オーストラリアの原子力潜水艦計画(IISSの記事)
写真出展:Michel van der VegtによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/michel_van_der_vegt-949737/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=2439277
英国国際戦略研究所(IISS)は2021年9月17日に、オーストラリアの原子力潜水艦の背景説明に関する記事を発表した。AUKUSの発表でにわかに注目されるようになった、オーストラリアの原子力潜水艦に至るまでの経緯や今後の展開についてわかりやすく書かれた記事となっているため、その概要を紹介させていただく。
↓リンク先(Australia’s well-kept nuclear-submarine secret)
https://www.iiss.org/blogs/analysis/2021/09/australia-submarines
1.本記事の内容について
・AUKUSによる、3か国の安全保障パートナーシップが発表されるに伴い、オーストラリアは、900億豪ドルのフランスとの原潜建造契約を破棄し、米英の次世代原潜に切り替えることを発表した。これは秘密裏に進められていた計画であり、ほとんどのオーストラリアの政治家や官僚にも知らされてこなかった。
・フランスとの原子力潜水艦建造契約は、納期の遅れや認識の不一致などによる感情的対立により問題視されていた。しかしこのような突然の打ち切りに至ったことは驚くべきことであり、オーストラリアを取り巻く安全保障環境の劇的な変化を認識していることの現れと言える。
・モリソン首相は、核兵器を搭載した潜水艦を整備する予定はなく、NPTの義務に服すると表明しているが、今後の展開については不透明である。いずれにせよ、2035年(当初の配備予定年)よりも前に配備することが目標と見られており、少なくとも8隻のアタック級潜水艦を保有し、南オーストラリアに配備することを表明している。詳細な仕様については、防衛省内に設立予定の原子力潜水艦タスクフォースが担当することになり、今後18か月かけて作業が行われる。
・原子力潜水艦配備の決定は米豪の同盟強化を意味するが、同時に原子力の燃料をアメリカ、イギリスに依存することにもなる。オーストラリアは濃縮ウランを生産することを考えておらず、小型の実験炉以外のインフラも整備されていない。ある程度独自の安全保障活動を犠牲にすることにはなるが、原子炉技術の供与、潜水艦乗員の訓練などの支援を受けることになるだろう。
・アメリカがヴァージニア級の原子炉などの技術を供与するという提案は、破格のものであり、フランスが技術供与しなかったのとは対照的である。このような措置は一度限りの例外であるとしつつも、冷戦時並みの対応であり、オーストラリアへの信頼の厚さがうかがえる。
・今回の決定に至るまでに、オーストラリアによる長期間の技術供与に関するロビイングも寄与していることは確かであるが、中国の戦略的技術の発展によりアメリカの優位性が失われつつあり、このことにより後押しされている側面もある。アメリカは海底の分野では強みがあるが、同盟国の連携により、極超音速兵器、ミサイル技術、量子分野、AI、サイバーなどの分野で相互に利益を得られるということも見越している。
・オーストラリアの潜水艦の行動領域は、東インド洋から南アジア諸島、中国沿岸域にまで及んでおり、潜水時間の確保が重要である。原子力潜水艦は、長時間の潜水が可能であり、大型にすることで乗組員の生活環境向上も期待できる。しかし、乗組員や将校の確保に苦慮しており、現状維持が最重要課題となる。特に、原潜へ移行するに伴い、新たな訓練が必要になるだけなく、沿岸基地での支援活動も必要になることから、定員を純増していくことが重要になる。
・オーストラリアは中国の脅威に対抗するために原潜を整備する必要があるが、問題は、原潜に必要な産業や科学を発展させられるか、既存の防衛予算を削減することなく事業を継続することができるか、次の地域の有事に間に合わせることができるのかということになるだろう。
2.本記事についての感想
当初、日本のディーゼル式潜水艦の契約が不首尾に終わった際は若干残念だったが、フランスが契約に乗り出したということで、うまくいかないだろうと見ていた。鉄道などのインフラを見ていても、フランスはあまりしっかりしておらず、仕様変更や納期の遅れなどはそれなりにあったわけで、今回もその通りとなったのだろう。オーストラリア政府とフランス側での背景でのやり取りはわからないが、入念な根回しがあったというよりは、オーストラリアがあきれ果てて三行半を突き付けたかっこうなのだろう。
これは、オーストラリアが安全保障に本気で取り組むということの現れであり、インド太平洋地域の安全保障でより存在感を示すことになるだろう。
今回のような姿勢は、日本が最も見習うべきものであり、大幅な防衛予算の増額、これまでにない兵器の開発、敵基地攻撃能力の導入など、取り組まなければならない課題が山ほどある。今度の総選挙では、ぜひとも安全保障を争点の一つに据えてもらいたいものである。
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