見出し画像

遠近両用と中近両用の提案をどのタイミングで切り替えるのか?を解説します

まず、遠近両用と中近両用の基本的な特徴をおさらいしましょう。


遠近両用レンズは、レンズの上の方が遠くを見るための度数、下の方が近くを見るための度数になっています。


しかし、レンズの設計上、遠方視野は広いもののパソコンなどの距離から手元にかけて視野が狭くなり、
1番近いところはハガキ一枚分くらいの広さになる特徴があります。



中近両用レンズは、主に50センチくらいのパソコンの距離から、2、3メートル離れたところまでを見るためのレンズです。


中間部分の視野が広い分、遠方視野がほとんど確保されていないので
中途半端に遠方を必要とする方には不向きな設計です。



では、このレンズ設計の違いを踏まえて、
それぞれをどんなタイミングでどんな方に提案すればいいのか?
を解説していきます。



まず、遠近両用をおすすめする人はこんな感じです。

・40代後半から50代前半の人
例えば、48歳の営業マンのAさん。
外回りなどが多く、最近スマホの文字が見づらくなってきた。


・運転する機会が多い人
車の運転中は遠くの看板も見たいし、ナビの画面も見たい。



・外出が多く、様々な距離を見る必要がある人
例えば、50歳の小学校の先生のBさん。
黒板を見たり、生徒の顔を見たり、手元の書類を見たり。
遠近両用なら、自然な姿勢で全ての距離を見ることができます。



・目線を自然に上下できる人
遠近両用は、目線を上下に動かすことで焦点距離を変えるので、
初めての遠近が70歳以上の方だと
あえておすすめはしない方が無難ですね。



続いて
中近両用をおすすめする人はこんな感じです。



・50代後半以降の人
例えば、58歳のwebデザイナーのCさん。
パソコン作業が増えて、遠近両用の視野では不便に感じる場合におすすめします。



・デスクワークが中心の人
1日の大半をパソコンの前で過ごす人には、遠近両用よりも中近両用がおすすめ。

遠近両用ではパソコン部分に焦点を合わせるためには少しアゴをあげ気味にしないといけなくなりますが、
中近両用ならまっすぐの視線でちょうどパソコンの距離にピントを合わせることができるからです。



・主に室内で過ごす時間が長い人

例えば、60歳の図書館で勤務のDさん。
本棚の本を整理したり、カウンターで利用者と話したりと、室内での作業やパソコン作業が中心になる方におすすめです。



・遠近両用の加入度数が+2.00を超えそうな人

加入度数が強くなると、遠近両用では度数を上げたところで
根本的な解決にはあまりなりません。


そんな時は中近両用を積極的に提案していきましょう。



ざっくりと遠近両用と中近両用のおすすめポイントを解説しましたが、
結局のところ遠近両用と中近両用、どこで提案を切り替えるのか?ですよね?



僕は5つのポイントを問診の段階から
ボーダーラインとして考えています。


大枠はこんな感じです。
・運転をしない
・KB遠近両用(現用眼鏡)の加入度数が+2.00を超えている(または超えそう)
・デスクワークをメインとしている
・用途ごとに眼鏡の掛け替えができる
・室内で動き回る仕事をする



まず
・運転をしない
これが1番確認したいことです。



もちろん運転しなくても広いフロアでそこそこ遠方まで見ないといけないなど
使用環境は細かく確認し、遠方の距離をどこまで見るのか?を確定させます。


そうすればあとは、
そこから逆算して手元の視野を広げる設計の提案に切り替えていきます。



運転するなら遠近
広いフロアで3メートルより遠方まで見るなら、「遠近か遠方重視設計の中近」。

3メートル以内で作業することに重点を置くなら
「遠方重視設計の中近」か「近方重視の中近」。


もっと手元に重点を置きたいなら「近々」といった具合に、
「どこを1番見たいか?」という重点を置きたい場所をヒアリングして、
遠方よりか近方よりか、4対6とか 6対4みたいに「どちらかに重点が寄る」ということを理解してもらえるまで説明し、

「その上でどこを見たいか?」をもう一度確認して設計を確定させていきます。

・KB遠近両用の加入度数が+2.00を超えている(または超えそう)

KBの遠近加入が2.00を超えていて「PCが見えにくい」というワードを聞いたら、

まず「中近」を頭に浮かべ、
「遠方をもう少し見たい」と言われたら「遠方重視の中近」を提案、
「まだ遠方を見たい」となったら遠近でむりやりがんばる方法しかないことを
説明します。


おそらくその方は
「現状、重点を遠方に置きたいけれども、もう少しPCが見やすくなったらいいなぁ」というレベルです。


年齢的にS面が過矯正になっている場合も多いので、
S面を1段階下げてみるなどの方法で
今より少しでもマシになるかどうか?の確認をしてみましょう。


「加入度数を上げる」という選択肢は最後の最後にしておきましょうね。

・デスクワークをメインとしている
デスクワークがメインの場合は、「どこまで遠方を残したいか?」を確認して
「遠方重視の中近」か「中近」の2択でOKだと思います。


1メートル以内で重点を置きたいなら「近々」の選択肢もありですね。



・用途ごとに眼鏡の掛け替えができる
掛け替えができるなら、「どこの距離を1番見たいか?」を確認し、
「視野の広さ」をポイントにお話しをしましょう。



累進設計はどうしても「視野の分割」になるので
「重点的に見たい部分」を広い視野で見たいなら
単焦点で明視域(距離)を合わせる。



運転するぐらいから3メートル以上の遠方重視なら遠近。

数メートル以内と手元重視なら中近。

1メートル以内なら近々。

この距離感を頭の中に入れておけば、
設計を提案するときに迷いにくくなると思います。


・室内で動き回る仕事をする

ひとことに「室内」といっても「いろんな広さ」がありますよね。

この距離感はその本人しかイメージできないので、
「どこからどこまでを見るか?」を何度もヒアリングして
余計な情報は聞き流し、
「今回の眼鏡でどこからどこまでを見る予定か?」を確認していきましょう。


人によっては、わざと眼鏡をずらして遠方や近方を見ている人がいます。

「眼鏡屋に相談に来る」ということは、
「その現状に不満がある」ということが多いので、
その悩みを「聞き出せる質問」を意識することが大切ですね。



5つのポイントを解説しましたが、
この5つのポイントが出てきたら
「あっこれは中近だな」とか「これは遠近だな」といった声が
頭の中に聞こえてきたらOKです。


先ほど少し紹介しましたが、「遠方重視の中近」も引き出しとして
覚えておきましょう。

「運転はしないけど、中近よりもう少し遠くまで見たいんじゃぁ」
なんて相談を受けることもあるんですけど

そんな時は、「遠方重視の中近レンズ」を紹介してみてください。


遠近両用ほど遠くは見えないけど、中近両用よりは遠くが見える。
まさに「いいとこどり」のレンズです。(逆を言えば中途半端な気もしますが)
しかし、ちょうどその距離感を必要とする人も結構います。



例えば、55歳の大学教授のPさん。
講義中は教室の後ろまで見たいけど、運転はしない。
中近両用はパソコンで便利だけどもう少し遠方が見たい。
こんな人にぴったりなんですよね。



提案順としては、
遠近→中近→遠方重視の中近レンズを試してもらい、

「今回の主訴に1番近そうなものはどれか?」を確認するといいでしょう。

ここまで遠近両用と中近両用の特徴や、おすすめするポイント、
切り替えのタイミングについて詳しく解説してきましたが
「やっぱり最終的に確認することは、1番どこを見ることに困っているのか?」を初めの問診でほぼ確定させることですね。


基本的にお客さんは全部が楽に見たいと思っています。


でも眼鏡屋で働いているなら、「それは無理なんだぜ」ということを知っていますよね?

ですので、まずはどこが1番見たいのか?を確定させていきましょう。

どんなにいろんな惑わされることを言われても全て聞き流し、
「今回の眼鏡ではどこが1番見たいですか?」と何度も確認しましょう。



それを基準に逆算して、
遠方距離をメインにしたいのか?
中間距離をメインにしたいのか?
近方距離をメインにしたいのか?


遠方と近方のバランスはどっちがメインでいいのか?
全ての距離を1つの眼鏡でカバーするのはできないことを説明できるのか?



これを体験してもらいながら、より1番見たいところはどこなのか?を
さらに確定させていきます。


提案と体験と説明を繰り返しながら、
「どれが今回の要望に1番合っていそうですか?」と問いかけ、

最終的にお客さんが選択したもので最善の見え方になるようにしていきましょう。


眼鏡選びは、その人の生活の質を大きく左右します。

眼鏡屋の仕事は、単に度数を合わせるだけでなく、
お客さんの生活をより快適にすることです。

遠近両用も中近両用も、それぞれに特徴があります。

どちらが良いかは、お客さんの生活スタイルによって大きく変わります。
そして、どちらにもピッタリ当てはまらない人には、
遠方重視の中近、「遠近と中近の間のレンズ」という選択肢も増えてきました。


これからもレンズは進化して、もっと細かな設計が出てくるかもしれません。
AIで測定できる時代にもなってきていますし、
負けないようにするためには、
測定する側の理解力や説明力がこれからも問われ続けると思うので
これからも日々、知識と問診する力を鍛えていきましょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?