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Outer Wilds考察:『宇宙の眼』とは何か

注意

この記事はゲーム『Outer Wilds』と、DLC『Echoes of the Eye』の重大なネタバレがあります。本編・DLCをクリアしていない方の閲覧は絶対に推奨しません。

この記事は筆者が運営するOuter Wildsファンサイト(2020年~2024年)で公開していた考察を再構成したものです。内容は筆者の個人的解釈です。





はじめに

宇宙の眼とは、新しい宇宙を生み出し、古い宇宙を終わらせる存在である。以上。

…これでは話が続かないのでもう少し詳しく書く。
我々が住むこの宇宙がどうなのかはまだ誰も知らないが、Outer Wildsの宇宙には「前の宇宙」「新しい宇宙(次の宇宙)」の概念がある。前者はNomaiが眼について書いた考察に出てくるし、後者はプレイヤーがゲームの最後で見た。

眼がこの宇宙よりも古くから存在しているなんてありえない。
もしかしたら前の宇宙の遺物なのかもしれない。

引用:脆い空洞・眼の祭壇のNomaiの言葉

Nomaiは自分たちが追ってきた信号が宇宙より古いものだと判断し、そのため『眼』そのものも前の宇宙から存在していたのではないかと考えていた。実際、『宇宙の眼』に到達したプレイヤーは今まで旅してきた宇宙が目の前で終わり、新しく生まれ変わったのを観測して旅を終えた。ひょっとしたら前の宇宙でもゲームのエンディングと同じようなイベントがあって、そこで演奏された音楽だとかが『眼』の信号になったのでは?といった想像もできる。

つまりゲームを終えた時点で少なくとも2回は宇宙が代替わりをしていて、そのどちらにも『眼』が関わっていることになる。
だとすると『眼』は宇宙の滅びを超えて存在し続けることが出来るのか? もしかしたら前の前の宇宙も、その前の宇宙も『眼』が生み出してきたのではないか? 憶測に過ぎないが、『宇宙の眼』がその能力を持っているのは確かである。

『宇宙の眼』が宇宙の生死をループさせていると仮定して、では実際に『眼』はどのようにしてそのようなことをしているのか? ここからが本題です。

『宇宙の眼』の目的

新しい宇宙を生み出し、古い宇宙を滅ぼしながらも自分自身は終わることのない存在。これだけ聞くと『眼』は神のように壮大な存在のように思える。しかし『眼』は単独では黒っぽい岩の塊に過ぎない。『眼』が能力を発揮するには意識的観察者が必要になる。その呼び名に反して『宇宙の眼』は自分自身を見ることが出来ないからだ。

ということは、『宇宙の眼』が生み出す宇宙は常に「意識的観察者が存在する宇宙」でなくては生死のループが成立しない。そのためには『眼』は「生命が誕生する可能性を持つ宇宙」を用意する必要がある。

より厳密に言えば視覚を持っている意識的観察者でなければならない。もしアンコウが知的生命体に進化しても盲目のままだったらダメかも…

我々の宇宙がそうであるように、宇宙に生命が誕生する確率は極めて低い。その生命が宇宙を航行できる技術力を持つ知的生命体に進化する可能性は更にとんでもなく低い。だがOuter Wildsの宇宙には『眼』に比較的近い場所に3種もの知的生命体がいたわけです。そんなことある? もはや『眼』が宇宙のパラメータ的なものをいじってそうなるように調整したと考えたほうが納得できる異常事態です。

しかし実際、『眼』に到達した意識的観察者が持つ何らかの要素が次の宇宙に影響を与えるのは事実である。持って回った言い方をしましたが要するにSolanumや囚人と出会っているか否かでエンディングのラストシーンが変化するアレのことです。『眼』はただ宇宙を誕生させるだけでなく、その内容までも(具体的にどうやっているのかは全く分からないが)ある程度操作できるのはこのシーンで証明されている。
変化の内容が「知的生命体の種族が増える」であることからも、『眼』が意識的観察者となりうる存在をより重視していることが分かる。

「火を使って調理をしている」「ランタンのような道具を使っている」といった描写は、あの種族たちが知的生命体であるという説明にもなっている。
更に天体の基本的な形が変化しているのは、新しい宇宙では惑星生成のルール自体が変化している可能性をも示唆している。意外と情報量が多い、あのラストシーン。

地球人類の宇宙論にも人間原理という考え方があるが、『宇宙の眼』は『眼』が基準となる人間原理のようなことをやっているのかもしれない。

『宇宙の眼』と量子のかけら

では『宇宙の眼』は、生命が存在する宇宙を生み出すために具体的に何をしているのか? そのヒントは『眼』の地表にあったにある。雷雲が立ち込める中、雷と共に出ては消えていたあの謎の木々のことである。

あれらの木々はもちろん『眼』の地表で生まれ育ったわけではない。当然誰かが来て植えたのでもない。おそらく、あの木々は量子のかけらが連れてきたのではないだろうか。

量子のかけらの性質について、Solanumが興味深い説明をしてくれている。

量子の月が眼の月だとしたら、月が示している特徴はすべて、眼そのものの特徴でもある可能性が高い。たとえば、量子の月とそのかけらは量子であるから、眼も量子である可能性が高い。
つまり、この月が量子なのはおそらく眼に近接しているからで、同様に他の惑星に落ちた量子のかけらの周辺のエリアも最終的には量子になる。

引用:第6の場所・Solanum

Solanumは「量子になる」という言い方をしているが、この量子とは正確には「『宇宙の眼』を構成する量子」のことだと思われる。量子のかけら、そして量子の月は元は『眼』から分かれて出来たものなので(注・以下参照)、簡単に言えば量子のかけらの付近にあるものは『眼』と同じ物質に置き換えられるということだ。

No Cartridge Audio | RedCircle # Episode 135: Outer Wilds Forever! with Alex and Kelsey Beachum
https://redcircle.com/shows/no-cartridge-audio/episodes/79c2a329-f01a-4ff4-a8f5-8b0ffce6dc2b

引用:Kelsey「And then the quantum moon was then assigned to be the moon of this planet that fell through the eye.」

このことを視点を切り替えて考えてみると、『眼』を構成する量子には物体を複製・再現する能力があり、更にはその状態を情報的に保存する能力もあると解釈することが出来る。
(「物体」には動物や植物などの生命体も含まれる)
28万1042年前の人物であるSolanumと我々が出会うことが出来たのは、彼女がもはや生身ではなく、量子によって再現された存在だったからに他ならない。

『眼』の森の中で1シーンだけ出てくる、量子のかけらと同じテクスチャのマツの木。
エンディングで見た光景の「答え合わせ」がこれなのかもしれない

さて、そのようにして量子で再現されたと思われる木々が『眼』の地表にあったわけだが、これには量子のかけらが関わっていると考えるしかない。かけらが『眼』とは別の天体に移住したあとも、かけらと『眼』には何らかの結びつきが残っているということだろう。量子もつれとか。
(ちなみにこの木々は超新星爆発で太陽系が壊滅した後も消滅しない)

量子のかけらが量子に変換した物体が『宇宙の眼』に持ち込まれるということは、量子のかけらがその物体の情報を『宇宙の眼』に送信しているとも言い換えられる。
もっと言えば、『宇宙の眼』は量子のかけらを通して宇宙の情報を収集していたのではないか? ちょっと飛躍した考えかもしれないが、そうでもないとゲームのエンディングで起きたことの説明ができない。『眼』の森の中ではプレイヤーが知っていることも知らないことも両方起きた。例えば、Nomaiが持っていた杖に楽器の機能もあることはそれまで知りようがなかった。しかし『眼』は量子のSolanumを通じてその情報を知っていたのである。

ゴチャゴチャ書いたが要するに『宇宙の眼』には宇宙規模の情報ストレージ的な面もあるのではないか? ということが言いたかった。カッコつけた言い方だと可能性を保存する装置とか言ってもいいかもしれない。ここまでは量子のかけらを例に出したが、量子の月ではそれぞれの惑星の環境を丸ごと再現していたりもしていたし、『眼』は結構手当たり次第に宇宙の情報を収集していたようである。量子のかけらが存在しなかったはずの『流れ者』の情報をも『眼』が持っていたのは月のおかげだった可能性もある。

そして『眼』が物体の再現能力を持つ情報ストレージであるとするなら、『眼』が宇宙の終わりを超えて存在し続けられる理由もこれで説明できるかもしれない。『眼』がビッグバン的なイベント等で破壊されることがあったとしても、ほんの一部分だけでも残ってさえいれば新しい宇宙にある物質を利用して自分自身を作り直すことが出来る。そんなに都合のいいことがあるか? と言いたいところだが実際に次の宇宙で生き残っているヤツがいるのであながちテキトーな説とも言い切れない。たぶん。

ここで偵察機くんが出てきたのはギャグ描写とかではなかった可能性

『眼』にとって意識的観察者とは何か?

しかし、ただ情報を集めているだけでは『眼』にはそれぞれの要素の重要度は判断できない。『眼』にとって重要なのは「生命が誕生する可能性のある宇宙の環境づくり」であり、それに対してノイズになる情報は極力減らさなければならない。

そこで意識的観察者の登場です。意識的観察者のことは意識的観察者に判断してもらうのが一番だ。乱暴に言えば、意識的観察者が「これは大事だ」と思うものが生命の誕生とかその後の生存や進化に必要な要素により近いからである。つまり収集したデータの重み付けを『眼』は意識的観察者任せにしているのだ。非常に合理的である。

補足(という名の弱めの根拠):プレイヤーが量子の月の第6の場所から脱出しようとすると、必ず木の炉辺(=主人公の故郷)の月に出るのも実はこの影響によるものかもしれない。『眼』の量子が意識的観察者の脳内を読み取って、その存在がより重要と考える場所に送り返していたのかも?
この考えが正しいとすれば、例えば脆い空洞が故郷のNomaiが巡礼に来たとき、そのNomaiは脆い空洞の月に出ていた可能性がある。

意識的観察者について考えると、「『眼』の信号とは一体何だったのか」の問いにも意味が出てくる。『眼』の信号は意識的観察者を『眼』に呼び寄せるためのものだ。苦労して意識的観察者を宇宙に誕生させても、実際に『眼』に来てもらえなければ意味がない。

花は見た目や香りで虫を呼び寄せて受粉を促す

だが、宇宙を航行するほどの技術力と好奇心を持つ知的生命体なら「宇宙より古い信号」には確実に興味を惹かれるはずだ。そうでなくても、見ていない時にあちこちを動き回る量子のかけらの挙動を見て無関心でいられる者はいないだろう。

余談:Outer Wildsのインスピレーション元のひとつである映画『2001年宇宙の旅』に登場するモノリスも似たような要素を持っている。
モノリスの各辺の比は完璧な1:4:9=最初の3つの自然数の二乗であり、高度な技術を持つ者が作り上げた人工物であることを見る者に強く印象付け、知能を持つ者が興味を持つようなデザインに設計されている。しかも宇宙に向けて強い信号を出したりもする。
というわけでモノリスは量子のかけらの元ネタかもしれないと勝手に思っています。

何らかの原因で『眼』の信号が途絶えたりでもしない限り、『宇宙の眼』の居場所は信号を受信する技術を持つ全ての知的生命体に明かされている。その中のたった1人でも『眼』に到達する者がいれば『宇宙の眼』は新しい宇宙を生み出すことが出来る。
そして、そういう存在は『眼』にとって新しい宇宙でも再誕生させたい最優先対象になる。『眼』に入った意識的観察者が持っていた情報(ゲームの例だとSolanumと囚人に会ったか否か)が次の宇宙に強く反映されるのはそのためだろう。

補足:エンディングの終盤で行われた旅人たちの演奏は次の宇宙における『眼』の信号の元になったのかもしれない。音楽はゲームの登場人物たちが特に好むものであり、次の宇宙の生命たちもその性質を受け継いでいる可能性が高い。
『眼』の信号は意識的観察者の関心を惹くためのものなので、意識的観察者がより好む情報が信号として送信されるのは合理的である。実はゲームで聞ける『眼』の信号の音も、前の宇宙の意識的観察者が演奏した音楽や歌のようなものだったのかも?

『眼』に入った意識的観察者が好きだった何かが新しい宇宙に受け継がれるのは、『眼』から意識的観察者へのお礼みたいなものかもしれませんね。マシュマロとか。

ところで、プレイヤーがSolanumや囚人と出会っていなくても次の宇宙に必ず登場する生命体がいる。です。ゲームにはいくつかの種類の樹木が登場したが、次の宇宙の木が木の炉辺でよく見られるマツ系だったのはやはり主人公の影響を強く受けているからだろう。
HearthianもNomaiも流れ者住人も、『眼』に接近した種族はいずれも木のそばで生活してきた生物である。これだけでも『眼』が木を重要視するのは必然である。他の生命を育み、燃料や道具の材料となり、宇宙船の部品にもなる。宇宙に知的生命体を誕生させたい者にとってこれほど有り難い存在はないだろう。『宇宙の眼』と木はある意味で共生関係にあると言ってもいいかもしれない。Outer Wildsのタイトルロゴにもいるしね、木。

まとめ

つまりこうだ。

  • 『宇宙の眼』は宇宙に存在する生命や、惑星の環境などの情報を(量子のかけら、量子の月を使って)手当たり次第に収集する

  • 信号を発して意識的観察者を『眼』に呼び寄せる

  • 『眼』に到達した意識的観察者に、新しい宇宙を作るのに必要な情報を選別してもらう

このようにして『眼』は意識的観察者が存在する新しい宇宙を作っているのではないか。ここまで来ると、むしろ『宇宙の眼』が自己保存のために新しい宇宙を作っている可能性まである気がしてくる。宇宙をループさせることで灰の双子星プロジェクトのように何かを探しているのかもしれないし。本当のところは誰にも分からない。

『眼』に意思があるのかないのか、偶然生まれたのか、何者かが作ったのかまでは考えても分からない。以前の宇宙の意識的観察者の意思がいくらか保存されていて、そういうものが受け継がれてる可能性はあるかもしれないが。

もしかしたら、いくつか先の宇宙で『眼』そのものの謎を解明してくれる種族が現れるかもしれない。その可能性も『宇宙の眼』には眠っている。


おまけ

ここからは補足というか、かなりミもフタもない話。2022年10月、本作のディレクターであるAlex Beachum氏がプレイヤーの方からOuter Wildsの物語構造について質問された際、このように解答されていました。

cyclic universe modelsとはサイクリック宇宙論のこと。簡単に言うと宇宙は消滅しては再生する(膨張→収縮→膨張→収縮…)のを繰り返しているという説です。というわけで『宇宙の眼』が宇宙の誕生と終わりのループを繰り返している説は割とガチだと思います。「制作者が言っていた」を根拠に持ち出すのはこの手の考察では禁じ手なので最後に紹介いたしました。以上です。


スクリーンショット引用元:Mobius Digital Games 『Outer Wilds』 (2019)


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