サッカー業界のマネーロンダリング対策(RUSIの記事)
写真出展:Michael KinによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/michaelkin-19778580/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=5901671
2024年1月25日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、サッカー業界におけるマネーロンダリングの状況とその対策に関する記事を発表した。内容は、EUが導入したサッカー業界へのマネーロンダリング対策を概観し、イギリスのプレミアリーグにおける対策について提言するものである。
ここの所スポーツに関する汚職が騒がれているが、世界標準の議論がどのようなものになっているのかについて日本語の情報空間ではあまり情報が出回っておらず、潔癖症の日本人はどこに着地点を求めるべきかを判断しにくい状況がある。政治とカネの問題を考える参考として、本記事の概要を紹介させていただく。
↓リンク先(Money Laundering in Football: The Not So Beautiful Game?)
https://www.rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/money-laundering-football-not-so-beautiful-game
1.RUSIの記事について
・2015年5月、アメリカの連邦検察官はFIFAの重役9名をマネーロンダリング疑惑で訴追した。その疑惑とは、メディアの表彰や放映権を巡って1.5億ドルを賄賂として受け取ったというものであり、美しいサッカーの試合の下で汚職が蔓延しているのである。
・サッカーは最も人気があるスポーツであり、資金も潤沢である。その年間売り上げは6000億ドルであり、欧州委員会はマネーロンダリングや違法金融の主たる対象となっていると注意喚起している。欧州刑事警察機構は、組織犯罪とスポーツ汚職の密接な関係を指摘しており、違法賭博の資金流入があるとしている。欧州委員会も、FIFAの法的枠組みがマネーロンダリング対策としては不十分と指摘している。
・過去10年間においてFIFAは汚職スキャンダル対応に苦慮しており、EUはサッカー業界の重鎮についてもマネーロンダリング対策の枠組みに組み込むこととした。この取り組みは5年間の時限立法であり、サッカー業界が自浄作用を示した場合には本取り組みから除外される仕組みとなっている。
・サッカー業界の汚職は長い歴史がある。2009年に融活動作業部会は、クラブ買収、選手のトレード、放映権などを通じて違法金融活動が為されていると指摘しているが、ここ15年間はほとんど変化していない。そこでEUは新たな規制を設け、クラブの運営者に強力なマネーロンダリング対策を求めるようにしたのである。
・サッカー業界は、長らく海外からのマネーロンダリングの温床となってきた。例えばロシアのオリガルヒであるアブラモビッチはチェルシーのオーナーだったが、ウクライナ戦争以降経済制裁によりクラブを手放すこととなった。またサウジアラビアの国家投資ファンドが、ニューキャッスルユナイテッドを買収しており、フランスのサンジェルマンも、カタールの国家投資ファンドの買収を受けている。
・このような状況を受け、イギリスのプレミアリーグについても対応が求められている。プレミアリーグの売り上げは55億ポンドとなっており、欧州では最も利益を上げている。2023年12月にはナイジェリアの事業家が汚職で立件されており、イギリスの薬物犯罪局の報告書にて8クラブがアジアの違法賭博企業との関連が指摘されている。
・規制当局がサッカー業界を御しきれるほどの権限を持っているか否かについては、疑問がある。EUの時限立法の成果は乏しいものであり、より強力な対応が求められている。このような動きを受けてプレミアリーグも対策を進めており、金融規制に抵触したクラブに対して罰金を課すことを決定した。サッカーは利益を上げられる産業であり、資金の流入は止みそうになく、型通りの金融規制を適用しようとしてもあまり効果をアが得られることはない。今こそマネーロンダリング規制当局の強化が必要である。
2.本記事についての感想
オリンピック、万博から自民党のパーティー券裏金問題まで、政治とカネの問題に皆さんはうんざりしているだろう。ただ汚職を無くすことはできないのであり、騒ぐにしてももう少し桁の多い問題にするべきだとは思う。
さて今回はサッカーにおけるマネーロンダリング対策を取り上げたわけだが、スポーツは汚職にまみれており、きれいに運営されているわけではないのが現実である。日本人はいい意味でもう少し大人になって、ある程度の汚職は織り込み、一定以上(世界標準で見て適正と言える水準)のものを批判するべきだろう。
2000年以上前の話になるが、中国の蘇秦がその悪辣さを批判された際に、伯夷・叔斉は清廉だが何の役にも立たなかったと反論して却って重用されたという事例があるように、潔癖小僧は役に立たないのである。汚職は極力減らしていくべきだが、清廉さを求めるあまり、無能を重用する結果となっては国益を損なうという視点を持つべきである。
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