見出し画像

白に染まる

わたしが大好きな邦楽ロックに、
こんな素敵な歌詞を書く愛すべきバンドがある。

「最初から真っ白 の あの白と
消しゴムの跡だらけの白じゃ
キタナイ白のほうがイカすのさ」

わたしはこの歌詞が大好きだ。

思えば、大学から地元を離れ、
ここで素敵な人生を歩んでいくんだ!と
帰ってきて就職すれば、と両親のススメも
跳ね除け、離れたところで就職したものの
時間も不規則で終電に乗って帰宅し
次の日には満員電車ぎゅうぎゅうの朝の電車で出勤するスタイルだった仕事で疲弊しきってしまった。
結局は限界を感じであんなに跳ね除けていた両親の意見そのままに、地元に帰ってきてしまった。

わたしは一貫性も、頑張り通したことも、
何も残ってない。
人の幸せそうな写真やSNSをみては落ち込んでいた。

でも今振り返ってみれば
これで良かった、いや、
これが良かった。
と思える自分がいる。

地元に帰ってきて得たことは、
いつも近くに家族がいる、頼ってもいい人がいると言うだけで心は落ち着くものだと知れたこと。
そんなことも気づかなかった就職1年目のころのわたしが
今こうして心の温かさを知れたことは財産だと思う。

誰にも頼らず、1人で生きることが自立だと思っていたわたしはすっかり心が冷めた人間になっていた。

それを改めるきっかけになったと思う。

途中で仕事をやめること、そして自由を得られる輝ける街から遠ざかることは
人生の汚点だと思っていたことも、違う と気づけた。

わたしは今まで他人の指標からみて自分が幸せかどうかを測る癖があった。
SNSに載った写真が羨望のいいねを貰うことが幸せとも。
地元に戻った今、写真を撮ることは少なくなった。それはその瞬間を自分の目で見ることが増えたから。
シャッターや画面越しの素敵な景色よりも何倍も心に残る気がした。

久しぶりにあったおばあちゃんは
会えたことを本当に喜んでくれたし、
しょっちゅう会えるようになった姉の子どもは
ほんとうに可愛くて愛おしい。
それを自分の目でみている、今が幸せ、と思っている。


12月に入ってから雪が降り始めた。
雪かきをしている時間は人生の無駄。
と思っていたわたしにとって、雪の降り始めは億劫だったが、
1人で暮らすアパートを雪かきすると
ほかの住民も雪かきを始める。
「けっこう積もりそうですね。」と
互いに面識もないのに笑顔で会話するのだ。

「雪がひどそうだ。今日はみんなで早く帰ろう。」
と仕事も残業なく帰る機会にもなる。
残業が出来ない、ということは
いかに勤務時間内で効率よく仕事量を配分し、こなせるかだ。
転職してからというもの、わたしは仕事を素早く進めていく力を得たようにも思える。


うん。
振り返ってみるといい事が沢山ある。
毎日穏やかであたたかい。
雪がふりしきる中でも、あたたかい。

わたしは決して離脱したわけでも
第1線からフェードアウトしたわけでもなく
人生の分岐をいい方向に自ら選んでこれたと思っている。

わたしがこれから何を目指すかは
いったん白紙に戻ってしまったが
それは決してまっさらな白なのではなく
「消しゴム跡だらけ」の「イカす」白、なのである。

これからのことはゆっくり、そして前向きに決めて行ければいい。

外は、
さっきまで雨だったものが雪にかわってきた。
今までのため息や涙を受け止めて
きっと、あたたかく降り積もるんだろう。
この雪が溶けるころ、わたしの人生の道もきっと明確に見えると思っている。


10-FEET 「風」より一部抜粋