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全天球5.1Chサラウンド(2020年7月11日)

 夜23時半前後は雷風呂で鼓動を上げ過ぎてふらふらである。夜風でも浴びないとキツい。東京の千葉さんは寿命が来た蛍光灯になぞったが、真下にいた私たちには二度、町への落雷を足元で聴き、慄いた。あの音を真下で聴くと、死ぬかもしれないなってなって、その際で生きてるなってなる。雨も通りすぎて、雷は今は光だけが大きく空を走っている。珠に通行人がいる。

 じっと待つ。雷の音に耳を澄ます。守られた風呂場の一室にいても、部屋の内部を食い破り脅かすほどの轟音。この中を業平は姫を抱えて走ったのだ。神鳴るなかを。

 嵐の季節だ。午前の風も夜の雷と豪雨も同じ嵐が生み出しているもの。斜めにたなびき地形図上を通りすぎる竜のような雷雲。空は普段はこんなに穏やかなのに。いつもは東や北の空に見えるが、今日はマンションに遮られた南の空にあるようだ。胸の鼓動が止まなかった。この音を身体に焼き付けようとじっとするのだけど、過ぎればまた忘れてしまう。今朝の夢と同じだ。映像の無力さよ。5.1chどころではない、全天空の音響。

 向かいのマンションは、嵐の日の停電や消防車の大軍列、雷の日など、災害の時に眺める風景としてある。その日の異様さのイメージの固まりとして。

 トタンを叩き割ったような音が世界を覆う。半屋外とは雷風呂のようなことを言うのだろう。この音を忘れた身体でどんな「自然」を考えると言うのか。

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