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星と祭 その陸

2020年6月1日記

主人公 架山洪太郎が訪れた十一面観音の記録

6.宗正寺 十一面観音坐像

秘仏のため画像なし

厨子の扉が開けられると、殆ど天井に届きそうな大きな光背を背負った十一面観音像が現れた。大きな蓮台の上に載った座像である。像の高さと、蓮台の高さは同じくらいであろうか。
像は全体が漆で黒々としている。唇だけが僅かに赤く、眼には玉が嵌められてあって、それがきらりと光っている。
「端正なお顔ですね」
架山は言った。頭上の十一の仏面は小さいが、その割に高々と置かれてある。それがこの観音さまを端正なものに見せている。左手は軽く折って宝瓶を、右手はゆったりと膝の上にのびて、掌はこちらに向かって開いている。
・・・・・・
「よくは知りませんが、室町時代に作られたものではないかと言われています。大体、いまはこの観音堂だけになっておりますが、宗正寺という寺は天平九年の開基でして、一時は、なかなか寺運旺盛で、頼朝の時には仏供料が寄進され、建物も豪勢なもののようでした。それが織田氏の兵火で焼かれました。観音さまの方は、幸い無事で、今日に伝わっておりますが、寺の方はあきません。一時、この土地の海津長門守の内室が観音さんに帰依して、やや旧態に復したという記録がありますが、どの程度のものでしたろう」

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