レディ・メイド / 早乙女まぶた

遺書を書こうね
難しくないよ
お姉さんが言ったことをそのまま書けばいいんだから
と言ったのは
名前も知らない人だった
屋敷は大きくて子供が大勢いた
その中のひとりはいま
どこかの部屋に飾られている
その子とは話したことがあったから
会いに行ってみたんだ
でももう行かない
大きなガラスケースの中に
あの子の右腕が浮かんでいて
まるでそこだけ
透明になり損ねたようだったから

机の正面に大きな窓がある
遺書なんてとても書く気になれなくて
そこから外を眺めていたら
お姉さんが教えてくれた
ぼくたちは罪を持っているらしい
それは捨てることも売ることもできない
だからあなたも償いなさい
価値のある作品になるのよ

ここには大きな水槽があって
女の人が裸で泳いでいる
これもたぶんそういう作品のひとつ
彼女はずっと前からそこにいて
初めて見た時からずっと若いままだった
窓から入る夕焼けがまっすぐ水槽を照らすとき
時間の流れ方が変わってしまう
部屋がしばらく夢になる
その時にやっと
美しいという言葉の意味が分かった

暗くなってきたね
そろそろ書けそうかな
夕日がお姉さんを染めている
いまぼくが暴れたら
この人はどんな顔をするだろう
どんな作品になるのだろう