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各国サイバー能力について(7)(IISSの記事)

本記事は、各国サイバー能力について(6)(IISSの記事)の続編である。前回までの記事は、以下のリンクを参照。

2.本報告書についての感想
  趣旨説明で触れられている通り、本報告書の評価は、5段階評価などの数値での評価ではなく、近年の政策などを基にして質的に評価したものとなっており、どちらかと言うと政策や公文書などの情報を取りまとめた内容になっている。そのため、ハーバード大学ベルファーセンターのサイバーインデックスなどよりはわかりにくくなっているが、幅広い分野にまたがって情報を取り扱っているという点においては、優れていると言える。あらゆる政策がそうであるが、単純に点数付けできるわけではなく、総評で判断したいという人にとっては有用であろう。
  ただやはり分かりにくさは否めない。今回もまとめていて第一グループ、第二グループ、第三グループという分類以外では、どのように評価していいかがわかりにくい。例えば日本が第三グループという評価については妥当な部分もあるが、第二グループの国に極端に劣っているわけではないとも考えられ、果たしてこのようなグループ分けが妥当なのかどうかは判断がつきにくかった。今後も定期的に見直しが入るということであるため、評価方法の改善に期待したい。
  次に各国の評価であるが、非常に興味深かった。文書は丁寧に取りまとめられており、取り扱われている範囲も非常に広い。各組織の体制、人員、予算などの定量的なデータも抑えており、日本語では入手できないであろうレベルの情報だった。日本人は定性的に結論を決めてかかる所があり、虚心坦懐に偏見を廃してものを見るということができない傾向にある。また日本人もイメージを崩すような情報を好まず、紋切り型の自分のイメージを補完してくれるような情報を好む所があるように思う。各国の評価はおおむねイメージ通りの国家像と似通った内容になっているが、その実像は単純ではなく、イメージにとらわれるとその実態を見誤ることになるだろう。
  日本の評価については、全体像が分かりやすくまとめられているように思われた。日本で発表されている情報は網羅的ではなく、省庁や部署縦割り的であり、全体像を把握するのは困難であることから、今回のような総評は非常に有用なものとなるだろう。本評価では、これまでの取り組みについては好意的に捉えているが、憲法9条や国民の意識が制約となり、デジタル化や攻撃的サイバー能力はなかなか発展しないと見ており、おおむね適正であると言えるだろう。しかし評価項目が安全保障面に偏っており、デジタル庁については触れられておらず、この件については情報が足りなかったのか、それとも安全保障上の影響がほとんどないと判断したためか、こういった点が物足りない気もした。また民間部門についての分析もあまり深くはなく、NTTぐらいしか取り上げられていない。サイバー政策については、官民や軍民といった区別はあまり意味がなく、また利益もないことから、軍事面に偏った評価は良くないと思う。IISSでも官民連携は提唱されており、このことは十分認識しているはずだが、こういった視点があまり反映されていないのは残念であった。
  今回の報告書から学ぶべきことは、日本は現状認識はおおむね適正であり、個別の課題を把握して文書を作成していること、情報収集や防衛省、自衛隊の体制が徐々に強化されていること、国家全体に及ぶ独自のサイバー防衛強化が必要であること、以外にもサイバー外交に積極的であり、多国間の枠組み構築に貢献していること、攻撃的サイバー能力の構築には自衛隊法の改正が必要であることなどであろう。日本の現状を鑑みると、サイバー空間ソラリウム委員会のような提言を実現することは困難であり、本報告書にて指摘されている弱点の克服から始めることが一番容易な方法であると考えられる。

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