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資産凍結から接収まで(RUSIの記事)

写真出展:From Freeze to Seize: Creativity and Nuance is Neededhttps://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/freeze-seize-creativity-and-nuance-needed

 2022年6月7日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、ウクライナ紛争を巡るロシア関連資産の凍結及び接収に関する現状についての記事を発表した。内容は、最近のアメリカ、カナダ、EUの法案の紹介及び今後のあるべき姿について提言するものである。
経済制裁によりロシアには大きな経済的打撃を与えているが、凍結資産の回収についてはあまり議論になっておらず、本件について日本では情報が少ない。今回の内容は今後の経済制裁の枠組みに大きな影響を与える可能性がると考えられることから、参考として本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(From Freeze to Seize: Creativity and Nuance is Needed)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/freeze-seize-creativity-and-nuance-needed

1.RUSIの記事について
 ・ロシアのウクライナ侵攻から100日を経過し、西側諸国のロシア資産への制裁も継続しているが、その制裁の在り方についての議論は政治的課題となっている。ここ数週間におけるアメリカ、カナダ、EU間の議論はより抑制のきいたものとなってきているが、最終目標は凍結されたロシア関係資産を法の支配のもとでいかに接収するのかということで一致している。
 ・凍結された資産は、オリガルヒ、ロシア中央銀行などのものであり、犯罪との関係性は確定していないため、その接収については議論の対象となっている。4月にアメリカが口火を切る形で、ロシア政府及びオルガルヒの戦争責任を問う包括的法案を提案した。本法案は、ロシアの暗号通貨と関連のある資産を接収する、政府がウクライナ支援をするための仕組みを構築するといった構想を含んでいる。その他、制裁を回避しようとする関連資産やRICO法違反の資産、ロシア政府との故意・過失の癒着により得られた資産の接収も提案されている。
 ・カナダは、難民を発生させたり、人道上の救済を必要とさせるような海外要人の凍結資産を接収する古い法案を衣替えして提案した。凍結再利用法は、制裁対象のロシアのオリガルヒを接収もしくは売却しつつ、ウクライナを支援するために再利用するのである。
 ・5月末に欧州委員会は、資産回収及び接収指令を提案した。これは資産回収及び管理局を創設し、犯罪関連の資産を追跡する権限を与え、凍結資産を活用しようとするものである。アメリカの法案と同様に組織犯罪に関連する資産や制裁回避の資産を接収する手続きを定めている。EU諸国で制裁回避を刑法犯としている国が12各国であることを考えると、これは重要な前進である。
 ・これら3つの提案には、いくつかの共通原則がある。第一に、ロシア中央銀行のような大きな資産を有する組織からの賠償を考慮するのではなく、犯罪と関連があるか否かを判断し、オリガルヒの資産を接収するということである。アメリカとEUの提案は、組織犯罪にまで拡張することを考慮している。特にEUの案はイタリアの反マフィア法の資産回収の枠組みを取り込んでおり、犯罪と資産との関係性を立証することを求め、組織犯罪一般を対象とすることを明言している。
 ・第二に、制裁回避についての着目である。アメリカは既存の法律により、制裁対象となっているオリガルヒのヨットを接収することに成功しており、各国もこの事例に倣おうとしている。
 ・第三に、資産回収及びその活用への注力である。アメリカとカナダの案では、接収された資産をウクライナ復興に活用することを明言している。ただ、接収した資産の返還先は誰になるのかという問題が生じることになる。オリガルヒの試算はソ連崩壊以降に積み立てられたものであることから、その正当な返還先はロシア国民ということになるだろう。もしウクライナの復興に回収資産を活用し、ロシア国民に返還しないとなると、現在の資産回収の理念とは異なることになり、更なる厳格な法的構成を考慮する必要性が出てくるだろう。
 ・現在の所、経済制裁と資産回収については楽観的な見方が多いが、暗号資産の時代に向けて、新たな法的枠組みも必要になるだろう。また本法案は既存の財産権などを侵害する可能性もあり、場合によっては裁判では却下されることが予見されることから、このような場合にロシア側のプロパガンダに利用される危険性もある。更に資産の規模にも着目する必要があるだろう。特にロシア政府の資産の多くはロシア中央銀行が握っており、これにどのようにアプローチするのかが問題になる。いずれにせよ、法の支配や、人権、倫理的側面からの検証に耐えうる仕組みの構築が必要になる。
 
2.本記事についての感想
 今回の記事は、資産凍結の対象範囲を組織犯罪にまで拡大すること、接収した資産を有効活用することの法的、政治的意味合いについて取り扱っている。経済制裁に参画しているということで日本ではそれなりに評価する向きもあるが、世界各国は更に前進しているのである。この点だけを見ても、何もしない岸田政権が世界の潮流から後れを取っていることがよくわかるだろう。
 今回の法案の内容について言及すると、まず資産の凍結を組織犯罪にまで拡大するというのは、至極当然のように見える。これまでもテロリストの資産凍結の例もあったことから、これは受け入れられやすいのではないだろうか。ただ資産の活用については、若干困難が伴うと思われる。犯罪者の財産なのだから、好きに使っていいというのは、人情として理解できる所であるが、冤罪という可能性が払しょくできない以上、こういった場合にどのように補償するのかといった枠組みも同時に考えられていなければならないだろう。その他立証責任を各国が負うことになり、捜査の在り方によって凍結や活用の可否が問われることになる。操作能力が低い国がある場合は運用がうまくいかなくなることも考えられることから、各国間での捜査情報共有と言ったことも考えるべきだろう。こういった部分にまで配慮がなければ、単なる乱暴な法律でしかなく、ロシアを笑うことなどできない。人道的な危機への対処であるからこそ、慎重な議論と運用が必要になる。相手が悪いからといって拙速にこういった法案を推進するといった愚をおかしてはならないだろう。

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