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暗号通貨の資産押収について(RUSIの記事)

写真出展:Tamim TarinによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/tamimtaban-23119611/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=6601591

 2024年6月13日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)は、イギリスをはじめとした暗号資産押収を巡る動きに関する記事を発表した。内容は、イギリスの暗号資産の事例や現状などを概観し、あるべき政策の方向性を提示するものである。
 暗号資産は電子マネーの1種でしかないようなイメージがあるが、ブロックチェーン技術を駆使した精工な資産である。通貨とほぼ同じような性質を持っており、将来のデジタル通貨の発行に応用されることが期待される一方、その高度な技術のため、法執行機関からの取り締まりを回避するために用いられている側面もある。今後のデジタル通貨政策やマネーロンダリング対策を考える参考として、本記事の概要を紹介させていただく。

↓リンク先(Seizing Crypto: When Asset Recovery Goes Digital)
https://www.rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/seizing-crypto-when-asset-recovery-goes-digital

1.RUSIの記事について
 ・今年の3月下旬、クラウン検察局はロンドン北部在住の元ファストフード店員が、数十億ポンドの不正投資資金をマネーロンダリングしていた罪で逮捕した。この事件で押収されたビットコインの金額は20億ポンド相当であり、過去最高を記録した。イギリスは暗号資産押収の分野では先進国であるが、今回の捜査には6年を要しており、暗号資産犯罪の取り締まりには多くの課題があると言えるだろう。
 ・暗号資産を移送するには、暗号資産の秘密鍵による解除、口座に保管されている秘密鍵へアクセスするためのシードフレーズ、交換所の協力といった条件のいずれかが必要となる。これらの条件を満たすだけでも困難であるが、有罪が確定するまでは政府のものとはならず、公的な機関が管理する口座に収納する必要があり、その間安全に保管しておかなければならない。
 ・暗号資産の押収には、技術力だけでなく政治的な決断も必要となる。イギリスの場合、暗号資産押収の法律を可決するまで8年を要したが、これは手続きに関して意見の食い違いが大きかったためである。また法律が制定されても法執行機関が直面する問題は少なくない。まず暗号資産の技術に精通した捜査員の育成が必要となるが、技術的知識を有する人間は少なく、世界各国で協調して捜査する際には人材不足が原因で犯人を取り逃がす恐れがある。また交換所からの情報提供が必要であるが、これらの運営会社に対する規制は各国で異なっており、そもそも情報提供義務がない場合もあり得る。本来は全ての交換所に情報提供を義務づけるべきだが、運営会社を誘引するためにあえて規制を緩和している国もあり、規制には法的な困難を伴うことが予想される。
 ・暗号資産特有の問題としては、流動性の低さがある。現在2万種類の暗号通貨が存在するが、その多くは現金化できる状態とはなっていない。このため、押収したとしても損害額とイコールにはならない可能性が高いのである。その他、犯罪集団が暗号資産を所有していた証拠や不正に取得された履歴など、ブロックチェーンの分析手法が確立されなければ、裁判で犯人を有罪に持ち込むことはできない。
 ・では、暗号資産押収を推進するためには何をするべきなのか。まず捜査員の暗号遺産に関する知識の習熟度を高めることである。次に大胆な法制度であり、逮捕の必要なく暗号資産を押収できるようにするなどの制度が必要となるだろう。また民間企業側への捜査協力義務強化、暗号資産回収額に関する基準の設定など、長い道のりが待ち受けている。政治家は暗号資産押収強化に関する意思を明確に提示するべきである。 

2.本記事についての感想
 日本において暗号資産は金儲けの文脈で語られることが多いが、経済安全保障に与える影響について考える時期に来ている。ドコモ口座の事件を見てもわかる通り、日本人は絶望的なまでにセキュリティ意識が低い。暗号資産は富裕層と経済犯罪集団の間だけの問題だけでなく、実生活にも大きな影響を与える可能性がある。暗号資産と通常の通貨が換金されることで金融機関の現金が減少し、暗号資産が盗難されて回収できない損害が発生するといったことや所有している暗号資産がいつの間にか犯罪に使われるといったこともある。将来はデジタル通貨も発行されることが想定され、デジタル通貨に利用されるであろうブロックチェーンの改ざんなどが発生すれば、現在暗号通貨で発生している問題が現金の方にも波及する可能性もあるのである。
 こういった中、日本人はいびつなセキュリティ意識を改め、現実の問題に真摯に向き合うべきだろう。マイナンバーカードに対しては陰謀論に踊らされて過度な不信感を抱くが、一方でLINEは警戒心なく利用するなど、真の危険性については何ら意識していない。このような低次元の意識しか持っていない国民性であれば、法制度の議論は言うに及ばず、暗号通貨に関する知識の普及啓発すらおぼつかないだろう。
 
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