なんとかロスについて

夢だった技に手が届いた事で新たな世界に踏み入った気がする。その夢だった技にたどり着くまでの道のりは長かったが、長くしてしまったのは私自身の思い込みからだった。
その反省も含めて、こうして言葉にしているのだけど、これまで味わった事のない気持ちに出会ったのでそれも伝えておきたい。
「なんとかロス」の話だ。

・目的を失う
相手から棒切れを奪い取る、そんな動きを求めて稽古をしてきた。まぁ、無意識的にだけども。足指先が軽く動くようになったことで、相手との間の角度を調整できるようになった。そのおかげで両手が自由に動くようになり夢が叶った。
意識的に目的にもできなかった事だけに、実際にできた時には驚き、当然、嬉しかった。しかし、それもだんだん当たり前になっていく。
そして気づいた。次の目標を失くしてしまっていたのだ。

・なんとかロス
人気の朝ドラが終わったりすると、「なんとかロス」です~、みたいなコメントがよくある。それを聞くたび、え~と思っていた。そんな事ぐらいで、と。しかし、今、猛烈に反省している。その人たちは真剣に、全身全霊でその朝ドラに向き合っていたのだ。もう、観ることはできない、と気づいた瞬間、どうしたらいいのかわからなくなっていたのだろう。
これまでずっと、自分の中には不安があった。その不安が目標になり、より軽く、より早く、より気配なく、より重い動きを求められた。しかし、初めて求めていた動きに気づき、ホッとした事でさらに奥を目指す気持ちが消えてしまった。ロスだ。

・助けてくれるのはやっぱり怖れ
もしこれが永遠に続く数字を高めていくようなものなら新たな目標を設定すればいい。気持ちはこもっていない数字だって目に見える形になるのだから当面の目標に目標にはなる。
しかし、私の稽古には段位もなければ試験もないし、大会もない。いつも身体感覚と感情だけを手掛かりにしてきた。だから目標をロストしてしまったのだろう。

ただ、身体は相変わらずそこに存在している。頭に目標はなくても、身体にはいつも、刺激が加わり続ける。たまたま投げられた棒切れをキャッチした時、身体がぎゅっと縮んだのを見つけた。そして気づく。あぁ、遠くから狙われると怖いのだ、と。
当たり前の事だが、これまで遠い相手からは逃げればいい、と考えていたから思いつかなかったし、だからこそ、切実な思いがわかなかったのだと思いう。ものをキャッチする時のビクリビクリを消したいな、と思っていた。新しい目的が生まれたようだ。

・簡単を手に入れてからは本当に簡単
遠くにいる相手とどう向き合うか、それが私の新しい目的になった。離れているから角度は合わせられない。どうしても、怖さが先に生まれ身体が緊張する。
遠い間合いから相手に徐々に近づく。ただ歩くだけなのに、勝手に身体が縮こまる。これをなんとかしたい。
なんとかしたい、と思えばアイデアがわく。そして、アイデアを押さえつけている「難しい」という観念は取れた。ふと身体を小さくしてみたら当たらないのではないか、と思いつき試してみた。
身体を半身にしてそのまま相手へと近づいていく。気持ちに目を向けると、さっきまであったビクリビクリが消えて、一塊のまま相手へと近づくことができるみたい。30年かかる技もあれば数時間でできる技もある(笑)。

・身体に従えば大丈夫
なにかを失ってしまって悲しい、という気持ちは確かにある。しかし、それを生み出す原因の大部分は「頭」だ。常に前へ前へと進む性格の人はきっとロスしない。じっくりと問題と向き合って考える人にはロスは生まれる。新しい問題に出会うまでは考えることができなくなる。
現代は何となく生きていける。しかしそのなんとなくはちょっと怖い。だからこそ、身体にかじ取りを任せ、ちょっと怖いこと、苦手なことに向き合っていったらいい。
身体の右半分を捨てて左半身だけになったことで前へと進む力が自分の中にもあることに気づいた。身体に聞きながら生きていけば身体が新しい道を用意してくれるようだ。

・怖いはありがたい
安心、安全、平和になった。だからこそ、自分の中に生まれるちょっとした怖さに気を付けてほしい。きっと、いいきっかけと出会える。

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