大口の債権者名を一転非公開、PWJの監査人に失望、会計情報の開示が後退

1、公益社団法人からの借り入れを非公開

 NPO法人ピースウィンズ・ジャパン(PWJ、広島県神石高原町、大西健丞代表理事)が公益社団法人Civic Force(シビックフォース、東京都渋谷区、大西健丞代表理事)から2018年度(2019年1月期)決算で3億円を借り入れたのは何が目的だったのでしょう?

 そして、ホームページなどで一般の人が容易に閲覧できるよう公表している資料からは、債権額が他より大きいにもかかわらず、その事実を伏せた、つまり、シビックフォースを借入先の中で「その他」に分類して、名前を隠したのはなぜなのでしょう?

2、在京の独立監査人はノーコメント

 PWJには東京を拠点に活動する2人の外部の独立監査人(高塚公認会計士事務所高塚直子氏、ファーサイト公認会計士共同事務所青木幹雄氏)がいて、2018年度決算についても「活動の状況をすべての重要な点において適正に表示しているものと認める」と監査報告をまとめています。

 そこでお2人にそれぞれ、質問を送り、財産の使途が限定されているはずの公益法人シビックフォースから3億円借り入れなど会計上の疑問点について尋ねました。

 残念ながら3月11日にお2人から届いた回答は、「当方としては、会計監査人として職業上の守秘義務を負っておりますので、質問に対して回答する立場にございません」(青木氏)、「会計監査人としての守秘義務を負っているため、お問い合わせに対して回答する立場にございません」(高塚氏)という回答でした。

3、債務超過回避に躍起

 PWJは2017年度に債務超過に転落しています。債務超過が続くと、資金的に行き詰ってしまうため、2018年度はドイツ人芸術家、リヒターから寄贈されたガラス作品を鑑定に出してその評価額を資産として計上するなどPWJは赤字減らしの策を講じて、債務超過を脱しました。

つまり、2018年度はPWJが将来も事業を継続できるかどうか、会計上、重要なターニングポイントを迎えていました。外部の監査人も帳簿の内容をひとつひとつ丁寧に検証したことでしょう。当然、その年に唐突に登場したシビックフォースからの3億円借り入れの経過や公益法人資産の特殊性、制約との整合性なども精査したはずです。

 筆者が理解できないのは、債権者一覧のリストの中でシビックフォースの名前を公表していない点です。事業報告など一般向け公表資料では、およそ11億7千万円の借入金の債権者一覧には金融機関以外の名前は「その他」に一括して非公表にしています。

 表(写真)をご覧ください。2017年度の公表資料では、かつて村上ファンドで一世を風靡した投資家・村上世彰氏が運営に関わるC&Iホールディングズ、ふるさと納税サイトを運営するトラストバンク、その創業社長の須永珠代氏の名前が債権者として記載されていました。PWJが債務超過に陥った時に登場した債権者ですからPWJと運命をともにする覚悟のあるスポンサーといってよいでしょう。

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4、前の年度より公開範囲を狭める

 村上氏や須永氏は、いわばPWJの救世主たちですが、2018年度の公表資料では「その他」として確認できないようにしています。そしてシビックフォースも「その他」扱いとして一般には債権者として公表されていないのです。以前にも説明したように、筆者はシビックフォースからPWJが3億円借りた事実を広島県庁へのPWJの報告書類を入手して初めて知ることができました。

 財務諸表のディスクロージャーという点では大きな後退です。PWJが一般に公開する債権者情報の範囲を狭めたのは、資金の使途制限がある公益社団法人シビックフォースからの借り入れが引き金になっているのではないかという印象を筆者は受けました。その理由や手続きについてシビックフォースやPWJには繰り返し質問を送っていますが、いまのところ回答は得られていません。

 監査の主目的は、公表する財務諸表などに虚偽がないかどうかをチェックすることです。PWJの監査報告も公開した情報に間違いはないので適正に表示されているという意味なのでしょう。

 しかし、独立した外部の監査人の仕事ってそんなものなのでしょうか?

5、財務報告の信頼性にも目配りを

 事業報告や財務諸表の信頼性という点にも監査人には注意を払ってもらいたいと思います。前の年度に公表していた情報が一転して非公開になったのはどんな理由からなのでしょう?私が監査人であれば、当然、PWJに質し、公表するよう促します。特に理由を説明することもなく開示内容の後退を黙認する監査人の仕事ぶりに疑問を感じます。

 まもなく2019年度(2020年1月期)の決算も公表されることでしょう。PWJは同じ大西健丞氏が代表者を務めるNPOへの貸し付けもおこなってい行っていますが、債務超過先の団体もあり、寄付頼みの団体がいったいどのようにして回収するのか、筆者は注目しています。

 村上世彰氏が関与する企業や公益法人のシビックフォースからはまた借り入れを行ったのでしょうか?一般向けの情報開示がさらに後退することがないよう祈ります。


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