和牛の遺伝子不一致公表遅れは「原因究明優先」と農林水産省

 農林水産省は5日夜、宮城県産の和牛で大量に見つかった遺伝子の父子矛盾(不一致)問題について私の質問に対する回答を寄せ、5月に宮城県から報告を受けた時点で公表を促さなかった理由として、問題が生じた範囲の特定と原因究明を行うことが重要だと考えたとの見解を明らかにしました。

 しかし、宮城県の家畜市場を利用している購買者の間では、「和牛の市場価値への悪影響を恐れて隠蔽しようとしたのではないか」と批判する声も出ていて、8月20日から3日間行われる次回のセリへの悪影響を懸念する声も出ています。

 書面回答によると、農林水産省の東北農政局は今年5月、宮城県から電話で遺伝子不一致問題についての報告を受けました。県からの報告は、①授精を担当した獣医師がこれ以上の錯誤をしないよう一定の措置をとる②遺伝子型検査を進めるとともに立ち入り検査等による原因究明を優先する、という内容でした。同省もこの方針を了承し、獣医師への立ち入り検査を指示したということです。

 全農宮城県本部が特定の獣医師が授精に関わった牛の所有者らに連絡して、全国和牛登録協会宮城県支部で和牛のDNA鑑定を行った結果、調査対象の11.4%、17頭で遺伝子が授精記録上の種牛一致しない結果が出ています。

それをもとに宮城県と全農宮城県本部が7月26日に県内の和牛生産関係者を集めて状況説明会を開いたのにあわせ、同省も同日付で家畜人工授精と受精卵移植業務を適正に行うよう畜産振興課長名による通知を出したということです。

回答に添付された通知(文書番号:元生畜第441号)の宛先は、都道府県の畜産担当部長と日本獣医師会、日本家畜人工授精師協会、全国和牛登録協会、日本あか牛登録協会、日本短角種登録協会の代表者です。

人工授精用の凍結精液証明書等の適正管理、家畜人工授精簿への正確な記録、授精証明書の適切な交付を求めたものですが、記録漏れが生じやすい仕組みであることがこの通知文の中でも説明されていて、現行の仕組みのまま注意喚起のみで不祥事を予防することには限界がありそうです。

また、牛トレーサビリティ法に基づく牛の個体識別管理(生産・流通の履歴管理)については、牛を出産した母牛の個体識別番号を報告することになっているものの、法律上、血統情報、血縁上の親を報告する義務はないため、個体識別上の問題は発生していない、としています。
 現在、一般の人も利用できる牛の個体識別情報検索サービスは、登記・登録牛データ確認システムにも連動していますが、これは和牛の血統を管理する全国和牛登録協会が運用しているもので、個体識別情報検索システムでは血統情報の開示は行われていません。農林水産省は「間違いの修正は同協会の責任において行われることになります」としています。

 和牛の血統保全のため家畜改良増殖法では、全国和牛登録協会の登録規程に農林水産大臣が承認を与えて、それに基づいて和牛としての血統上の証明が行われる仕組みになっています。規程第20条では「登録または登記の内容につき誤りを発見したときは、その登録または登記はこれを更生する。更正し得ないものはこれを取り消す」としており、血統情報の誤りは修正するか取り消すことになります。

獣医師以外の授精記録からも遺伝子不一致が確認されたとする全国和牛登録協会宮城県支部の回答については、「本件の獣医師以外で、複数件の不一致が生じているとの報告は受けていない」としています。

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