眠ろうとするときにしか話すことは出来ないんだから / 黒崎言葉

四方を灰に囲まれたこの場所を俺はどうして教会だと思ったのだろうか?
巨大な灰のすり鉢、ここに生きてるのは俺ひとりだ。何も見えないがそれは確かなのだ。
生きた人はここにいない。ここには風が吹かない。だから、俺を生かすのはこの足を沈める灰だけだ。
今灰の大地はかろうじて俺が駆けることを許している。
だが俺が死ねば俺は灰の底へ沈むだろう。それは限界を知らず、いつまでも俺は沈み続けるだろう。
俺を生かしたい灰は、均しく俺が生きたことを誰にも知らせたくない灰だ。
息が切れた。脅迫的な息苦しさに目を醒ました俺は今が夏であることを思い出す。
カワセミの羽をいくつもいくつも切り取っては貼り付けたような空。
俺はとても熱い水の上を漂い、それを眺めている。
俺は浸る水をすくう。水は空と同じ色をしている。
こぼさないように丁寧に空に手を衝いて塗り拡げると、ぞわぞわとした不快感が背に広がっていく。
指の隙間から水滴が落ちる。あっと声を出す一瞬、俺はぐるぐると管に巻かれている。
つまり既に落下していた。俺を留めておきたがる管はひとつひとつが動きたいようにしている、それに任せる。
数回の反動。俺は引き上げられる。
引き上がると俺は硬い地面に立っている。
とても疲れている。足なんか役に立たなかった。
俺を覆うヒゲクジラの巨大な頭骨。
俺はそれを屋根にして眠っている。