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南アフリカの小型原子力発電所事業

写真出展:WikiImagesによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/wikiimages-1897/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=67669

 2021年11月23日にCFACTは、南アフリカの小型原子力発電所事業の現状に関する記事を発表した。内容は、南アフリカにおける小型原子力発電所事業の歴史、現状及び今後の展望について概観するものである。温室効果ガス排出削減などで多額の予算を要求するなど、ある意味では問題児とされている南アフリカであるが、国益を確保するために強かに振る舞っていることが良く分かる優良な記事であることから、参考としてその概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Small modular reactors – designing nuclear energy for African landscapes)
https://www.cfact.org/2021/11/23/small-modular-reactors-designing-nuclear-energy-for-african-landscapes/

1.本記事の内容について
 ・南アフリカはその地理的制約から、大規模な原子力発電所の整備に苦慮してきた。海岸線のある南西部のケーバーグにアフリカ大陸で唯一の原子力発電所を設置しているが、鉱山などがある北東部への効率的な電力供給ができないでいる。鉱山はケーバーグから1000km程度離れており、かつ砂漠地帯であることから原子力発電所に必要な冷却水の水源を確保することができないのである。また石炭が取れるのは北東部の鉱山であり、ここから全土へ電力を供給することも、送電効率の観点から望ましくないのである。
 ・このため、南アフリカは1990年代から冷却水を必要としない小型原子力発電所の開発に多額の投資を行ってきた。大型のものを建設することも検討されてきたが、建設が容易で、部品のように既存の電力網に付け加えが可能な小型の発電所を優先した。当初の設計では水の代わりにヘリウムガスにより冷却することとし、核燃料はグラファイトから構成される、クリケットのボールサイズの燃料ボールを採用することとした。この方向性で、南アフリカの小型原子力発電所事業が推進されてきたのである。
 ・本事業は延べ2000名の職員により推進されており、2008年には試作機の建造準備を進めていたが、リーマンショックにより金融機関からの十分な融資を受けられなくなり、政権交代も重なり、本事業はしばらく停止されることとなった。また環境保護や地球温暖化対策などの機運が高まり、クリーンなエネルギーを志向する世論が形成されたことから、原子力発電事業が批判されたことも痛手となった。
 ・プレトリアで小型原子力発電所事業に従事していたグループは新たに民間企業を立ち上げ、企業や投資家から資金を募り、本事業を再開することとした。また安価かつ早期に着工できるようにするため、重要な設計変更を行った。まずヘリウムガスの温度を940℃から750℃に低下させることとした。温度を低下させることにより、設計及び製造の複雑性が軽減されることとなった。次にタービンの回転にヘリウムガスを使うのをやめ、既存の原子力発電所と同様に水蒸気を使うよう変更した。このことにより、原子炉の川下の部品が全て既製品にて代替することが可能となり、安価に製造することが可能になった。当初の設計通り、「部品」として既存の電力網に組み込むという方式には変更を加えなかった。
 ・この結果誕生した第5世代原子炉の「HTMR-100」は、100メガワット級の小規模原子力発電機であるが、これは大量の水を必要とせず、適切にヘリウムガスの温度を管理すれば、寒冷地にも配備可能である。このことの利点は、政治家やビジネス業界にも広く知れ渡るようになってきている。南アフリカのエネルギー大臣もこの動きを後押ししており、2500メガワット分の電力を原子力発電で賄う事業を推進している。また誘致候補地も複数あり、今後、整備や運用の経験を積み重ねていくことにより、アフリカ全土でも展開も可能になるだろう。
 ・ヨーロッパは各国が比較的狭い地域に固まっており、電力網が相互に接続されていることから、電力の融通が可能であるが、アフリカ大陸は巨大であり、このような電力網の構築は容易ではない。従って鉱山のような人里離れた場所で周囲数10~20km程度の電力を賄うというのであれば、小型原子力発電所は最適の選択肢である。またアフリカが発展した暁には大規模な電力網に組み込むことも可能であり、今後アフリカの電力供給には原子力が大きな役割を果たすだろう。

2.本記事読後の感想
  南アフリカは、いい意味でも悪い意味でも目立つ国である。BRICSの一角として次世代を担う経済大国になるかと思えば、高い失業率に苦しんでおり、安全保障においては核兵器を開発しようとしたり、地球温暖化対策では発展途上国を代表して先進国に7500億ドルもの予算を要求するなど、非常に精力的で、ダイナミックな国である。
  ただ一貫していることは、国益を堂々と主張し、少しでも利益を確保するよう必死に活動しているということである。今回の小型原子力発電所事業もその一部であると言える。
  しかしながら、発電所の安全性や核のゴミの処分といったことについてはあまり気にしていないようだ。砂漠地帯が多いことから、設置場所や処分には困らないということなのかもしれないが、やや非民主的な政策になっているようではある。
  いろいろと欠陥はあるものの、こういった行動を取れる政治的なエネルギーにあふれていると言う点は何とも羨ましい。岸田総理は、COP26の際に行われた日英首脳会談にて石炭火力発電全廃に関して有効な反論ができなかったらしく、苦し紛れに貴社には石炭火力の全廃について話題に上らなかったと説明したようだが、イギリスの文書には全廃に向けた取り組み目標を設定するといった趣旨の内容が掲載されてしまった。このような体たらくで果たして国益を確保するような行動を取れるだろうか。
政権が頼りにならないのは仕方がないため、世論の力で脅威を与えるしかない。幸いにして、原油価格が高止まりしていることから、代替エネルギーを模索する機運は高まりつつある。こういった機会を逃さず、政権に対して厳しく現実的なエネルギー政策を求めていくべきである。

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