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005: 第1章のさらに続き

2. インターネット放送が多様化し普及することの意味

<放送のコスト低減が、コンテンツに変革をもたらす>
⚪︎昔のらジオ
 古い話で恐縮ですが、私が小学生低学年の頃、1955年頃、ラジオは神棚の様に鴨居に上げられ、家族はその前に座って聞いていました。その頃、自分が外で遊んでいても、NHKのある放送劇の時間には飛んで帰ってきて家で、先週の話の続きを聞いたものでした。まるでラジオ番組は今から30年くらい前のテレビ番組のようだった様に思います。番組は普通30分毎に区切られていて、番組が変わる度に、ファンであるリスナーが当たり前の様に入れ替わります。これは、電波というリソースも大事でしたが、その頃の技術ではサービスエリアを広げるための大電力の送信機は中波がやっとで高い周波数は使えない、中波の送信機高価だし、アンテナは巨大で安くはないので、30分という番組のコストも大きかったと思います。したがって、色々なデマンドに対して、適切な時間帯と長さを割り付けて番組の編成をしてたのでしょう。

⚪︎テレビ放送の初期
 NHKのテレビ本放送開始は1953年だそうですが、受像機は一般家庭で買えるような価格ではなく、私の生活空間でテレビを見るになったのは1955年頃公共の場に設置されてからです。電車の駅の屋根の上に取り付けられ、多くの人が立って放送映像をみていました。当時は映画館や学校の校庭での映写会でしか見れない動画をタダで見られるという興味で人々が見ていました。プロレスが人気で力道山の「空手チョップ」が話題でした。物珍しさで見ているだけで、およそコンテンツを楽しむという「放送」という概念まで辿り着いてはいませんでした。
 1957年にFM放送が始まり、確か1960年頃にステレオ放送が始まりました。FM放送は周波数変調なので不要な電磁波をノイズとして受け安いAM放送とは違い音が良いという触れ込みもあり当初から音楽放送が多かったのですがステレオ化もありFMのコンテンツは音楽の方向へ進んでゆきます。
 1964年の東京オリンピック以降、お手頃な価格とは言えないまでもカラーテレビが普及し始め、「番組」への一般的な人気はラジオからテレビに移ります。

⚪︎重要な変化の始まり
 ここで重要なことは、「放送のコストは高価なので、30分毎の細切れで使う」という当初のAMラジオ放送とテレビ放送に対する考え方に対して、「音楽はFM」という、コンテンツがメディアを選ぶ、ある程度のコンテンツの専門化が始まった事です。
 更に、音楽番組が主権を獲得してくると、受験勉強などに代表されますがBGMとしてのデマンドが広告料の安い深夜帯から始まって明確になってきます。

⚪︎放送コストの低下と、通信という帯域の無限化がもたらすもの
 やっと、申し上げたい事に到着ですが、放送のコストが下がる事で、番組を細切れに切る必要がなくなるという事です。それは、放送設備のコストが高いと、スポンサーの広告コストが上がる、その結果番組枠を30分で切る必要が出てくる。
 コストが下がることで、ある放送局は、特定の分野に限定した専門のコンテンツを放送したとしても採算が取れる可能性が出てきます。言い換えるとラジオの初期には国策として先駆的な投資をしてきたNHKが広く全国民をリスナーと考えてコンテンツを設計する必要があったわけですが、限定した顧客層だけを対象にした放送事業が成立する事になります。
 コストというよりは国土の大きさと放送行政の違いから来る結果ですが、米国ではFMジャングルと言われていたように、多数のFM局があり、ジャズ専門の局、カントリー・ウエスタンだけの局などが1970年代からありました。
 日本でも、無限の帯域を持ち、コストも安い「通信を使った放送」であるインターネット放送の普及で、今まで無いマイナーなコンテンツであっても放送できることで、ネットワークがコミュニティを構成する新しいツールになることが予想されます。つまり、多種多様なコンテンツが時間割を待たずに選べるネットワーク空間は、異なる文化の多様化と混合を速し新たな方向への文化の進化をも導く事になることが期待されます。

 全てのケースを例示することは出来ません。むしろ本書をお読みの方々に発想をおまかせしますが、例えば次の様なことが可能になります。
 小学生から高校生が、学校にある放送室から世界に向けて放送できると一体何が起こるのか、やらせてみたいと思いませんか。筆者は2021年にFM軽井沢のプロジェクトとして「軽井沢キッズメディアラボ」を開催し、応募のあった町内の小学4年生から高校生の20名を5つのチームに分け、ラジオ番組を造ってもらいました。番組制作のルールと方法は教えましたが、何を作るかは子供達だけで決めます。大人は伴走するだけです。本書執筆時点現在PodCastでお聞き頂けますが各チームとも立派な番組を作ってくれました。十分、世界にも流せるコンテンツです。
 例えば、著者の友人でアルゼンチン・タンゴの熱狂的なファンがいます。彼はその分野には無茶苦茶詳しく、サークルもそれなりの規模で既にあります。そんな環境で、サークルの人だけ聞ける放送を作ることも可能です。もちろん24時間365日放送する必要はありません。決めた必要な時間だけで十分です。音楽を対象にする場合、もちろんアップローダーのコーディングを選べば、CDクオリティ以上の放送もできます。

3. ネット放送、物の準備は簡単なんです

 インターネット放送を実現するスタジオ+送信所の機器構成とソフトウエア等の概要を図1に示します。見て頂くとすごく簡単である事がご理解いただけると思います。

図1、放送局設備概要

緑色と水色の枠の中が放送設備+スタジオ+送信機に相当します。
1)水色の枠内の放送用PCとした1台のPCは、ソフトウエアの機能を後に詳細にご説明しますが、例えば米国RCS社のZettaというソフトであれば24時間、365日音楽放送を自動で続けるシステムです。PCのハードウエア故障時に30分以内での復旧が必要ならPCは4台になりますが、条件付きで1台でも2台でも運用は可能です。先にご説明しましたようにインターネット放送は放送法で言う「放送」ではありませんので、総務省が規定する技術基準に準拠する必要はありません。放送が3日止まっても、スポンサー様がいるとしてスポンサー様への対応さえできていれば問題はありません。 システムは、このソフトウエアを含め、後でいくつかの物の詳細をご説明します。無償の物もありますのでご希望に合わせて調査し、実験してみる必要があります。
2)ミクサーは上記放送システムをつなぐ場合、ステレオ4チャンネルの入力が必要です。
3)緑色の枠内ですが、出来上がった音はアップローディングPCのbuttというやはり無償のOSSでサーバーに送り込みます。受けるサーバー側のインターネット放送用ソフトから見ると、「ソース・クライアント・ソフト」とい呼び方になります。サーバーから見るとソースとなっているクライアントということです。
4)放送サーバーはインターネット上にあるヴァーチャル・サーバーをレンタルします。グローバルアドレスが自動的に取れたり、サービスによってはドメイン名も取ってくれるところもある様です。月額1,000円以下の最低のもので始めてリスナーが増えた段階で、CPUやメモリを拡張すれば良いです。このサーバーには、やはり無性のOSSで放送サーバーのソフトをインストールします。
5)ネットワーク内のサーバーから下は、リスナーのスマホになります。もちろんPCでも、コンポーネントステレオのインターネット用のチューナーでも可能です。

4. 放送以外のメディア
 インターネットには、すでにSNSやPodCastなどのメディアがあります。或いはApple MusicやSpotifyなどの楽曲配信サービスもあります。また数々のBlogサーバーのサービスもあります。個人のレベルで自分の思いを世の中に発信して行きたいという意思を実現する方法を見た時にここで議論してゆくインターネット放送はどういう意味の違いがあるのでしょうか。そこを少し議論していきましょう。  
 先に、詳細はご説明していませんがインターネットの進化のステップで、Web1.0、Web2.0、web3というステージが議論されていることに触れました。今はWeb2.0全盛の時期です。web3はこれからくる波です。
 Web2.0は、GAFAMと言われるインターネット上に何らかのプラットフォームを構築するサービス・プロバイダーが一人勝ちして行く世界でした。貴方がYouTubeに映像を投稿したとして、コンテンツという視点では、貴方が掲載の責任者ですが、ビジネスという視点で見ると広告枠を定義して広告料金を定義して、コンテンツを出してくれた貴方への報酬を決めているのはプラットフォーマー達です。ある意味で、クリエーターである貴方は大きな搾取を受けていると言え流かもしれません。

 SNSでの情報発信に満足ですか? 1990年米国で初めて商用インターネットサービスが開始され、今ではブログやSNSが普及して、誰でも望めば情報発信したい人はどんどん発信出来るようになりました。情報発信にはいろいろな手法があります。絵を描くという分野でも多くの手法があり、彫刻でも多くの手法があり、テキストも同様です。そして音作りでは、音楽による表現、ポッドキャストでのおしゃべりによる表現があり、ラジオ放送局を作るというのも一つの音による表現方法であり、文化を構成するものだと思います。実現コストが下がることで、個人が自分の情報発信に選択することができる時代になっています。

・インターネットのコンテンツ
   検索して、探す  いつも、欲しい音を探すのは大変。
   また、いつも同じ探し方では、出てくる音に飽きも来ます、
・ラジオというコンテンツ
   気に入ったチャンネルに、あとは任せる
・プレイリスト  
   プレイリストを自分で作って、:そんな人はどれだけいますか?
   同じ曲の連なりではやはり飽きますね。
・やっぱりラジオ  
   好きなラジオ局を探しておくのは、いいですね。
   他人が良しとした楽曲の選択には、自分に無い発見があります

<ラジオとPodCastとの違い>  
 技術的にはコンテンツに対する選択条件は、PodCastと変わる要素はありません。放送時間の概念がないPodCastの方がいつでも聴けて便利でもあります。先にご説明しましたとおり未解決の問題なので明確なことは申し上げられませんが、仮にインターネット放送での音楽隣接権の問題が解決したとしても、楽曲データをネットワーク内で固定するPodCastはその交渉はほとんど不可能かもしれません。
<現在の映像コンテンツ>  
 総じてテレビ番組の質が落ちたせいか、インターネットに素晴らしいコンテンツが見られるようになったせいか、現在のテレビ放送は、コンテンツ追っかけで見るものはYoutubeに集約されてきており、テレビ放送の存在価値は、ニュースや警報などの即時に必要なリアルな情報と、膨大な手間と費用をかけて作られた素晴らしいコンテンツに限られてきているように思います。
<今、改めてラジオの価値>
 インターネットで、アップル・ミュージック、スポティファイ、Youtube Music、などが出揃う時に。ラジオの意味はどこにあるのでしょうか。
アップルミュージックの中にもラジオチャンネルるがあります。  
そういった、放送メディアの時代遷移の果て、ラジオの位置はどこにあるかを考えると、以下の条件を満たすBGS(Back Graund Sound)ではないでしょうか。
① 何かしながら聞く脳の思考活動を邪魔しない
② 番組という概念があって、番組が切り替わっても、聴きたい音が続けて
  聴けて、好きなタイプのチャンネルを度々選び直さないですむ
③ 自分のプレイリストではいつか飽きてしまう、飽きのこない編成
④ 自分が知らなかった好きな楽曲との出会い、発見がある
⑤ 音楽は最重要なコンテンツですが、トークショウもあると思います

第1章のまとめ
・音というメディアは、人の受け方として映像とは全く異なる。「〜しなが
 ら聴く」ということができる
・過去の放送は実現手段・技術の進歩で常に変わってきている。インターネ
 ットという進化途上の媒体の上のサービを考える時、過去の固定概念や規
 制に意味はない。
・サービス実現のコスト条件が変わる時、ビジネス・モデルやサービス機能
 の最適化を常に見直す必要がある。インターネットの進化は常にそれを要
 求している。

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