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心臓が動いて血液が回っていることさえ

人生つまらないと嘆いているぐらいなら、タバコの火をつけて、火遊びの一つや二つぐらいしてなよ。

7月の夜中にアイスを食べながら見る百日紅は、去年行った大島を思い出す。
あの時は心底病んでいて、体も心もボロボロだった。
スナックで知り合った学校の先生に会いに行った。
結婚もしていて子どももいるが、大島にずっと転勤したくて仕方なったらしい。

大島に行ったその日は曇り空だった。
雨模様も確かにあった。
雨が光っていた。
朝方の海が静かに囁いていた。
美しいと一言で表現するには勿体無いぐらいの美しい景色だった。

(  ᵒ̴̷͈ωᵒ̴̶̷͈ )

今は引越しをするという一大イベントが訪れている。
夏なのに、何故かエクステをつけてしまって暑い。
でも、可愛いので後悔はしていない。
髪の毛を伸ばしていても切りたくなってしまうので、エクステをつけてどうにか伸びるまで待とうという苦渋の決断だった。
そんなことをいう間に時間が過ぎてしまって、微塵も引越しの準備が進んでいない。

夏なので可愛くしようと思って、気合を入れてネイルまでしてしまった。
ほんとうは川に遊びに行く時までに可愛くしたかったけど、忙しくていけなかった。
でも花火を見るので、花火のために可愛くなった。

その日は昼間から映画を見た。
東京は徳川家康が安寧の地を作りたいと築いた場所だとしたら、泣きそうになってしまった。
千代田の名前の由来を少し考えて調べたことがあったから、尚更平和を偉人に願われることが嬉しいと思った。
今になって果たして日本が本当に安寧の地になっているのかと考えたら、まだまだ安寧には程遠いと思ってしまった。
ちょっと悲しかった。
自分の意見を言うために傷付ける人がいて、傷付く人がいて。
そんなこと別に聞かなくていいことならどうだっていいはずなのに。
それは受け取らなくていい愛だと、傷だと、思ってしまう。
心臓が動いて、血液が回って、それだけが上手くいって健康であれば、幸せだと思うんだけどな。

𐔌ᵔ⁔ ܸ. ̫ .⁔ ͡ 𐦯

夜はどうせご飯に行くのに、ランチ後のよく分からないイタリアンでご飯をいっぱい食べてしまった。
牡蠣はいつだって美しい。
なんで貝ってあんなに綺麗なんだろう。
海に落ちている貝は、砂になって海に戻っていく。
ありがとう、貝類。

1度家に帰り、ギリギリまで予定が見えず花火に行くかどうかも分からない時間が過ぎた。
一寸だけ雨が降って、何度も花火大会のHPを見た。
少ししてLINEが来て、今日は横浜にいるから少し遅くなると連絡が来た。
仕事頑張りすぎだよと連絡をくれるくせに自分だって頑張って仕事してんじゃねえか。
駅で待たせたら浴衣だから暑いだろうと言って、スタバのチケットを貰った。
いつもは飲まないスタバだけど、今日ぐらいはいいだろうと思いほうじ茶ティーラテを買った。
流行ってるやつ。
お姉さんにおすすめのカスタマイズを聞いて、なんかクリームがいっぱい乗ってるのを貰った。
甘かった。

花火の音が鳴り出した頃に駅で合流。
スーツだった。
スーツが似合う人ほどかっこいい人はいないと思う。
死ぬ時はスーツが似合いそうな人に東尋坊から私の身を投げて殺して欲しい。
髪の毛を短く切っていて、どうしてか聞いたら、偉い人に会うからと言っていた。

ビルの隙間から見る花火はなんとも言えなかった。
ビルがあるという煩わしさと同時に、窓ガラスに映る小さな火花が散っていく姿が儚かった。
歩きながら時に立ちどまり、川のそばまで行くと大きな花火だった。
煙草を吸う場所がなくて、人陰に隠れてタバコを吸った。
路地の先の大きな幹線は通行止めになっていて、中央分離帯に座ってたくさんの人が見ていた。
道路を自由に歩き回れる時なんてそうそうないから、ちょっと嬉しい気持ちになった。
べろちゅーしている人がいないかとふたりで探していた。
あっちこっちで花火が上がって、ふたりともどうでも良くなった。

花火から少し離れると、花火は小さくなって、仕舞いには見えなくなってしまったので地球ってちゃんと丸いんだなと思った。

ふたりとも煙草が好きなので、シーシャを吸って適当に酒でも飲もうと言った。
お酒飲めないくせに。
シーシャを吸うといつも頭が痛くなるので、酒を飲んでシーシャ吸ってタバコ吸ってというルーティンを繰り返した。
だから痛くなるんだよ。
音楽がなかったので、RIP SLYMEをふたりで聞いて、夏だなあと思った。
夏はどうにもこうにも、RIP SLYMEが聞きたくなるのはどうしてだろう。
もちこみできるお店だったので、ゴクっと果実と愛の話をした。

ペットボトルに入ったゴクっと果実はゴクっと果実が入ってるからゴクっと果実になる。
ペットボトルに水が入っていてもゴクっと果実にはならない。
水を混ぜて薄めても、それはどこまで行ってもゴクっと果実ではなくて、水が混じったゴクっと果実。
受け取れるのはゴクっと果実だけ。
もし私の愛が仮にゴクっと果実だとしたら、
どれだけ時間やお金やその人なりの愛を注いでもらっても、水や牛乳だったらそれはゴクっと果実じゃないから受け取れない。
我ながら意味不明だけど、サクッと私の愛の受け取り方はこんな感じだ。
受け取れない愛は置いておけ、受け取れる愛はゴクっと果実。
でも、ゴクっと果実よりビールの方が好きだな。

シーシャ屋を出て、2人でアイスを食べた。
アイスを食べたくなったから、シーシャ屋を出たのかもしれない。
公園で食べたアイスは、早くに溶けてしまって、べちょべちょになりながらアイスを食べた。
せっかくのスーツにアイスがついて、2人で笑っていた。
公園の百日紅が大島を思い出させる。

後ろにあった餃子が美味しい中華に入った。
花火が終わったあとにお腹すいたと言いつつ、ずっと話し込んでいたので、せっかくならと。
インスタ映えする大きい餃子や手作りの餃子よりも、ここの餃子は美味しい。
安さが売りなのにちょっと悔しい。
餃子は実は苦手であまり食べられなくて、6つ頼んだけど、1つ食べて満足してしまった。
春雨がとても美味しいので、春雨をたくさん食べた。
お酒が如何にもこうにも進んでしまって、どうでもいい話をずっと話していた。

一緒にご飯を食べている人は、2年ほど東京から離れることになっていて、名古屋に行くそうだ。
出会ってからそんなに時間が経っていなかったけど、夜つけ回す人が居るから助けて欲しいと言ったら、心配して一緒にご飯を食べに行ってくれた。
こんなにご飯を食べてお酒を飲む女の子はいないと言い残して、タクシーで送ってくれた。

今日も私は家に帰りたくなかった。
私のたった1つの聖域に人間がいるからだ。
私しか知らない1人だけの居場所を埋めるような人間の気持ちが心底知れない。
私だけの安寧の場所を奪われてしまって、悔しくなった。
自分はそれに値する人間だと舐められていることが。
嫌に決まってんだろ、そんなの。
どんなに顔がカッコよくたって、そんなのスマートじゃないよ。
寂しさや悔しさを紛らわせるために性欲やお酒があるわけではないと思っているから、ごめんだけどそれは私のすることじゃない。
今ある幸せや愛を噛み締めるために、あると思っている。

そんな話をして、家に返せないと言われたものの、彼の家は引っ越し間近で泊まれないので、朝まで一緒にいた。

朝、一旦カフェに入って、今日何をするのか考えた。
本が好きだから、神保町の本屋で本を買うことにした。
初めて会った日に、最果タヒのエッセイを紹介した。
ずっと探しているそう。
覚えていてくれることが嬉しかった。
誰かの脳みその中にある物質のひとつが私であると思うと、嬉しくなった。我ながらキモイ。
友達の本も紹介したら、買ってた。

夜になって、もう最後だからと言ってご飯を食べた。
おすすめだから友達と行って欲しいと言って貰えたけど、飲みに行く友達は残念ながら少ない。
ごめん。
でも、自分が居なくなったあとの事に思いを馳せてくれていることが、確かに嬉しかった。
食べ物は全部美味しかった。
花火が上がって点になった瞬間に花火の大きさが大体わかるように、美味しいものって見たら美味しいってわかる。
悪い顔をして、昨日も牡蠣食べたんだよねといいながら、美味し過ぎてワルな牡蠣を食べた。

私が彼にとって東京で出会った最後の人だったと思ったら嬉しかった。
出会いに感謝とか居酒屋のTシャツに書いてあるようなことを言ってふたりで笑った。

ご飯を奢ってもらうのが申し訳ないと言ってお金を渡された。全部使って彼が吸っている煙草を買って、出会いに感謝とマジックで書いて渡した。フィルムの上の方に書いたの、ちょっと失敗だったかもしれない。
だってどうせ剥がしちゃうんだから。

駅で名古屋行ったらひつまぶし食べようねと言って別れた。
帰りに彼が吸っていた煙草と1番好きなビールを買って吸ってみた。
女の子は男の人の影響で煙草を吸い始めると言うけど、消えてなくなってしまいそうな幸せだった時間と煙草は似ても似つかないものがあると思った。
記憶というのは消えてなくなってくれるからいい。
脳みその奥底には本当に綺麗な景色が居るんだろうけどね。

まあ、気になっている人のタバコを毎日吸っていてもノスタルジーにひたっている自分可愛い〜という意味不明な自己愛にしか繋がらないと思うので、多分引越しするダンボールの中に入れられると思う。

次の日の朝、お風呂に入ってドライヤーをする。
エクステが暑過ぎる。
なんてったってちゃんとロングだからね。
君の頭から抜けた、もともと君だった、その辺に落ちている髪の毛が私かもしれないと思った。

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