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ファクト・チェック⑦大西健丞さん、その話、本当ですか?

■活動の財源確保へ「相続マネー」

 NPO法人ピースウィンズ。ジャパン(PWJ、広島県神石高原町)の大西健丞代表理事が保護犬事業(ピースワンコ)支援者らに送った手紙には「相続マネー」について言及したところがあります。

▶弁護士事務所から1通の通知が届きました。東京のHさんという女性が今年お亡くなりになっていましたが、生前遺した遺言で、私どもに遺贈寄付をご決断されていました。私はこの方の誠実なお気持ちを感じて、非常に励まされました。翻って、自分と団体だけがこのリスクを取ってきたと考えていた傲慢さに気づきました。多くの方々が我々と一緒にリスクを取り、必死に支えて下さっていることを、一時でも忘れていた自分を恥じました

 大西氏が自らの「傲慢さ」に気づいたのが本当なら喜ばしいことです。しかし、実際のところは反省ではなく、自分たちは正しいと再確認しているようです。

 PWJはリスクを共有してくれる理解者、同調者、サポーターが大勢いて支えられているので、PWJのやり方にもっと自信をもって突き進んでいこう、という決意を語っているのです。

 大きな勘違いです。繰り返しになりますが、大西氏の手紙にある「もう少しで、殺処分を将来にわたって止める仕組みが出来上がります」という説明は、根拠がなんら示されていません。

 広島県神石高原町と岡山県高梁市に合計約4千頭(子犬換算1万2千頭)を収容できる施設はすでに整っています。

 2019年度、ふるさと納税によるPWJへの寄付は当初目標の5億円を上回って、ピースワンコ部門の資金も潤沢にあるはずです。2016年に宣言した通り殺処分対象も犬を全頭引き取ることができるはずです。

 しかし、PWJは最近、犬の引き取りを抑制しているといわれていて、PWJの公表通りなら収容頭数も約2800頭前後で推移し、これまでのように増やしてはいないようなのです。

  スタッフ不足が原因で引き取っても十分に世話をできないからでしょうか?それとも寄付で集めたお金を使えない特別な事情でもあるのでしょうか?

 PWJは殺処分対象の犬を全頭引き取ると宣言しているため、一般の人はPWJが単独で広島県の犬の殺処分ゼロを支えているように錯覚しがちです。

 実際は違います。広島県動物愛護センターは殺処分回避のため他の団体譲渡先への働きかけを強めているくらいです。

 もし、捨て犬の引き取りを抑制せざるを得ないのなら、PWJは寄付金の一部を動物愛護センターを運営している県や市に提供し、センターでの収容能力を増やし、譲渡活動を活発にするよう貢献してはどうでしょう?

 大西氏がエピソードとして紹介した「遺贈」ということばも、知らず知らずのうちに支援者の脳裏に刷り込まれることでしょう。

 支援者らへの手紙には偶然、そのような事例があって励まされたかのように書かれていますが、そうではありません。

 実際のところ、PWJは何年も前から相続マーケットの大きさに着目し、どのようにしたらたくさんの資金をそこから引き込めるか、周到に作戦を練ってきていたのです。

■ソーシャル・ビジネスの総合商社

 大西氏の著書「世界が、それを許さない。」(2017年、岩波書店)にはこんなことが書かれています。設立20周年座談会での大西氏の発言です。

▶寄付が新しいマーケットを作れると思っています。アメリカの場合、1ドル=100円で計算すると、毎年25兆円ぐらいの個人寄付があるんです。日本は東日本大震災のときに1兆円を超えました。それまで4500億円くらいだったので、ものすごいジャンプだったのですが、まだまだです。日本のGDPとアメリカのGDPを比較したら、個人寄付が8兆円ぐらいはあってもおかしくないのです

▶相続をみると、日本は年間50、60兆円あるんですよ。その1割の人が遺贈というかたちで社会に貢献したいということを示す。そうするとほんとに5、6兆円出て、いまのと合わせると7、8兆円になる。それがフローしだして、さらにそこに出資や融資が付くと、20兆円ぐらいの産業になってしまう

▶兆単位で勘定しないと、やっぱり国家の設計とか運営をしている人を説得することはできないと思っています。

 この座談会で、大西氏は人道支援や災害救助、動物愛護から農業、観光までソーシャル・ビジネスの総合商社的な存在になりたい、というビジョンを示しています。

 こうした考えに大きな影響を及ぼしたのは投資家・村上世彰氏だ考えてまず間違いなさそうです。

■師は投資家・村上世彰氏

 2017 年9月24日にインターネットメディア、BuzzFeed Newsに掲載された村上氏についての記事「日本を揺るがした投資家が寄付の世界へ 事件と震災が変えた村上世彰のいま」には、村上氏について大西氏がこのように語ったくだりがあります。

「私はよく村上さんに『ユニバースが小さい』と言われます。規模が小さくて、それでは影響力が限られるでしょ、と」
「村上さんは兆円単位で考えることや、お金のフローをどう発生させるかを教えてくれた。そうしないと規模は大きくならないし、影響力を持てない。『Small is not always beautiful(小さいことが美しいとは限らない)』なんです」

 日本の不効率な行政のあり方や不合理な社会の仕組みを変革していくため、大きなスケールで考えるのはとてもよいことです。ただ、「兆円単位」でビジネスや社会問題を語るには、それなりの人格、品格、実績も問われることでしょう。

 大西氏の場合、村上氏が鋭く見抜いているように自分の周りのことばかりに目が向くようです。「視界」が自己中心的な傾向が見受けられるのです。

 象徴的なのがビジネスとして自らが瀬戸内海の離島で始めた高級宿泊施設「ヴィラ風の音」です。その経営が失敗に終わると、人手に渡っていたヴィラを、今度はNPOの資金で買い戻し、「ふるさと納税」のお金で再生しようとして、再び失敗しました。PWJはその事業にお金を貸しています。

■公私混同、利益相反はないか?

 

 また、親しい政治家や友人らをヘリコプターで案内してヴィラに泊まったりもしているようです。その費用は誰が負担しているのでしょうか?問い合わせても答えが返ってきません。

 個人的な思い入れや交際はいいとしても、万が一にも公私混同が行われたりすれば、NPOの信用は失われるに違いありません。

 2017年度にはPWJを債務超過に陥らせています。債務超過から立ち直った後の2018年度も資金繰りが厳しいためか、自分が代表理事を務める公益社団法人からつなぎ資金3億円をPWJに貸し付けたりしました。

 その融資もそうだと思いますが、利益相反が疑われかねない取引があり、なかには広島県知事が利益相反防止のため大西代表理事の代理人を指定したケースもあります。

 NPO経営者としての手腕や手法を疑問に思うひともいるでしょう。

 それでも、いまなお大西氏が強気でいられるのは、村上氏による資金的な援助と、本格的に広がりはじめた遺贈、寄付マーケットのおかげかも知れません。

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