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クラウドたろう『ファイナルファンタジーⅦリバース』

むかし、むかし、ある所にクラウドというソルジャーがおりました。
クラウドは星の命を守るため巨大企業に戦いを挑み、エコテロリストとして指名手配されていました。
戦いの途中、クラウドはエアリスという花売りに出会い、
「クラウドさん、お花は要りませんか」
「ひとつもらおうか」
「お礼に旅のお供をします」
というやり取りがあったかどうかは知りませんが、エアリスは仲間となりました。
戦いを続けていくうちに、元凶が「セフィロス」という男にあることをつきとめた一向は、巨大企業の町を抜け出し世界をめぐる旅に出ます。
猿やキジを仲間に入れ、セフィロスを目指すクラウド。
たどり着いた島の名前は「忘らるる都」。
星の命を守るため、エアリスは聖なる呪文を唱えますが、あと一歩の所でセフィロスの魔手にかかり、命尽きてしまうのでした。
こうしてクラウドは深い絶望の淵に沈み、仲間たちみんなも悲しみに暮れましたとさ。
いたわしいたわし。

☆☆☆☆☆☆☆

例えば、帝国軍にいる黒マスクの正体が実の父であったり、漂着した惑星が地球であったり、小児精神科医の主人公は自分が死んだことに気づいていない亡霊だったり、犯人はヤスだったりと、世の中には「公然のネタバレ」がいくつか存在する。してると思う。ネタバレにあたる部分こそが作品のであり、内容を語る上でその核を避けては通れないような作品が。
この『ファイナルファンタジーⅦ(以下FFⅦ)』という作品も、たぶんそうで、ある程度ゲーム界隈のネタが通じる方であれば周知の、なんなら必修科目とさえ言えるネタバレが存在する。
それは、メインヒロインであるエアリスが冒険の途中で死ぬということだ。
エアリスは死ぬ。
原作である『FFⅦ』は97年当時、ゲーム業界で最も注目されていたタイトルのひとつで、そのストーリーラインは衝撃を持って迎え入れられた(らしい)。メインヒロインのひとりであるエアリスが死ぬということを受け入れられないユーザーは、なんとかしてそのルートを変更出来ないかと様々な方法を試し、マルチエンディングの可能性を探ったのだが(要出典)、ご存じの通りその結末は避けられない。
どうあがいてもエアリスは死んでしまう
私はネタバレをあまり気にしない方で、映画であれ小説であれゲームであれ作品の内容を事前に知ってしまっても大した問題では無いなあと思ってたりする。なんというか、「どんな物語か」よりも、その物語を自分が「どう受け取るか」の方が重要な気がするし、さらに言えば、ファーストインプレッションだけで、何かを断定してしまうのは嫌、というか怖いなと思ってるから。一方で初見の気持ちを大事にしたいという気持ちもあって、積極的に事前情報を集めたいとも思ってなく……。ていうかそもそもネタバレの基準って何だろうとか考えてしまう。
まあ、私の話はどうでもいいや。
ここで言いたいのは、『FFⅦ』とはそういった、遊んだ人みんなにとって記憶に残りすぎている重大なイベントがあるゲームだということ。おそらくゲームをやっていない、なんなら『FFⅦ』に興味の無い層にまで浸透しているイベントが。
実際、私がはじめて『FFⅦ』を遊んだときも、周りの友人間にはこのゲームの知識がある程度共通のものとして備わっていたように思う。クラウドという金髪ツンツン頭のビジュアル系っぽいやつが主人公で、銀髪ロングで自分の背丈よりも長い日本刀を持ってるのがセフィロスで(いったいどうやって持ち歩いてるんだ?)、赤色のジャケットとピンク色のドレスを着てるポニーテールがエアリスで、彼女が途中で死んでしまうということは、自分もはじめから何となくは知っていた。

こいつがセフィロス。冒険中、クラウドの前に何度も現れる


「エアリス死んじゃうのショックだよね~」
なんて会話を、まだそのイベントに辿りついてない状態の私に平気で振ってくるクラスメイトもいて、それくらいみんなが知ってる「あたりまえ」だという認識があったのだと思う。

では、リメイク版でも同様にエアリスは死ぬのか?
今作のフックはまさにそこにある。

というわけで、『ファイナルファンタジーⅦリバース(以下FFⅦリバース)』クリアしました。
ゲーム中盤のクライマックスにあたる”忘らるる都”までの話を元に、PS5でリメイクした作品。FFⅦリメイクプロジェクトの二作目に位置し、前作『ファイナルファンタジーⅦリメイク』の続編となる(うーん、ややこしい)。

なお、FFⅦリメイクの感想はこちら。


『FFⅦリメイク』で”運命の壁”を越えたことから、『FFⅦリバース』は、原作に必ずしも準拠しない物語となることが示唆されていた。
例えるなら、スパイダーマンの映画に近いだろうか。
主人公の生い立ちや戦いの目的という基本設定はだいたい同じだけれど、時代を経る度にリブートされ、しかし派生作品や積み上げてきた歴史によってその都度、過去作の文脈も加わってくるような。
『FFⅦリバース』は原作の真ん中くらいに位置する話なので、じゃあどれくらい原作から離れた物語になるのか、個人的にはそこが楽しみだった。
とはいえ(当たり前のことかもしれないけれど)、大筋は原作からさほど逸脱してはいない。
大きく変わっているのは「グラフィック」と「遊び」の部分。

まず、オープンワールドを採用していることから街が広い。めちゃくちゃ広い。最初にクラウドたちが訪れる街”カーム”からして相当広く、適当に歩き回ってるだけでかなり時間を使う。そして行く先々に何かしらイベントや報酬があるので(本筋とは関係の無いカードゲームが楽しい!)ぶらぶら散策したくなる。
広いのは街中だけではない。
カームの街から抜け出すと見渡す限りの広大な景色がクラウドたちの前に現れる。どうやら、街や洞窟等、場所の位置関係は原作と同じなようで、山や木々をアイコンとして配置しているだけだったPS時代における「ワールドマップ」が、リメイク版では高低差をともないリアルな景色として眼前に広がっている。見渡せる範囲にはだいたいちゃんと行けるようになっていて、はじめのうちはただ走り回っているだけで感動した。懐かしい~、でもすごくリアル~、という具合に。移動手段はクラウドを操作して走り回る以外にも、チョコボで草原を駆けたり、壁を登ったり、滑空したり、エリアによってはバギーカーをつかってドライブすることもできる。
エリアや章によって風景は大きく変わり、有効な移動手段も異なることから、「散策すること」をなるべく飽きさせないように作られていると感じた。
余談だけど、行く先々で必ず先回りしてるチャドリーくんは絶対強いでしょ。少なくともクラウド一向よりかはずっと。

広い広ーい世界。浅瀬や川では泳ぐこともできる。でもみんな着替えずに泳ぐので、その光景はちょっと異様だ


そして、楽しいのが戦闘。3人体制で戦うこととなるバトルシステムは、爽快感とスピード感があってとてもよかった。
今作から「連携アクション」という仲間との合体技が追加され、色んなキャラ同士の連携技が見られるようになっている。操作感はキャラクターによってそれぞれ異なっており、接近戦が得意なキャラ、遠距離攻撃を主軸とするキャラ、魔法を使いこなすキャラ、ギャンブルっぽい戦い方が出来るキャラなどいろいろ。個人的にはユフィが使いやすくて操作キャラとして愛用していた。近距離からも遠距離からも攻撃できるし、動きが素早く、分身の術や種々の属性攻撃も可能と隙の無い性能。制作陣の偏愛を感じるくらい使いやすいキャラだった。
ショートカットボタンを決めておくとスタイリッシュに技を決められ、自分がすごく上手いプレイをしている気分になれるのも良い。つまりアクションが下手な人への救済措置が多いのだ(私のことだ)。
また、「操作しているキャラがもっとも敵から狙われやすくなる」「ノンプレイヤーキャラはガードや回避が上手い」という二点がバトルにおいて結構重要なポイントとなっていて、これにより、後半になるほど「操作キャラを適度に切り替えて戦う」ことを求められる場面が増えてくる。というかそれを前提としたバトルシステムになっていると思った。そしてそれは、一人のお気に入りキャラクターだけでなく、色んなキャラを操作する機会ともなるわけで、自然とパーティメンバー全体に愛着が湧いてくる。グッド。この点で、前作以上に多人数バトルであることに意味を持たせることが出来ているなあと感じた。

凶切りをするクラウド。かこいい


そういった、「ゲーム部分」の楽しさとは別に、『FFⅦ』特有の良さというやつがあって、リメイクプロジェクトでもちゃんと引き継がれていた。
それは、仲間たちの和気あいあいとした様子である。
『FFⅦ』の大きな魅力はキャラクターにあると思う。そしてこのことはパーティの賑やかさとも関係する。主人公クラウドの性格がやや(やや?)暗いこともあってか、周りのメンバーはユフィをはじめ明るかったり、うるさかったりするやつが多く、それが主人公とストーリーの暗さを払拭してくれていた。
何と言っても嬉しかったのは、グラフィックが格段に進化し、FFシリーズの代名詞とも言えるフォトリアルな人物たちが、3Dポリゴンのころと同じようにコミカルに振る舞ってくれていたこと。
そうそう、『FFⅦ』って案外笑えるシーンが多いんだよな、と懐かしくなった。
仲間内での掛け合いにもギャグっぽいのが多いし、私が好きな『FFⅦ』らしさはちゃんと残っていて、そこら辺は特に好感触(若干時代錯誤なギャグもあったりしたけど)。

あと、エアリスがかわいくなってた。かなり。
原作ではちょっと”不思議な子”くらいの印象だったのだけど、うっとうしく無い程度にクラウドに好意を示し、パーティ全体を明るくしている。過去話を描くことでさらにキャラの掘り下げをしていたし、「今作のヒロインはエアリスなんですよ」という作り手のメッセージみたいなものがちょっとあざとく感じるくらいに配置されていたように思う。
ちなみに、本作には隠しパラメーターとして各キャラのクラウドに対する「好感度」が設定されている。冒険途中に挿まれる会話でどの選択肢を選ぶか、戦闘においてどれだけ連携アクションをしたか、みたいな感じで。
んで、このパラメーターが一番高かった相手とはゲーム終盤で「デートイベント」が発生するという仕様となっている。
私はというと、あまりそこら辺は気にせず適当に遊んでいたのだけど、選ばれたデートイベントのお相手はナナキだった。桃太郎でいうところの。強くたくましいわんこの子。きびだんごをあげると仲間になります(大嘘)。これはきっと私の本心が反映された愛の成せる技でしょう。

レッド13(ナナキ)。とても良い子。


さて、ストーリーについて。本作のプロットは「それぞれが過去と向き合う話」として作られているように感じた。バレットは故郷の町へ戻り、右腕を失った過去と向き合い、ナナキも故郷へ戻り、父親の真実を知る。FFⅦで仲間となるキャラの多くは実はちょっと無理をしていて、人によっては悲しいときでも明るく振る舞っていたり、大人ぶってみたり、感傷なんて無いように強がって見せたり、なんというか、自分を見失っているキャラが多い。少なくとも私はFFⅦのメンバーにそういう印象を持っている。
そしてその代表がクラウド。彼は「特別になりたかったけれど、特別でもなんでも無い自分」に気づいてしまった人であり、それを補い隠している人物だ。
このことは最終作となる次作でより深く語られるはずの要素で、『FFⅦリバース』においても話の途中途中で「自分と向き合う」というテーマがからんでくることとなる。自分が何者なのか、どれだけ矮小なのか、それをどう受け止めるのか。そういったテーマは、ゲームファンだけで無く多くの人に伝わるものであり、原作の『FFⅦ』がいろんな人の心を掴んだ理由はここら辺にあるように思う。

ゲーム中は本編以外にも数多くのミニゲームが用意されている


また、「やり直し」はリメイクプロジェクト全体のテーマと言えるだろう。星の運命の番人”フィーラー”という新たな要素を組み込むことで、違った世界線の可能性を示し、一種のマルチバース要素を入れてきたリメイクシリーズ。今回の『FFⅦリバース』でも、原作を遊んだ人が再びプレイしていることを前提としたシーンが多数用意されていた。

つまり、このゲームの面白さでありエモーショナルな部分とは、『FFⅦ』という名作ゲームの歴史背景を利用した演出にあって、原作で不可能だった「エアリスを守る」ことが直接的には明言されてない目的としてあるのだ(ナナキとのデートイベントに進んだ人にははっきりと明言されるけど)。そこに、他の作品には無い感動が発生するよう設計されている。

が、本作はそのように別の世界線に進む話だと、その可能性を暗示させつつ進行しておきながら、ラストにおいて、
「やっぱり救えなかった」という結末を迎える。
じゃあ何のための「分岐点」だったんだよ!と思いそうなものだ。てか私は最初そう思った。でもこれは、主人公であるクラウドを「信用できない語り手」として見ると少しわかってくる部分があって、彼の見ているものが、あるいは彼の語っている言葉が、仲間たちと上手く共有できていないのは、クラウドのみ二つの世界線が重なった状態でいることを意味しているから、なのだと思う。

原作は、「仮に偽物の記憶であっても、今この場所(コミュニティ)にいる自分は本物なのだ」と、そういうアイデンティティについて語ったゲームだった。
では、マルチバースによって分岐した中で、あちこちに偏在する自分を自分と規定するものとは何なのか。そして、「既定のルートに従うべきか、何かを壊してでも抗うべきか」といった、まだ明確な解答が共有されていない問いに対してどのような結論を提示するのか、そこが気になるところ。おそらくそれについては次作で描かれるのだろう(ただの妄想だけど)。

ザックス曰く、「世界は交わりまた別れる、そしてまた交わる」らしいので。

というかセフィロスは毎回ラスボスとして登場するんですね。なんだかハリー・ポッターの名前を言ってはいけないあの人みたい。リメイク版はクラウドに対する執着みたいなものが強めに描かれてたから、そちら方面(どちら方面?)が好物な方にもおすすめしたい気持ち。

しつこいくらい何度もクラウドの前に現れるセフィロス。ストーカーかおのれは


終盤は『FFⅦリメイク』同様ムービーシーンと会話イベントのオンパレードで正直かったり~、と思いましたし、なんだか思わせぶりかつ意味の掴みにくい台詞が多いので、また悪いクセ出てんな~とも思ったのですが、ラストバトルが音楽・演出ともに激アツだったのでなんだかんだと相殺されました。相殺されたことにしました。

ラストの「周りに受け入れてくれる人がたくさんいるのにそれがよく見えていないクラウド」という構図は、自分や、身近な誰かと重ねてみることが可能だろうし、シリーズ真ん中の締め方としてはクリフハンガーとなっている。あわせてメリーバッドエンド感が漂っていていい感じだ。
というわけで、完結編となる次作が楽しみとなる作品でしたとさ。いたわしいたわし。

なお、この感想はネタバレを含みます(遅すぎる注意喚起)




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