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夏の嵐の夜のネコ(2020年7月4日)

「私たちは皆自分ではどうしようもないうねりに翻弄されたもの同士ではありませんか」-ソル・ワイントラウブ(『ハイペリオン』より)

 嵐の風が山を揺らす帰り、それはそれは恐ろしく、私の許容を越えた量の唸りが押し寄せる夜、小学校の隣の駐車場で黒猫に遭遇した。この地域一帯を縄張りにしている半-家ネコだ。小学校の窓には凄い速さで流れる雲間に出る、虹色の満月が映っていた。

 猫は愛しさをどうしたって引き出させる天才だ。それでいて消えるときはふっと消える。決してこちらの思い通りにしようと考えてはいけない。常に相手のダンスに応じる形をとるのだ。

 今晩はちょうど良い距離感で、会話も少しできたように感じた。通りすぎる尻尾で脚を撫で、膝の下を潜り、手に頭を押し付けてくる感触は、午後にじゃれてきた女の子と全く同じで驚いた。どちらも身体を介した「戯れ」のひと時なのだろうか。

 一人で歩く暗い夜道だからこそ、身体で会話しているのは不思議で、自分の足元で漲る柔軟な身体が自律して歩いて、何となく沿ってきているのもまた不思議で仕方なかった。家でなく、森でもなく、庭に、路地に現れる猫。その不思議な身体と、胸が締め付けられるような愛しさ。

 ただ一緒にいたかったのか、遊びたかったのか、身体を擦り当てては背を向け、その場で腹を見せて寝転んでは、またすり寄ってくる。なんだよ~と声に出して話しかけながら、地べたの世界に共にいた。

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