集・三 / 諍井寄人

名についての断片

1.
揺りかごに託した
子の、すやすやと
寝息は
呼び覚まされることを
信じて
安らって
いて
揺られ

2.
名を気づき
はじめて
ここだったものへ
立つ
呼ばれるまで
居はしなかったものへ

3.
原っぱに立ちあがった
茎は
そのものから摘み去られ
鉢植えに変わるのだ
栄養剤の土を舐め
葉は生い零れる
葉は生い零れる

4.
なぁになぁにと
知りたがりの子の小さい手
なにもかも
触れあえる何かであって
恐れるよりもたわむれて
すくすくと
名を知り始めている

5.
ことの葉は
根を暗くして
明るさへ
茎を出す
何を
名に
紅葉して
ひととき美しくとも
散り去って