見出し画像

TAC対象のクロマグロ管理「投棄・自家消費分も漁獲報告は義務」と水産庁

 太平洋クロマグロのように国が漁獲可能量(TAC)を設定している魚種のことを特定水産資源といい、漁業法では漁業者に漁獲報告を義務付けています。水揚げして魚市場で売ったものはもちろん、漁業者が自分で販売したもの、自家消費したものを含めて漁獲報告をしなければならないのです。

 昨年7月、気仙沼市魚市場で計量後に漁獲上限を超えたことがわかって船にクロマグロを持ち帰ったことが水産関係者に目撃された大目流し網漁船の所属会社は「それを船員のまかないなどに使ってなぜ悪いのか?」という認識でした。しかし、それは間違いなのです。

 水産庁は「特定水産資源は市場で売ったかどうかに関係なく、国または都道府県知事という管理区分に応じて漁獲を報告しなければなりません。市場が漁業者から委任を受けて仕切り伝票をもとに報告をしても、販売されなかったものを含めて漁業者は報告する義務があります」(資源管理推進室)と説明し、実際に漁業者を指導していると言います。

 それは新たな資源管理に向けたロードマップについて解説した水産庁のQ&A集にも書かれています。

 獲って船内に保存してあったクロマグロを船内でさばいて、乗組員が食べようが持ち帰ろうが自由です。しかし、そのように消費した魚の漁獲を報告をしていれば「問題なし」、逆に漁獲報告を怠っていれば「問題あり」、つまり報告義務違反ということなのです。

 大目流し網漁船に対して漁船ごとの漁獲割り当て(IQ)が実施されたのは2023年からです。昨年はま大目流し網漁業全体の枠の中での管理だったので、目安として漁船ごとの上限があり、それを超えたとしても違反ではなく、罰則もありませんでしたが、漁獲報告だけは義務だったのです。

 計量後に漁獲物を船主が持ち帰ることを認めている魚市場は気仙沼に限りません。船主側が思うような値段で売れそうにないと判断した時、売り先を変えたりすることもあるからです。

 最終的に売れ残って、船内で消費したり、あるいは海に投棄してしまった場合は、販売業者から漁獲量が国や県に報告されることはありませんから、漁業者自身が報告をしなければなりません。ここのところは外部からの目が届きにくいため、無報告の漁獲としてヤミに葬られてしまう場合がかなりあるのでしょう。

 そうであれば、水産庁はその実態を調査し、漁獲の無報告が生じないような対策を講じる必要があるはずです。

 青森県大間の一本釣りや小型はえ縄の漁業者は2019年から2021年の3年間に、静岡市中央卸売市場という小さな魚市場向けだけで合計120トンもの無報告の疑いがあるクロマグロを出荷していました。漁獲の上限を超えたと思われる漁船から委託を受けた地元の水産会社が地方市場に出荷していたのです。荷を受けた静岡の卸会社は「ブリ」「その他鮮魚」と偽って販売していました。

 大間の漁師だけでこれだけのごまかしが生じたわけですから、漁獲能力が大きい流し網、近海はえ縄、大中型まき網漁業など大臣許可漁船が不正を行っていた場合の影響は大きいでしょう。自家消費に止まらず、大間のようにヤミ流通に手を染めてしまう漁業者もいるとの情報が飛び交っています。

 問題は、乗組員による持ち帰りなどが日本の漁船の古くからの慣行になっている可能性があることです。2008年に環境団体のグリーンピースが青森県で起こした鯨肉窃盗事件を思い出してしまいます。

 日本の調査捕鯨船の乗組員が自宅に送ろうとした鯨肉(約23キロ)をグリーンピース幹部たちが「鯨肉横領を告発するための正当な行為」として宅配便の配送所から盗み出した事件で、有罪が確定しています。

 環境団体による窃盗行為だけが非難を浴びる結果となりましたが、国費も投入して行なわれる調査捕鯨の副産物を乗組員たちがどのような条件で入手しているのかは深く問われませんでした。

 船主がご褒美を与えたり気持ちは理解できますが、漁船の乗組員が漁獲制限の枠外で資源管理対象のクジラやクロマグロをこっそり持ち帰るようなことがあってはなりません。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?