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クアッド及び中国の重要技術評価(1)(ASPIの報告書)

写真出展:Pete LinforthによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/thedigitalartist-202249/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=2254769

 豪州戦略政策研究所(ASPI)は2021年11月30日に、クアッド及び中国を取り巻く、重要技術政策の現状に関する報告書を発表した。内容は、4つの技術(水素エネルギー、太陽光発電、遺伝子組み換え技術、ワクチン・バイオテロ対策)に関する各国の政策、特許申請件数、論文数などから重要技術における有意性や経済への影響力を概観するものである。
技術については大きく注目されており、半導体などがその中心にあるが、現代の技術は複雑多岐にわたっており、その全体像を把握するのはそう容易ではない。今回の報告書は、現代の重要技術を整理し、今後の展望を見通すうえで参考になると考えられることから、その概要を紹介させていただく。なお長文になることから6回に分けて紹介することとする。

↓リンク先(Benchmarking critical technologies)
https://www.aspi.org.au/report/benchmarking-critical-technologies

1.本報告書の内容(1)について
 ・2021年3月のクアッドの首脳会談において、クアッドの重要技術ワーキング創設が発表された。このワーキンググループは「技術の設計、開発、ガバナンス及び活用が、クアッド構成国が共有する普遍的な人権の価値及び尊重により形成されるようにする」ことを目的としており、中国を名指ししなかったものの、明確に意識した内容となっていた。クアッドが中国に対処していくには、中国の能力を十分に理解すると共に、各国の強みと弱みを理解し、サプライチェーン上の弱点を克服していく必要がある。
   ただ現状において、能力や優先的に取り組む分野に関する実証的かつ十分なデータが整備されていない。このことから、今回の重要技術評価事業において、より明確化され、政策決定上の根拠となる情報提供の試みを実施することとした。今回取り扱う分野は、オーストラリア政府との調整の後、エネルギー部門では水素エネルギー及び太陽光発電(ソーラーPV)技術に、バイオテクノロジー部門では遺伝子組み換え及びワクチン・バイオテロ対策に決定した。
  ・国家の能力を用化するため、特許及び特許の影響力や学術への永久力などのデータを活用し、国家の政策目標と比較することとした。特許においては質及び量に着目し、具体的には特許の引用数、他の研究への影響力、マーケットシェア、総合的な経済的競争力などを考慮したデータを作成している。また政策については、政策文書、戦略、予算などを考慮し、その達成度を5段階で評価することとした。
  ・まず特許の全体としての評価は、量は必ずしも質を意味しないということである。中国は特許申請件数が最高レベルに多いが、それに見合ったほどの経済的影響力がない。オーストラリアインド、日本は特許申請件数が少ないものの、影響力という点においてはアメリカに比肩しうるものとなっている。
    ただ特許の影響力が、国家の政策目標を達成する能力を示すとは限らない。アメリカはおおむね政策と結果が合致しているが、中国は目標達成に向けた具体的な動きが見られるものの、必ずしも結果が出ているわけではない。インド、日本、オーストラリアは、イノベーション能力が欠けているわけではないものの、効果的に政策目標を達成することができていない。
  ・中国は研究者が特定の政策目標を達成するために研究することにインセンティブを与えている。また比較的小さい範囲で特許を取得する取り組みにより、最初に市場を掌握し、一定程度の支配力を持ってから製品を改善するという取り組みとなっている。従って中国の特許は質が低いが、政策目標を達成する能力が低いということにはならない。クアッド各国の研究成果は、戦略文書に先行して達成されている場合が多いが、必ずしも数が多いわけではない。このため、クアッドのような協調関係を構築するとともに、重要技術の現状把握、個々の重要技術への理解、サプライチェーンとの依存関係を政府職員が十分に理解し、今後の戦略策定に活用していく必要がある。
  ・今回の報告書における提言は以下の通り。
   ① 技術的成果を定量的に評価するための手法を構築するべきである。研究に関する論文の用語集、政策文書に活用するべき文言の整理、特許の実用可能な応用を模索するための産官学の連合組織の創設などが考えられる。
   ② クアッド間の研究コミュニティをつなげる先端技術ネットワークを構築するべきである。また既存のネットワークも有効活用するべきである。重要技術基金を創設し、新興技術格差を解消するために配賦するべきである。また効果的に基金を活用するため、官民共同投資も考慮に入れるべきである。
   ③ クアッド各国の相対的な強みと弱みを評価する能力を確立するべきである。特定技術のサプライチェーンの優位性を評価し、各国が補完することができるのか、その他の手段が必要になるのかを見出し、政策的資源を効果的に振り向けるべきである。

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