つぶれたお弁当

道路を挟んだ向かいにアパートに

父が生前仲良くしていた老夫婦が住んでいる

父が居た頃 おじいちゃんは時々3000円を借りにてきては

年金支給日に刺身などを買って返しに来ていた

昨年父が亡くなった時は急な入院だったので

その老夫婦は父が亡くなったことを知らず

おじいちゃんの方は 今でも父は入院していると思っているらしい

おばあちゃんと立ち話をした時 そう言われていた

最近 2人とも足が悪くなり 杖をついてぼちぼち歩くぐらいで

用がある時はタクシーで買い物など出かけられるようになった


土曜日 窓から外を見ていると

家の前にタクシーが止まって おじいちゃんが下りて家に入っていった

その後 道路の端に黒い四角い物が落ちていたので

セカンドバックを落とされたな?と思い

出て行って教えてあげようと思った途端

タクシーがUターンして それを踏んで

プラスチックの潰れる音がした

タクシーはそのまま 行ってしまい

そのつぶされた四角い物が お弁当だとわかった

おじいちゃんが わざわざタクシーに乗って買いに行ったお弁当が

タクシーに無残にもつぶされてしまった

しばらく様子を見ていたが おじいちゃんが探しに来る気配もなかったので

私は証拠隠滅のために そのお弁当をそそくさと拾いに行って捨てた

夕方になり 用事があり外に出たら

そのアパートの前に カップの焼酎が落ちていた

きっと それも おじちゃんが落とした物だろう

袋に穴が開いていたのかな

焼酎はそっと入り口の階段の脇に置いてきた

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