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農林中央金庫のガバナンスを問う①定年内規を反故にした河野良雄・前理事長

2期6年が原則の農中定年



 私の手元には全国農業協同組合中央会(全中)がかつてとりまとめた全国連役員定年内規一覧表があります。

 指導団体である全中、販売・購買など経済事業を担当する全国農業協同組合連合会(全農)、保険(共済)事業を担当する全国共済農業協同組合連合会(全共連)、そして信用(金融)事業を担当する農林中央金庫(農中)の会長、理事長など役員の定年に関するルールを文書化したものです。

JA全中がまとめた定年一覧

 農中の役員に関しては、理事長から常務理事まで「在任6年まで」、1期3年ですから2期6年とする取り決めがあり、さらに年齢も理事長70歳、副理事長67歳、専務理事65歳、常務理事63歳までと記されています。当該の年齢(基準)に達したら2期6年の途中であっても直後の通常総代会をもって退任することになっていました。

 役員のうち会長、副会長の欄が空白になっているのは、農中の最高意思決定機関である経営管理委員会の会長は慣例的に全中会長が務めていて、全中などの定年規定が適用されているからです。

 農中常勤の理事長ら役員の定年内規を反故にしたのは2009年4月1日に就任した河野良雄理事長です。

 河野氏は後任の奥和登氏(現理事長)と交代した2018年6月まで、9年3カ月在任しました。この事実に関しては、最近、オンラインメディア「ストイカ」記事でも触れていますが、少し詳しく紹介します。

経営管理委員会で承認得たのか?

 前任理事長の上野博史氏がリーマン危機に端を発する赤字転落の責任をとって任期途中の2009年3月末に退任したため、3カ月余分な期間があるのはやむを得ないとして、本来、いつでも代行できる幹部を育てておくべき巨大金融機関として2期6年と定めた内規通りの役員交代がなされなかったのは不思議です。

 河野氏の場合も現在、国の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)理事長を務める宮園雅敬氏が副理事長として後継理事長就任が農中の内外で当然視されていました。

 上野理事長を側近として支えた元幹部らの証言によると、上野氏の場合、その内規を超えて留任した際、経営管理委員会の承認を得ていた、といいます。しかし、河野氏の場合、そのような手続きを踏んだという声が全く聞こえてきませんでした。

 交代が予想された2015年当時、筆者は複数の農中経営管理委員に尋ねましたが、経営管理委員会でそのような内規の存在が説明され、その例外として留任を認めると議論したとする証言はありませんでした。

 同年の決算発表記者会見で質問した際、3期目続投が決まった河野氏自身もその点について明確な説明をしていません。

「そんなの関係ない」と吐き捨てた広報

 農中広報にいたっては、記者会見終了後に筆者が定年内規一覧を見せても「そんなこと、知ったことじゃない」と言い出す始末で、筆者はたいへん憤慨したものです。河野氏のもとで「トップのいうことさえ聞いていればいい」という風潮がはびこっていたような印象を受けました。

 内規との関係について河野氏が「顧問弁護士の意見を聞いた」と発言したことはあります。

 ところが、もとより内規ですからそれに違反しても法令違反で罪を問われるわけではないのは明らかです。法律で定めた以上の高い倫理観、決意をもって決めたものが内規ですからそれを守るかどうかを経営に関与しない弁護士が判断すべきことでもないでしょう。

 河野氏の説明はとてもメガバンクにも匹敵する巨大金融機関のトップとは思えぬくらい、珍妙で的外れなものだと感じたものです。

 当時、農中の内部では在任6年の内規通りに理事長交代を求める意見と、内規を超えての続投を求める意見があったようです。

 現職の河野氏は農中の経営再建期間中は隠忍自重を強いられ、メディアに登場する機会も稀でした。再建を成し遂げ、「農協貯金100兆円」早期達成運動を仕掛けていました。経営者として表舞台に出て、レガシーを残してみたかったのではないでしょうか。当時、筆者は個人的野心のため2期6年の在任期間制限ルールがないがしろにされた可能性があると考えました。

ゆるみ過ぎたガバナンス


 結局、2015年当時は続投を望む現職の意向を尊重し、「1年後に再度、話し合う」ということで理事長交代論議の結論を先送りした――そういう解説も聞きました。

 農中の最高意思決定機関である経営管理委員会のあずかり知らぬところで、執行部門を担う理事らの間でまるで談合のような人事が行われていたとするなら組織のガバナンスは緩みすぎだというべきでしょう。

 この問題をいま再び取り上げるのは、現在の奥理事長もこの6月でちょうど2期6年の任期満了を迎えるからです。5月の経営管理委員会で留任が決定されていますから河野氏と同じように3期目に突入します。

 この点、決算記者会見は2期6年ルールとの関係について農中から説明はなく、記者からの質問もなく、そして日銀や農林水産省の記者クラブに所属しない記者、オブザーバーとして記者会見を傍聴した筆者は質問させてもらえない立場だったので聞くこともできませんでした。

ルールは定款の1期3年の定めのみ



 そこで後日、農中の広報に問い合わせたところ返ってきた回答は以下のような内容でした。

 「役員(理事)の任期の定めについては、農林中央金庫法第25条に基づく定款第43条の定めにより1期3年との定めはありますが、現在、それ以外の定めはございません」

 素直に受け取れば、定年内規のような申し合わせはなくなったということになるのでしょう。しかし、いったいなぜ、かつて2期6年という申し合わせをしていたかを忘れてはならないでしょう。

 今期5千億円超の大赤字を計上する見込みの農中は、現在総額1兆2千億円規模の増資を行うべく、傘下のJAなどと話し合いを進めています。

 2期6年の任期を全うした奥氏が続投するのは、増資を成し遂げるという重大使命を前にして理事長退任というわけにはいかなかったということかもしれません。

 しかし、筆者は2009年当時の上野理事長と同じように増資完了とともに勇退するのが正しい責任の取り方ではないかと思います。経営管理委員会は奥氏らの留任案を決議するにあたって、どのような議論をし、条件を付けたのでしょうか。元金融庁長官ら経営管理委員に会って尋ねてみたいものです。






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