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星と祭 その拾

2020年6月3日記

主人公 架山洪太郎が訪れた十一面観音の記録

10.蓮長寺 十一面観音立像
観音堂にはいると、正面奥にお厨子があり、その前はへ畳が二十枚ほど敷かれた部屋になっていた。寺の人の手で厨子が開けられるのを、架山は観音堂の縁側で待っていた。
厨子の中から現われて来たものは、思いきって大きく腰を捻った観音さまだった。胸も、腰も、肉付きはゆたかで、目も鼻も、口許も、彫りは深くはっきりしていた。姿態も、表情も、できるだけ単純化してあり、その点いかにも余分なところは棄ててしまったといった感じの観音像だった。
光背はなく、頭飾りも、胸飾りもなかった。頭に戴いている十一の高い仏面は、単純な造りではあるが、それぞれの表情までが読みとれるほどはっきりと刻まれてあった。ひと口に言うと、陰翳のない観音像で、表情、姿態からうけとるものは、それだけに意志的であった。
寺の人の説明によると、平安前期の作で、一木造り。初めは金箔で全身が塗られていたが、いまはすっかり落ちてしまって、地の漆が黒々と光っている。この観音さまも、昔は、高福寺という大きい寺に祀られていたが、その寺が火事で焼け、この観音像だけが残ったと言う。現在の観音堂は、明治中期の新しいものである。

<写真 パンフレット引用>

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