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インドの温室効果ガス実質排出ゼロ公約の意味(CFACTの記事)

写真出展:Harikrishnan MangayilによるPixabayからの画像https://pixabay.com/ja/users/hari_mangayil-9802663/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=3607410

 2021年12月1日にCFACTは、インドのCOP26における温室効果ガス実質排出ゼロの公約に関する記事を発表した。内容は、インドがCOP26で公約した背景と今後の政策の推移を概観するものである。インドの現状と国益を確保するための立ち回りが良く分かる内容であり、日本人にとっても参考になると考えられることから、その概要を紹介させていただく。

↓リンク先(COP 26: India’s net zero pledge — Does it really mean anything?)
https://www.cfact.org/2021/12/01/cop-26-indias-net-zero-pledge-does-it-really-mean-anything/

1.本記事の内容について
 ・2021年初頭、インドのメディアは、政府の温室効果ガス実質排出ゼロの目標に関するニュースで賑わっていた。中国は2060年、EU、アメリカ、日本が2050年といった目標を掲げる中で、インドは外交的な圧力にさらされており、目標を何年に定めるのかが注目されていた。2021年に、ケリー気候変動問題大統領特使は2回もインドを訪問しており、2030年のクリーン・グリーン技術アジェンダへの協力を提案し、2050年の実質排出ゼロ目標にインドが合意するよう圧力をかけた。COP26議長のアロク・シャロマも、閣僚、産業界、民間団体のリーダーたちとの会談を行った。またモディ首相がアメリカに訪問した際は、クアッドでの共同声明発表において、2050年の実質排出ゼロ目標を議論したと発表した。
 ・COP26の開会直前になって、グプタ環境大臣は、「空気中の炭素の割合をどの程度まで許容するのかを議論することが重要である。」と述べ、温室効果ガス実質排出ゼロ目標を宣言することを拒絶した。2021年4月の国際エネルギー機関主催の会議においても、シンエネルギー大臣は「8億人が電気を利用できない中で、2050年までン実質排出ゼロは絵に描いた餅である。発展すると同時に実質排出ゼロにすることはできない。」と述べた。
 ・しかしCOP26において、モディ首相は2070年までの実質排出ゼロを公約した。その他、2030年までに再生可能エネルギー発電を50%に引き上げ、2021年から2030年にかけて10億トンの二酸化炭素排出を削減し、2030年までに500GWの非化石燃料の発電所を新設し、2030年までにGDP比で45%分排出を削減するとした。
 インドの発言に対するメディアの反応は様々であり、目標年が長すぎると批判するものから、抵抗勢力であるインドが認めたことは大きいと一定程度評価するものがあった。
 ・インドの非化石燃料(原子力以外)の発電容量は38.3%であり、149.56GWであり、化石燃料の発電容量は234GWである。しかし安定的に運用するには計画停電のような容量抑制策が必要になると見込まれている。例えば2030年に再生可能エネルギーの身で450GWの発電容量を達成しようとすると、太陽光発電は50%程度削減しなくてはならない。また電気料金の高騰も予想されており、インドの脆弱な電力網を鑑みるに、ヨーロッパやカリフォルニアのような状況に陥りかねない。
 ・インドの再生可能エネルギー生産及び発電の増加は目覚ましいものがあり、それぞれ年率で18%と22%となっている。しかしインドの電力網は脆弱であり、再生可能エネルギーのような不安定な電力は、電力網に破滅的な影響を与えかねない。電力企業はキャッシュフローの悪化、盗電、インフラの老朽化、利用可能な土地の狭隘さ、サプライチェーン確保の困難さ、投資の減退などに苦しめられることになるだろう。
 ・インドの寒村において、興味深い逸話がある。ある村に太陽光発電を導入し、各家庭が家電を揃えて使い始めた初日に停電が発生した。住民は激怒し、「ニセモノの電力ではなく、本物の電力を望む」と抗議活動を行った。この結果、石炭火力発電の電力網を整備せざるを得なくなった。インドは恒常的に電力が不足しているのが現状であり、モディ首相は電力確保に邁進することになるだろう。

2.本記事読後の感想
   インド人は交渉上手と呼ばれており、華僑が唯一食い込めない地域とされている。私も数人のインド人(知識人階層)と話したことがあるが、なかなか口達者でいい意味で性格も悪い所がある。ただ相手が手ごわければ敬意を表する所もあり、付き合いやすいとは言えないまでも、力量のある人間であれば、それなりに親しくできる。
 インドの立ち回りのうまさは外交によく現れており、クアッドに入りつつロシアから兵器を購入する、民主主義陣営に属しながら国内ではやや非民主的な政策(データローカライゼーションなど)を採用する、環境政策では途上国を代弁するなど、常に世界の潮流の分岐点の立ち位置を維持している。
 では、今回のCOP26での公約の本音はどこにあるのか。それは表向き時間を稼いで、排出削減ゼロの枠組みを骨抜きにし、国益を確保するための行動に出ると言うところだろう。インドは次世代の経済大国になることがほぼ約束されており、この歩みを止める理由はなく、最後にはアメリカに取って代わろうとすらしているだろう。豊富なIT人材を惜しみなくAIにつぎ込むなど、次を見据えた動きも見せており、インドの動向からは目を離せない。  
 日本もこういった姿勢は見習った方がいいと思うが、それだけの政治家が現れるのかというと期待が薄い。発足当初から岸田政権は無能さを露呈し続けており、その他の議員においても取って代わる人物が見当たらない。おそらく環境政策はしばらく現状維持になると考えざるを得ないだろう。国民にできることは、不支持を突き付け続けることである。

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