご協力を依頼するように助言したりであるとか、結果として、今、協力を得られているのですけれども、県としても、他団体に譲渡するように(働きかけるなど)、これはなかなかうまくいっていないのですけれども、そういったことをやってきたわけでありますが、結果として、(予防接種の)遅れが取り戻せない状況というのが、一定程度続いて、今は、それは解消しているのですけれども、そういうことがあったということであります。

(中国新聞)
 それともう1点。PWJの大西代表理事と知事もご面識があると思うのですけれども、今回の件を受けて、何らか代表と話されたり、要請されたりということはないのでしょうか。

(答)
 大西さんとは立ち話的な、たまたま空港で会って、立ち話的なことはありましたけれども、詳しくは担当の方がやりとりをさせていただいていたということです。

県庁作成想定問答(情報公開請求により開示)

(問)ピースウィンズ・ジャパン(以下PWJ)の法令違反について、県に責任はないのか。
(答)譲渡後の犬については、法的に県に責任はないが、多数の犬を譲渡しているため、県としても狂犬病予防接種を含めた譲渡後の状況確認等を十分に行い、町とも連携して対応してきた。

(問)PWJのホームページに「広島県に対しても予防接種が追いつかない状況を隠すことなく説明し、具体的な対応を協議してきた」とあるが、県はこのような状況を知っていたのか。
(答)平成29年12月にPWJから、想定以上の頭数があったことや施設内で感染症の発生があり、獣医師が注射できないなどの状況のため、狂犬病予防注射が遅れているとの連絡があり、その対応について協議を行った。
 平成30年1月に、まずは、地域の開業獣医師等に協力を依頼するように助言した。(また、県としては、他団体への譲渡促進もお願いしていた。)
 直近では5月1日(火)に施設の飼養条項の調査を行っており、狂犬病予防注射の記録(カルテ)や注射済票等により、取り組みの進捗を確認した。PWJからは、対象の全ての犬について、6月末までに、狂犬病予防注射の接種を済ませる旨の説明を受けた。

(問)PWJに譲渡してきたことに問題はなかったのか。
(答)PWJへの譲渡については、飼養環境等を確認しながら実施してきており、また、PWJから狂犬病予防注射の遅れの相談を受けた時には助言を行っていたが、結果的にこのような事態になったことは県としても反省しなければならない。

(問)PWJへの犬の譲渡ができない場合の対策はどのように考えていたのか。殺処分を再開するつもりであったのか。
(答)動物愛護センターの収容上限に達した場合には、殺処分の再開もやむを得ないと考えていた。それを避けるため、個人の方などへの譲渡を拡大するよう努力していた。
(問)なぜ譲渡を見合わせたことを公表しなかったのか。
(答)譲渡の一時見合わせや再開は通常の業務の中で執行しているものであり、その都度県から現地調査の結果や判断を公表するということはない。報道機関等から取材があれば、事実を回答していた。
(問)6月28日(木)の立入調査では具体的にどのようなことを実施したのか。
(答)現在の収容頭数を確認(約■黒塗り■頭)した。また、パソコンによる個体管理の状況、狂犬病予防注射の記録(カルテ)や保管してある注射済票の実物等を確認した。さらに、神石高原町が狂犬病予防注射台帳とPWJの記録を突合するなどした。

(問)6月28日(木)はどのような目的で調査したのか。
(答)県は、動物愛護管理法に基づき、飼育管理の状況等を改めて確認するために調査を行った(町は、狂犬病予防法に関する確認・指導を行った。)。

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(答)■■黒塗り■■

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(答)■■黒塗り■■ (※■■黒塗り■■)

(問)PWJのホームページに「『殺処分ゼロ』を維持するためには、啓発を含めた自治体の包括的な協力が不可欠であり、広島県などの関係自治体と緊密に連携しながら活動を続けていく所存です」とあるが、県として具体的に何をするのか。
(答)県動物愛護センターに収容されるのは、ほとんどが野良犬かその子犬であるため、野良犬を増やさないことが重要である。
 このため、
 ・犬を捨てないこと
 ・野良犬に無責任にエサを与えないこと
 ・野良犬の繁殖に関与させないために飼犬には、必要に応じて不妊去勢手術をすること
 等を徹底していく必要があり、これらの啓発をさらに強化していく必要があると考えている。
 また、併せて、個人や団体等の譲渡協力先の拡大等を進めていく必要があると考えている。

(問)PWJのホームページに「月に100-150頭という、想定をはるかに超える引き取りへの対応に追われ、一部の犬の狂犬病予防接種が一時的に追いつかない状況が発生」したとある。PWJがこのように多くの犬をひきとっているおかげで、「殺処分ゼロ」が保たれている状況を踏まえ、予防接種の実施など、県として、今後、支援を考えているか。
(答)現時点では未定であるが、県として対策の必要性の有無も含めて検討して参りたい。

(問)今回の件を受けて、県はPWJをどのように評価しているのか。
(答)今回は狂犬病予防注射が遅れる事態となったが、PWJに悪意や故意はなく真摯に受け止めており、再発防止のため、狂犬病予防注射を適切に実施するための体制を整備している。
 また、譲渡適性のない犬を含めた多数の犬の受入団体として、これまで県の事業推進に貢献してきたことは評価している。

(問)県内で野良犬が多い地域はどこか?
(答)尾道市や東広島市で保護される犬が多いと報告を受けている。
参考:県動物愛護センターの市町別の犬の収容状況(広島市、呉市、福山市を除く)
   
  市町  収容頭数
  尾道市  806
 東広島市   305
その他の市町   459
  合計 1570


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