令和の改革

平成の30年間、コメの農業は衰退を続けましたが、畜産、特に和牛や和牛の遺伝子とホルスタインなど乳用種の遺伝子を掛け合わせたF1(交雑種)は曲折はあったものの成長を続けました。

農業は廃れているわけでは決してありません。

元農協組合長ながら外に飛び出して農協に改革を迫った畏友、山氏徹(やまうじとおる)さんが理事長を務めている全国肉牛事業協同組合の創立30年の記念すべき総会が28日開かれ、山氏さんと真摯に向き合って農政改革を政府に実行させた小泉進次郎代議士(元農林部会長、現厚生労働部会長)が記念講演しました。

28日、横須賀にはトランプ米大統領が訪問していて、地元選出の小泉さんは多忙をきわめたはずですが、彼にとって山氏さんや来賓で出席していた奥野長衛前全国農業協同組合中央会(JA全中)会長、奥原正明前次官らは戦友なのです。

人口1億人に向けて縮む国内市場を相手にするのか、100億人に向けて人口が膨張を続ける地球規模の市場を目指すのか。選択は個々の農業経営者の自由だけれど、政府として支援すべきは外に向けて挑む人々だ、と現役の農林部会長の時よりも確信を持って断言していました。

日本食ブームといい、スマート農業の急速な普及といい、彼が思っていた方向へ想像以上のスピードで農業が変貌しつつあることを感じているからでしょう。

人生100年時代の社会保障に関する話題も非常に面白かったのですが、ここでは割愛します。ただ、小泉代議士が今後のあるべき社会保障政策を考えるにあたって高齢者の比率が半分以上の農業就労の実情からたくさんのヒントを得た、という点、印象に残りました。

私は1986年に初めて、農業を取材して、牛肉やコメの市場開放問題、農協破綻、信連経営危機、リーマン破綻後の農中2兆円増資など農業問題についてもいろんな機会に記事を書いてきましたが、新聞記者をやめる最後の数年間、小泉代議士が農林部会長として何十年も放置されてきた問題を数多く改革していくのを見ることができて痛快でした。

なぜ、農協は農家にお金を貸すわけでもないのに貯金を増やし続け、行き場のないマネーを30年前は農協が不動産や債券に、20年前は信連が住専に、10年前は農林中央金庫がサブプライムローンに注ぎ込んで失敗してしまったのか?

そして、いままた同じ過ちをおかそうとしているのはなぜなのか?

司令塔としてのJA全中には問題が多々あり、だからこそ法律上の特権的地位が剥奪されることになっているのですが、お金を預かる農中の支配力がJAグループ内で突出して膨張していることがとても危うく思えます。

リーマン危機の前、JAグループは、ガバナンス強化のために全国連、県連のトップ定年制を導入したのですが、それを率先して破ったのが農林中金でした。前理事長の河野良雄氏は任期最長6年のところ定年内規の存在を経営管理委員会に説明せぬまま9年超も在任してしまいました。

記者会見で内規による任期制限を尋ねたことがありますが、あとで広報部長が「そんなのうちには関係ない」と言い放ったのには呆れたものです。メガバンクではおよそあり得ないガバナンスの機能不全です。

全中の首脳たちは農中トップの傍若無人の振る舞いに不快感を抱いていましたが、運用益を配る農中に対抗してそれを差し止める力を失ってしまっているのです。その結果、組織のタガが緩んでしまって、地方の中央会でも定年内規を白紙還元するかのようにボスとして君臨するトップが再登板したりしています。

プルトニウムや廃棄物の最終処置の方法を決めぬまま原発を作り続けることは、よく「トイレなきマンション」に例えられますが、運用するあてもないまま貯金を集め続けるJAグループも似たようなものです。

つい先日までJA貯金100兆円運動を展開していましたが、この運用難の時代に農家以外からもお金を集めようというのですから自滅行動と言っても良いでしょう。

JAには利率の操作ではコントロール困難なくらいお金が余っていて、農家ではなく地方自治体にダンピングまがいの超低利で融資し、顰蹙を買っているのです。おそらくリーマン危機の直前より不安定な運用状況です。

遠くない時期に私なりの分析と提案を世に問うてみたいと思っています。

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