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中国の迫りくる脅威とインド(RUSIの記事)

写真出展:truthseeker08によるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/truthseeker08-2411480/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=1832107

 2021年11月2日に英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が、中印国境紛争の最新状況に関する記事を発表した。内容は、中国が多彩な攻撃を仕掛けてインドが不利な状況に陥っていることに対して警鐘を鳴らすものである。安全保障状況を把握する上で重要であるにも拘らず、なかなか続報が入ってこないニュースであり、参考としてその概要についてご紹介させていただく。

↓リンク先(Bully at the Border: The Looming Chinese Threat to India)
https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/bully-border-looming-chinese-threat-india

1.RUSIの記事について
 ・2020年5月のパンゴン湖地域での中印武力衝突以来、5万もの人民解放軍は、ラダック地区一帯を占拠し続けている。インド軍のナラバネ将軍は、既成事実が積み重ねられつつあると懸念を表明している。中国のグローバルタイムズはインドが戦争を仕掛ければ必ず敗北するといった強硬な発言を繰り返しており、和平協定の失敗をインドの責任であるとしている。
・最近中国は国境地帯に増援を派遣しており、一度は撤退したカイラス地域を再占領しようとしたとも報じられている。その他ガルワン川やパンゴン湖などにも向かっていると言われている。中国は多方面作戦で条件を釣り上げ、インドを撤退させようとしているようであり、インドは中国に慎重に対処するだけで精一杯の状況である。
 ・中国はチベット自治区東部のアルナーチャル・プラデーシュ州のうち、83,743km2の領有権を主張している。1950年にチベットを併合して以来、南部の国境をインドと共有しており、南チベットであるとすら主張している。中国がこの地域に執心している理由は、第14代目ダライ・ラマが亡命した地であり、インドがかくまったことに対して恨みを抱いていることが大きい。中国は他の国境でも紛争を起こしており、2016年にはドクラム高原で73日間対峙し、この紛争後に軍のインフラ整備を推進し、部隊を展開している。
 ・2021年7月に、習近平主席は突然チベットを訪問した。この地に整備された7月に開通した高速鉄道網は軍事転用されることになるとされ、チベット地区から高度4500mの地にある演習場に兵を送り込んでいる。
 ・インドのインテリジェンス機関によると、若いチベット人を軍人に採用して訓練を施しているとされ、チベット人家族は少なくとも一人以上徴兵されたと言う。8月30日には100名の兵隊と55頭の騎馬がインド領に5km以上も侵犯し、紛争の主要な地域ではないヒマラヤ州ウタラカンドのバラホティで破壊活動を行った。インド東部方面軍のパンデ司令官によると、中国は更に軍民両用の村と基地を建設しているとしているという。
 ・インドは中国に押され気味であり、パキスタンなどのテロ支援などにより更に劣勢になっている。この二正面作戦状態を改善するため、昨年インドは34億ドル相当の武器をアメリカから輸入しているが、軍への組み込みは訓練などの課題が残っている。
 ・モディ首相の対応はやや不可解である。中国を侵略者として名指しすることを避けるだけでなく、電話会談でもこの問題を議論しようとしていない。制裁措置として取られたのは、昨年度中国製の267アプリを禁止したぐらいである。ただ両国間の貿易は増加傾向にあり、2021年には1000億ドルの大台を突破した。
 ・中国のインドへの攻撃は戦略的なものであり、長期的な目標を持っている。
インドは中国とパキスタンに挟まれて孤立しているが、アメリカは支援の引き換えに取引をちらつかせており、それほど期待できない状況である。

2.本記事についての感想
 ここしばらくニュースになっていなかった、中印国境の紛争の最新情報である。日本ではなんとなくインドが優勢で中国が押されているというイメージがあるが、実態はインドにとって不利なようだ。この地域は軍の展開が難しく、かつ、高地であることから大規模な紛争に発展することはあまり予期されないものの、その分小さな勝敗が命運を分けるとも言える。中国は鉄道の整備や軍隊の投入など着実に既成事実を積み重ねようとしているようであり、早期に対処しなければスプラトリー諸島のような状況に陥ってしまうだろう。
当のインドは対決姿勢を示しているようだが、どこか腰が引けているように見える。大規模な紛争を避けたいという動機があるのだろうが、他国が支援しにくい場所であることから、ここで何とか踏ん張ってもらわなければならない。
アメリカの支援などに期待したいが、バイデン政権はあまりインドに好意的には見えず、それほど期待できないだろう。またモディ首相のインド人民党は反米的で新ロシア的な傾向があることから、アメリカとはそれほどしっくりいかないだろう。
ここで頼りになるのがイギリスだろう。英連邦の盟主として、パキスタンとインドを和解させ、インドが中印国境地域に専念できる環境づくりを支援してくれればと思うが、クアッドや海洋安全保障の方向に目が向きすぎているきらいがある。海洋安全保障はAUKUSの枠組みができたことから、インドは中印国境を担当する方が中国を二正面作戦で釘付けにできていいと考えるが、こういった方面での水面下の働きかけを見せて欲しいものである。

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