瞬間移動

武術の動きは「不思議」だ。
もう25年も前、初めてこの世界を知った時「消える動き」なんて言葉が躍っていた。きっと、今はさらにセンセーショナルな言葉が生まれ、「武術業界」をにぎわせていると思う(笑)。人の心には刺激が必要だ。

当時、言葉は学ぶことができたものの、実際に体験する事もなく、妄想だけであれこれ試した。「膝を抜く」というのにも一時期ハマった。しっかりと立つ事を止め、瞬時に膝の力を抜けば身体は落下する。この時、まぁ、条件設定を崩さなければ「消えた」という形にはなる。

ただ、それは長く続かない。相手だってわかるからだ。わかっている相手の目の前で膝を抜いても、全く効かなくなる。
技を隠す、という教えがあるが、実戦を考え、命を残す事を最優先とするなら当然だ。どんな凄い技だって、そこに理由があれば、それを知られれば無力だもの。

しかし、今ほど情報があふれてくるとそうはいかない。見せないわけにはいかない。むしろ、積極的に見せ、納得してもらう方がいい。
ただ、それでも、伝えていく側に進歩がなければそれは辛い(笑)。アドバンテージがなくなればただの人だ。

幸い、私は「研究の仕方」を教わった。困ったことがあれば身体に問えば必ずより良い動きを返してくれる。
今日のタイトルとした「瞬間移動」もそう。膝の抜きだけで満足し、かかる人にだけかけていたなら、今から書く瞬間移動法には気づけなかった。刺激的になっていく言葉にはついていけなくなり、この身体で出来る事を求めだしたからよかった。身体の声を聞けるようになっていった。

今、私は瞬間移動的動きをする時、「胸骨」を使う。胸骨を最前線に出し、見せる。すると、人は不思議とそれをみる。しかも、それが無意識のうちにだから厄介。
相手へと近づけば、相手は反射的に防御、もしくは反撃の行動を起こす。その時、おもむろに「胸骨を返す」。左半身になっているのなら、右半身へと変わるように動く。

ただ、ここからが大切。一回だけの反転だと、遠心力が末端である手足に伝わり、どうしても、力みが生まれる。
一回目の反転をし、胸骨が相手の動きを交わした後、すかさず、二回目の反転を行う。反転して、反転するのだから、身体の向きは元に戻る。
ただ、二回反転をしていると、どうしても、最初の位置からは移動している事になる。

この「移動量」が大切だ。直線で動いたわけではなく、反転して反転した結果生まれた場所。こちらはどう動いたのかはもちろんわかるが、相手はそれを認識できない。常識の中にそんな移動方法がないからだと思う。

これを「瞬間移動」と呼ぶのはどうだろうかとは思う。せいぜい10センチ程度だし。ただ、これまで入りきれなかった間合いへとこれで移動ができる。武術の世界で10センチ相手に入り込まれたらもう終わりなのだ。

また、この瞬間移動の正しさを競っているわけではない。それぞれが持つ胸骨を意識すれば自然と生まれる動きだし、特別な才能も要らない。胸骨よりも手足に意識が向かっているから胸骨がさぼっているだけだ。

私は漫画や映画、SF、ムーに育ててもらった(笑)。私の中に「瞬間移動」が眠っていただなんて心躍ってしまう。そして、たった10センチでもその移動方法を得れば応用は広がる。土台としての身体を活かす事ができる。
ネガティブな性格のまま世の中へと向かう自分が自分の心を壊す。ネガティブな性格は稽古に使い、ただ、淡々と自分の持っている力を探るのがいい。自然と自分にやれる事、出来そうな事の観念が変わっていく。

改めて書いておこう。胸骨を使え、瞬間移動が感じられる。

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