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タイムイズマネー

「タイムイズマネー」

「時は金なり」

今は素晴らしい格言だと思うが、

金という文字がはいるとガメツさを感じてなんとなく昔は避けていた気がする。

時間は目に見えない分、自分の価値として実感が湧きづらい。

でもこの格言通り、時間は金ほどの価値がある、いやそれ以上なのだ。


残暑に負けて近所のカフェでモーニングを取りながら諸作業をしている。

私がいつもの席で作業していると

同じく毎朝くるおばあさんが私の二つ隣の席に座る。

もしかするとそのおばあさんが私が座る席を気に入っているのかと思い、

ある朝「席、代わりましょうか?」と声をかけたら

「いいのいいの、それよりちょっと聞いてくれる??」と

ものすごい勢いで身の上話を始めてきた。

「これだけ、これだけ聞いて」

と迫力満点でくるため一瞬ひるんだが、

いやとも言えずになんとなく頷いてしまった。


明らかに、時間の無駄だ。

なので私も負けるわけにはいかないと、

おばあさんの方に顔を一切向けずに目の前のパソコンに視線を移して、

時々首を前に倒して、フンフンと聞くふりをして攻防することにしたのだ。

それでもおばあさんは諦めずによくわからない身の上話を浴びせかけてくる。

私は態度では抵抗をしているように装ったが、そんなことは御構い無し。

結局、まったく自分のことには集中できなかった。

敗北である。

ただ5分ほどすると、

おばあさんも画面に集中しているふりをする私の抵抗をうけ、

「わるかったね。ありがとね」と引き下がっていった。

逆転勝ちとは言えないがドローには持ち込めた。

お人好しなら1時間は無駄にして完敗だっただろう。


私は人の話を聴くのを生業にしている。

時給にすると1時間7500円だ。

まさに「タイムイズマネー」である。

自分の時間を無駄にしたことに少々憤慨し、

もしも次の日、おばあさんが話しかけてきたら、

「私は占い師なのでお話聞くのにお金がかかりますがいいですか?」

という技を掛けてみようなどとあれこれ考えた。

そしていざ朝のカフェに参ったところ

おばあさんは「おはよう」とあいさつしたきり何も話しかけてこなかった。


なんだ、結局「次はこんな技を掛けてみよう」などと

くだらないことを考えている時間さえも無駄だった。

タイムイズマネー。

自分の時間の価値をわかっていないのは私だった。

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