志ゆんの祠堂 第三話
1.
「洪水だあ」
「流された。お堂も水につかったっぺ」
「つうことは旗本さまの堤に不手際があったっぺ」
「神代さんに約束を果たしてもらうべ」
檻に閉じ込められた志ゆん。
妹サユミが窓ごしに話しかける。
「姉ちゃん。朝までここにいたらだめだよ。今出したっからな」
「やめとけ。そんなことしたらお前まで」
「かまわねえよ。船用意してあるの。あたしもう父さまの娘でなんかいたくねえ。姉さんと一緒に他の村いくんだ」
「父さまは、このあたりの村どこへいったって知られているもの。すぐにつかまっちまうよ。」
「姉さんは、いままでいっぱい人助けしてきたじゃねえの。あたしらが困ってん時にはだれも助けてくれねえっていうの?」
隠れて話を聞いていたジュンスケが現れる。
「わたしの国へきてください。ご案内します」
「そうだよ。ジュンスケさんはこの辺りの出ではねえから」
「あたし知ってる。父さまは神様のお告げ伝えるふりしてるだけだ。姉ちゃんのいってることの方が本当なんだ。ジュンスケさんだってそう思ってる。」
姉様が人の心をのっとるだなんて、言いがかりなのもわかってる。あれはジュンスケさんが自分で聞いたお告げだったよ。なあ」
「ああ」
志ゆん、ジュンスケをみる。ジュンスケ目をふせる。
「父さまにも言ったんだ。でももうみんなの前で言ったことだから変えるわけにはいかねえって」
「そうさ。当たり前だよ。言ったことを変えるようじゃ、だれももう父さまのことば信じねえようになる。そしたら村の衆は、なにを信じていったらいいんじゃ。あたしひとりの命でみんなが納得するんだったらその方がいい。」
「納得できないあたしらはどうなるの」
「あたしは言いたいことをしまってしまうから、しまいきれなくなって、他の人使って言わせるようになってしまったけど、それじゃあなんの役にもたたん。病人はいやしてもいやしても後をたたない。お前は違う。正しくない世の中を、行動してかえていく能力がお前にはある。
お前にも神様のことばわかる霊力があるんだ。姉ちゃんのことなんかいいから、村人のために使え」
「ほんなことねえ。ほんなことねえ。姉ちゃんしかできねえ。あたしにはできねえもの。できねえもの。
あたしら母ちゃんがだれかも知らねえんだよ。姉ちゃんいなくなったらあたしひとりだよ。おいてかねえでよ。」
サユミ泣き崩れる
2.
人々が集まる中、かごに入れられた志ゆんが運ばれてくる
「あのひと、うちの息子の病気治してくれたんだよ。なんで埋めっちまうんだろうね。」
「そりゃあそんだけの人が人柱になってくれるんだものおれらの村を守るためにな」
「でもよ、あそこは元々は沼だった土地じゃねえの」
「シーッ。聞かれたらどうすんだよ」
「なんであんないい人が犠牲にならねばならねえの」
「病気のひとがでたら誰んとこつれてぐんで」
「神代さまには娘がたくさんいるっぺよ。」
かごが土のなかに入れられる
「ああ、災いが近づいている。私利私欲の高ぶり、泣き寝入る人の嘆きが終わる時までまだどれだけこのときは続くのか。我ひとりのこのよでの命は惜しまぬ。しかし許されるならば、我が魂は世の終わりがくるときまで生きよ」
3.
人柱の埋められた場所には、木の苗が植えられ、おかれた石碑の前でうなだれるサユミ、離れたところでみているジュンスケ
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