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診療所は増益で利益率8.3%、費用かさみ一般病院は赤字が拡大

厚生労働省は、2023年11月24日に中央社会保険医療協議会(中医協)の調査実施小委員会を開催し、第24回医療経済実態調査(医療機関等調査及び保険者調査)の結果を報告した。注目された医療法人が経営する一般診療所の2022年度の平均損益差額は、2021年度比267万円増の1578万円の黒字となった。利益率を表す医業・介護収益に対する構成比率は8.3%で、2021年度に比べて1.2ポイント増加した。開設者の報酬などが含まれる個人立の一般診療所の損益差額と構成比率も、2021年度に比べそれぞれ350万円、2.2ポイント増えた(表1)。

表1 医療法人(上)と個人(下)の一般診療所(入院診療収益あり及びなし)の収支
前々年度は2021年4月~2022年3月末までに終了した事業年(度)、前年度は2022年4月~2023年3月末までに終了した事業年(度)。Iの医業収益とIVの損益差額はCOVID-19関連の補助金(従業員向け慰労金を除く)を除いた金額。※欄を除き、構成比率はIとIIの介護収益を合計した金額に対する割合
出典:第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告の概要
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 医療法人の一般診療所では、医業収益が2021年度比4.0%と伸びた半面、医業・介護費用の増加は2.6%とそれを下回り、利益に当たる損益差額を押し上げた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の補助金を含めると、損益差額は2021年度比251万円増、構成比率は同1ポイント増となった。

 また院長の平均給与額は、医療法人の一般診療所の場合で賞与を含め年間2653万円。一般病院全体の病院長の平均給与2633万円より多い。前年比の伸び率も2.4%と病院長の0.5%より2ポイント以上高かった。

 これらのデータから、診療所の経営が上向いている現状が浮き彫りになった。財務省などが主張する診療所の報酬引き下げの根拠の1つとされそうだ。

病院の水道光熱費は3割前後増

 今回の医療経済実態調査は、保険診療を行っている全国の病院や一般診療所などを地域別等に層化し、それぞれ1/3、1/15の割合で抽出して行われた。調査対象施設数は病院が2377施設、一般診療所が4250施設。有効回答率はそれぞれ47.9%と53.5%で、いずれも前回を下回った。

 医療法人が経営する一般病院の損益状況を見ると、損益差額の平均は2548万円の赤字。2021年度に比べて赤字幅が2000万円以上拡大し、構成比率もマイナス0.2%からマイナス1.3%へと1ポイント悪化した。医業収益は伸びたものの介護収益は減少し、加えて水道光熱費が29.1%、1000万円近く増加するなど、医業・介護費用が2.8%増えたのが響いた。COVID-19関連の補助金を含めれば、損益差額は6400万円の黒字になるが、それでも2021年度より1500万円以上減った(表2)。

表2 医療法人(上)と全体(下)の一般病院の収支
前々年度は2021年4月~2022年3月末までに終了した事業年(度)、前年度は2022年4月~2023年3月末までに終了した事業年(度)。医療・介護収益に占める介護収益の割合が2%未満の病院を集計(特定機能病院等は除く)。Iの医業収益にはCOVID-19関連の補助金は含まれていない。また、この補助金は従業員向け慰労金を含まない。構成比率はIの医業収益とIIの介護収益を合計した金額に対する割合
出典:第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告の概要
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 国公立公的なども含めた一般病院全体の損益差額は、平均2億2424万円の赤字となった。赤字幅は2021年度より4000万円以上拡大。構成比率も1.2ポイント低下し、利益率も悪化した。COVID-19関連の補助金を含めた損益比率は4761万円の黒字だが、黒字額は2021年度の半分以下に減少している。診療所とは対照的に、病院の経営状態は悪化している。

 今回から、委託費に含まれる給食委託費人材委託費紹介手数料、及び経費に含まれる水道光熱費が、いずれも新しい調査項目となった。一般病院全体の医業・介護費用の2021年度比の増加率は3.2%だが、経費は11.9%と2ケタの増加。32.2 %の大幅増となった水道光熱費が主な要因だ。調査ではCOVID-19の重点医療機関、協力医療機関、該当なしの医療機関ごとの集計もしているが、水道光熱費の増加率は最も低い「該当なし」でも28.7%。COVID-19への取り組みにかかわらず大幅に増えている(表3)。

表3 各費用項目の伸び率
出典:第24回医療経済実態調査の概要
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 紹介手数料も一般病院全体で20.1%と大幅に増えているが、医業・介護収益に対する比率が0.1%と低いので影響は限定的とみられる。むしろ、人材委託費の方が費用増加への寄与が大きい。新設項目以外では、5.6%増の医薬品費と1.9%増の給与費が、費用増加に大きく影響している。

 なお、一般病院全体の医業収益は、入院診療収益が2.2%、外来診療収益が2.8%、それぞれ2021年度より増加したが、特別の療養環境収益(差額ベッド代)などが減少したため、全体では2.1%の増加にとどまった。入院・外来ともに、COVID-19の重点医療機関が最も伸び率が高くなっている。

2023年度も診療所は「ほぼ横ばい」の推定

 今回の医療経済実態調査には、「補足資料」として厚労省による2023年度の利益率の推計値が付されている。コロナ報酬特例などによる収入やかかりまし費用などCOVID-19の影響を除き、2021~2022年度の収入・費用の伸びを前提に、COVID-19の類型見直し、物価高騰・賃金上昇の影響などを踏まえて足元の状況を推計したものだ。それによると2023年度の一般病院全体の医業利益率はマイナス10.2%(コロナ調整後はマイナス10.3%)。総利益率はマイナス2.8%となり、2022年度よりいずれも「悪化見込み」という結果になった(図1)。

図1 一般病院(全体)の利益率の推移
出典:第24回医療経済実態調査の補足資料
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 一方、医療法人が経営する一般診療所についての2023年度の推計値は、医業利益率7.6%(コロナ調整後は7.0%)、総利益率8.8%。2022年度の8.3%(同6.9%)、9.5%より最大でも0.7ポイントの減少にとどまり、同省は「利益率はほぼ横ばい」とした(図2)。診療所の報酬引き下げ圧力の緩和につながるデータかどうか微妙なところだ。

図2 一般診療所(医療法人)の利益率の推移
出典:第24回医療経済実態調査の補足資料
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 医療経済実態調査の結果について、支払側診療側とも持ち帰って検討した上で、後日議論が行われる。しかし、支払側からは「年度の途中にもかかわらず、客観的データではない推計値が提示されたのは、議論をゆがめかねない」(健康保険組合連合会理事の松本真人氏)と、強い懸念が表明された。一方、診療側の日本医師会常任理事の長島公之氏は、院長の給与額に関する詳細なデータの提供を事務局に要望した。

 なお、同時に公表された保険者調査によれば、各制度を合計した2022年度の経常収支差は6482億円の黒字(速報値)。2021年度に比べて3380億円黒字幅が拡大している。

引用
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t358/202311/582124.html?n_cid=nbpnmo_mled_html-new-arrivals

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2000年富山国体少年男子メディカルトレーナー 2001年富山県立氷見高等学校男子ハンドボールメディカルトレーナー 2021年ハンドボール日本代表チームにメディカルトレーナーとして合宿に参加 2023年富山ドリームススタッフ