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【海のナンジャラホイ-13】背中を見せるような絵本を作りたいね!

背中を見せるような絵本を作りたいね! 


「親の背中を見て子供は育つ」と言われます。親が不器用にドタバタしながら一生懸命に生きている。そこには、長く生きてきた「生きるプロ」としての、大人たちの真実がある。子供たちは良くも悪くもそこから多くを学んで、自分の生き様に取り込んでゆけるということでしょう。必ずしも、あえて上意下達的に子供に何かを伝えようとしなくても、良いのかもしれません。

背中を見て育ちます


私は、絵本を作るときに、そのことを考えるのです。子供のために絵本を作ることを目指そうとすると、絵を単純化したり、可愛らしくしたり、話をわかりやすくしたり、といった子供たちにとって受け入れやすそうだと思われる表現を目指したくなります。でも、私たちは大人になる過程で、知らない間に常識的な知識とか感性とかを刷り込まれて、子供がどう感じるかを思い出すことはほとんど不可能になっています。どんなさじ加減で作ったものが子供たちのテイストに合うかは、本当に計り難いのです。

それなら、ひとつの策として、さじ加減を放棄してしまえば良いと思うのです。研究者が真剣に作った、一切の手抜きなしの情報を盛り込んだ、研究者から見ても内容について納得してもらえるような、そんな絵本があったなら、子供たちにはそれぞれの感性で、そんな絵本から「何か」を受け取ってもらえるような気がするのです。その「何か」が何なのかは、私たちには既に分からないのですが。
ただ、研究者が自分たちの研究について一生懸命に語ろうとするとき、そこには自分たちの研究についての喜びや、感動や、輝きというか光みたいなものがある気がします。それらは、親の背中みたいなもので、何かしら、こそっとじわじわと影響を与えると思うのです。

絵本の世界に入り込むのです


私を育ててくれたとも言える多くの絵本を作って下さった加古里子(かこさとし)氏は、著書「絵本への道」(福音館書店1999年)の中で、科学研究者などの専門家が科学絵本の制作にしばしば監修者として関わっていることに言及され、「しかしこうした専門家が、単に監修として科学絵本に携わられるだけでなく、私はできるなら直接子供たちのために科学絵本を書いていただきたいと願っている者のひとりです」と書かれています。その理由としては、研究者の究めてきた科学的知見の「その内容の裏や底にひそんでいる人の心をとらえるものは、そのことを直接体得された学者からジカに子どもたちに与えていただくのが最もよいと考えるからです」と述べておられます。この「人の心をとらえる」何かを子供たちに届けてみようというのが、私たちの目論見です。

文章の作者も画家も研究者で、監修も研究者、研究者の暴走を食い止めるのが編集者、といった組み合わせで作っているのが、仮説社の「海のナンジャコリャーズ」というシリーズです。本は世に出れば独り歩きを始めます。子供やそして大人たちにどんなふうに受け入れられるのかは、未知数です。作っている私たちにとっては、怖くもあり楽しみでもあるところです。でも、とにかく、私たち自身が楽しみながら、できる限り正確に誠実に、絵本作りしてゆきたいと考えているのです。

○o。○o。 このブログを書いている人
青木優和(あおきまさかず)
東北大学農学部海洋生物科学コース所属。海に潜って調査を行う研究者。


仮説社「海のナンジャコリャーズ」シリーズ  2冊

われから ~かいそうのもりにすむ ちいさないきもの~
 青木優和 著/畑中富美子 絵

わかめ ~およいで そだって どんどんふえる うみのしょくぶつ~
 青木 優和 文/畑中 富美子 絵/田中 次郎 監修

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