少子化の推進を目指して

来月(9月)下旬に出る『猫目荘のまかないごはん』の再校が無事終了。基本的に著者の仕事はここまでで、あとは発売を待つばかりです。ありがとうございます。
「猫目荘」は「ねこのめそう」と読みます。「猫目草(ネコノメソウ)」から。

少し気は早いが、ここでその新作の話を。
せっかくわざわざブログまで覗いてくれたお礼に、少し突っ込んだ話もしようかと。

まずは「猫目荘」のおおまかな内容。

親と絶縁し、いろいろあって「人生詰んだお…」な三十女が昭和の下宿屋のような「猫目荘」にやってきて、おいしいまかないに癒やされながら、住人との交流でいろんなことに気づいていく。そんな話。
まかないをつくる大家はおっさんふたりのパートナー。住人はタトゥーの入った謎の女、有名YouTuber、売れない俳優、堅物そうな無口な女、姿を見せない謎の人物など。

LGBTQ+だけでなく、既存の価値観、常識にまっこうから挑む攻めた内容になってる。
多少ネタバレにはなるが、ネタバレになったところで本作のおもしろさが損なわれるとは思わないので(そこに力点は置いていないので)書くと、アセク(アロマ)や、オープン・リレーションシップなんかの話題も扱ってる。
言葉の意味がわからない人は、ぜひ調べてみて。

とても個人的な話をすると、好きな、おもいろいと思っていたマンガに恋愛要素が加わってくると、とたんにげんなりして読む気が失せる。主人公が男であれ女であれ。
世間的にそれが「ウケる」ことは頭では理解しているが、心ではまったく理解できない。
自分がアロマ(アセク)だとは思わないけど、少なくともほかの人よりその傾向は強いのかな、と思うことは正直ある。

わざわざ書名は書かないが、超絶大ヒットした小説をいろんな事情から読む必要性に駆られ、それがいわゆる恋愛もので。
このときの読書ほど、この世の地獄を味わったことはなかった。とにかく苦痛で苦痛で、文字がぜんぜん読めなくて。だから余計に読み進めるのに時間がかかり、それがまた苦痛となり、の悪循環だった。

世間一般の興味との乖離を自覚するにつけ、やっぱりマイノリティゆえの疎外感はあるし、プロとしての資質に疑問も覚えた。エンタメはやっぱり、多くの人が共感できるベタなものを書ける人が強いから。
一時期悩んだこともあったけど、ありきたりながら自分に書けるものを書くしかないと割りきっているし、デビューから6,7年が経ったあたりから世間との折り合いの付け方もだいぶ掴めてきたように思う。


ここからさらに突っ込んだ裏話を。

本作のテーマは「価値観を拡張しようぜ!」
異性と結婚して、子どもを産んで、育てて、という既存の価値観を否定するつもりはない。けれど、そこに乗れない人はいて。
そんな既存の価値観、人生のあり方なんかを、全部ぶっ壊したいと思って書いた。ぶっちゃけ「少子化推進小説」である。
とある登場人物は「結婚」という契約制度についてメタクソに貶し、否定している。けれど既婚者だったりする。もちろんそれが絶対だと思って書いてはないし、あくまで物語としての誇張表現ではあるんだけど、自分のなかにあるひとつの考えであるのはたしか。

本作の企画を練り上げる前に、KADOKAWAの担当さんはたくさんの本を送ってくれて。小説や、エッセイ系、レシピ系などもありつつ、いちばん参考になったのはマンガで。
とくに琴線に触れたのは以下の作品。

『作りたい女と食べたい女』
『ふたりでおかしな休日を』
『マダムたちのルームシェア』

これらの作品からインスピレーションを受けて『猫目荘のまかないごはん』のアイデアは膨らんでいった。詳しい説明は省くけど、どれも「価値観の拡張」が根底にある作品だと思う。

それもあって本作はかなりマンガチックな作品だと自覚してる。自然とそうなった部分もあるし、意識してそうした部分もある。
最初、マンガ一話ぶんの長さを想定して、全12話で企画を立てたくらいである。さすがにそれは細切れすぎるだろうとなり、全6話で落ち着いたが。

本作は執筆から書籍化までかなりのスピードで進んで、それは担当編集者が本作に惚れ込んでくれたのが大きかったと思う。
実際これまでにないくらい、こちらが恐縮するくらいに担当さんが絶賛してくれていて。それは仕事上のテクニックではなく、本当に惚れ込んでくれているのがわかる「前のめり感」で。
めちゃくちゃ嬉しいし、ありがたいけれど、これでさっぱり売れなかったら立つ瀬がないなー、というプレッシャーも笑
最低でも続編を出せるくらいに売れてくれることを本当に本当に願ってる。


最後に。

繰り返すが、異性と結婚して、子どもを産んで、育てて、という生き方を否定するつもりはない。けれどべつにLGBTQ+でなくても、そこに乗れない(乗りたくない)人はいて。
結婚しても子どもはつくらない、同居しない、という選択肢を取りたい人もいるだろう。異性であれ同性であれ性的関係のないパートナーとの同居が居心地いいと感じる人もいるだろう。死ぬまで自由気ままなひとり暮らしがしたいと望む人もいる。
結婚のあり方も、結婚しないあり方も、もっともっとたくさんの選択肢があるはず。

多くの人が自分の理想とする生き方を思いつける社会、そしてそれを罪悪感なく実現できて色眼鏡で見られない社会、すべての人が自分の持てる力を十全に発揮できる社会であってほしい。
たとえ少子化に繋がろうとも、それが目指すべき世界だし、次代の社会のあり方だと本気で思っている。自分の書いた小説で、そういう社会の実現に少しでも貢献できればと本気で考えている。少子化は豊かな社会の証だと、胸を張って言える時代になってほしい。
「少子化対策」の名の下に、多様な生き方の否定、価値観の押しつけが起きそうな気配を感じるだけに、なおさら。


「猫目荘」を書き上げたあとに思ったのは、男(おっさん)同士で共同生活を送る作品も書いてみたいなと。ゲイではなく、友人同士、あるいはひょんな事情から共同生活を送ることになったおっさんの物語。
女同士ってのはわりとよくあって、もちろん男同士の作品もあるんだろうけど、あまり目立ってない気がするし、これから必要な価値観だと思うし。
やっぱり女同士のカップル(性的関係はない)より、男同士のカップル(性的関係はない)で暮らすほうが奇異な目を向けられやすいだろうし、ハードルは高いと思うんだ。そういう風潮を少しでも打破したい。

これからもお仕事がんばります。

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