亡命者 / 岩倉文也

ぼくは人生を
道とする比喩はとらない
おお、口中が枯れる
そして断崖 けれどぼくは
あくまでここを立ち去ろうとする
矛盾であるか? 矛盾であれば
ぼくを眠気から覚ましてくれ!
どんな歴史にも従うものか
どんなイメジにも
劣化し腐敗し崩壊する
精霊たちの馬鹿笑いが聞こえるではないか
ぼくは進む
断じてここを去ろう
その為ならいくらでも死んでやる
からだが熱い
熱いぞ
ああ
ぼくは氷河を喰らいたい
ぼくは孤高のペンギンとなって
この時代の斜面を滑ってゆきたい
どこまでも、そう
どこまでも滑ってゆきたい
電燈が消える
そしたら
闇のなかに一対の眼が光るだろう
その眼はぼくのものだ
ぼくの脚はもはや
ぼくとは無関係
ぼくを置き去りにして
すでに駆け出しているのだ
どこへ行く!
窓ガラス割れ
浴室のドアが壊れる
どっと溢れだしたこの息吹
そこには
残忍な希望が隠されているというのに
だれも知らない
だれも知らない坂道をのぼり
日差しはいつも凍結
凍結されたぼくの夢ににている
黒猫よぼくの眼前をよぎれ
百万回でもよぎっておくれ!
死んでゆくのだ
健康も怠惰もぼくの
あこがれの行きつく先も
だから何だというのだ
だから
ぼくは立ち止まるとでも言うのか
馬鹿ッ!
ぼくの靴ずれは最大だ
ぼくの理想は
千々に砕けながら飛散する
土に降れ!
肉片は種子
種子であるしかない絶望よ
ぼくは進む
それがぼくの影であろうとかまわない
知るもんか
行くんだ
ここから暗い場所へ
もっともっと暗い場所へ行くんだ
ぼくが死にきれる場所
ぼくの死にきった全体が
息を吹きかえす場所へ