レンタルDVDショップのおもひでぽろぽろ
時代の流れではあるのだけどここ数年で近所にあるレンタルDVDショップがだいぶ減った。一昔前までは結構至るところにTSUTAYAであれゲオであれあったはずなのだが、気づけばほんと少なくなったなあと思う。まあねえ私自身ここ数年はTSUTAYAから足が遠のき、家の中でのんびりのほほんとサブスクでの視聴が多くなったし、音楽に関しても漫画に関してもだいたいネットのサービスが賄ってくれるのでこうなるのも仕方ないよなあと感じる。
とはいえ、
とはいえである。やはりレンタルショップにはレンタルショップにしかない魅力とか面白さがあるもんで。
思えば映画にハマった最初期の頃からTSUTAYAは私の心の友だった。暇さえあればTSUTAYAかゲオに赴き、新作の棚を眺め、旧作の日本映画、海外映画、アニメ作品を物色、とりえあず10本くらいまとめて借りていったり、漫画やCDに気持ちが傾く日もありーので、そこで真剣に悩む時間はとてもとても楽しかった。いやだって『ゴッドファーザー』とか『タクシードライバー』とか『仁義なき戦い』とか『フルメタル・ジャケット』とか見たことない学生がですよ、映画文化に足を踏み込んだばかりの若人がですよ、壁一面にずらりと並んだDVDの山を見て落ち着いてなんかいられないでしょう。「す、すげえ……これ全部好きに見ていいのかよ……ここはパラダイスか?」ってなもんで、その日の気分に合わせた作品を選ぶべく厳選する時間はまあ楽しいものでした。
店舗ごとに品揃えが微妙に異なっているのも物色魂を刺激するポイントで、古い日本映画が充実している店もあれば、B級ホラーがたくさん置かれている店もある。サメ映画特集とか、ミュージカル映画特集、SFアニメでいっぱいになってる棚、ヌーヴェル・ヴァーグやアメリカン・ニューシネマの棚、etc.…色々なジャンルがごちゃごちゃ並んでいるのを眺めているとその店の”色”みたいなものが見えてくる。
だからのんびり棚を眺めてるあの時間が私には大切だったし、いまの私を育んでる気がしてる。
そんで映画を大量に観てくると生意気になってくる時期もあるもので、目当ての作品が置いてないとなると「おいおい、ここのお店は『ミツバチのささやき』も置いてないのかよ。しゃべえなあ!」とか「『青春の殺人者』を置いてるってことはセンスが良さそうだなッ」とか勝手な判断基準を作ったりしてました。コアな漫画本をたくさん置いている店もあれば(私が好きな店は異様に諸星大二郎作品の品ぞろえが良かった)、ジャズやヒップホップのCDの取り揃えが良い店なんかもあって、そんな微妙な違いを楽しむのが好きだった。もっと言えば置いてる作品の充実度だけじゃなく、棚の配置とか、店員さんの感じの良さとか、床の色や照明の違いだけで同じように見える「TSUTAYAさん」も色んなバリエーションがあることが分かり、そんな中で自分にとってのお気に入りの店があるのは”安心感”みたいなものにも繋がっていたように思う。
お目当てのDVDがレンタルされると同時に借りに行く日もあれば、目的も無くただぶらりと寄ってみるのもまたいい。誰かと一緒に立ち寄るときは相手が好きそうな作品を選ぶ遊びをしたり、とにかくつまんなそうな映画を選んで鑑賞会をしたりと私にとってレンタルDVDショップは一種の遊び場だった。
うん、とはいえ配信に慣れてしまうとやっぱりレンタルって面倒な部分もあるのはよくわかる。棚から探すって作業はもう私も億劫に感じるようになったし、返却するっていうのもまた面倒。そういえばむかし友人とファミレスでうん時間だらだら過ごしていたとき、友人の一人が返却期限日のレンタル作品があることを思い出すという『THE3名様』のエピソードそのままの出来事がありました(友人はあまり気にしていなかったので翌日返したようですが)。ポスト返却とかもあるし、返却期間を一週間以上にできたりもするけどやっぱり単純に面倒、という気持ちは理解できます。
でもやっぱりレンタルショップは楽しい場所だよ。がやがやと色んな人が棚を見つめていて、映画を真剣に、あるいは適当に選んでる。みんなきっと映画が好きなんだろうなと感じるし、おそらく私はその光景自体が好きなんだろう。
去年の年末ころ『ニーチェの馬』を借りるため久々にTSUTAYAに行ったときのこと。作品を見つけて棚の前で『ニーチェの馬』のパッケージを眺めていたら知らないおじさんが急に話しかけてきて「それ良いですよ」って教えてくれたことがあった。ちょっとびっくりしたけど話を聞いていたらタル・ベーラ監督作品が好きだということがわかり、『サタンタンゴ』と『倫敦から来た男』もすすめられた。たぶん人によってはわずらわしいと思うかもしれない出来事だけど、配信では得られない体験でなんだかわくわくした思い出として記憶に残ってる。
そしてこんな風に書いといてなんだけど、だからと言ってレンタルショップに行く気はやっぱりあまり無くて、配信等ではどうしても見られないDVDレンタルの作品があるときくらいしか使う予定はない。だからこの記事はただの思い出話。ちょっと思い出しただけのつらつらとした日記だ。でも無くなってほしくはないのでたまに気が向いたとき足を運んで見ようと思う。
あ、ていうかミヒャエル・ハネケが製作した『城』を手軽に観る方法どなたかご存じないですか……。DVDは品薄で価格高騰してるし、DVDレンタルでは見つからなかったし、配信もなしなんですよね。THE不条理。
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