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『からこといのち通信 №23』5月号(人間と演劇研究所 瀬戸嶋 充 ばん)2022/4/24 発行

『からこといのち通信 №23』5月号(人間と演劇研究所 瀬戸嶋 充 ばん)2022/4/24 発行

自分にとって特に意味があると思われなかった体験が、あとから振り返ってみると、実はとても大切だったと気づくことがある。

「我見」というが、私たちはモノ(物・者・存在)やコト(出来事・存在)を見るとき、選り好みや贔屓をして見る癖がある。そのせいで私たちは、さまざまなモノ・コトを見るとき、自分(自我)にとって都合の良いものを選び、そうでないものは眼に入れずにスルーしてしまう。「我見」があるせいで、モノ・コトの「ありのまま」を見られなくなってしまっている。

「正見(照見)」と言おうか、ありのままの姿を見るには、この我見の色眼鏡を外し、自分の眼を直接にそのものに向けなければならない。そのために学問(修業)や信仰(修行)が必要となるのだろう。

私の場合は、私の我見にとって意味のないものと、意味あるものの区別が特に強かったように思う。少々ややこしいが、私にとって意味(意義)のあるものとは、それが他者にとって役に立つものであって、評価を得ることのできるもの、自分を有利にするもの、あわよくば稼ぎに繋がるものだ。それ以外は、私にとって意味の無いものと見ていたようだ。

私は、意味あると思うところの実現に向って、走り続けてきた。そして今になって気づいたのだが、これは競争原理の目指すところの出世主義ではないか!私は競争が苦手である。先行く人にはたいてい道を譲る。競り合って勝つことに興味はない。それなのに自意識(自我)は無自覚に競争を求め、それを強いる。何という矛盾を抱えている自分か?苦しいはずだ。あまりに愚かな葛藤ではないか。

分を知るというが、世間(社会)の中での自分の仕事を考えるとき、私は肉体労働を選ぶ。知的労働というのは性に合わない。もともとは一人でコツコツと、自分のやりたいこと好きなことを、自分のやりたいやり方で、たっぷり時間をかけてやりたい。他人の評価などどうでも良い。自分の納得の行くものを作る、職人が良いかも知れない。(レッスンするのも、からだとことばの職人だ(笑))

ともかく、競争・出世主義の観点から見た私自身は、落ちこぼれである。私は社会の役に立つものを何も持っていない。社会の中にカテゴライズされた立場(役割・専門・スタンス)を持たないし、それを学ぶ気も習得する気もない。社会人として生きる自信も全く無い(笑)

ところが、これが私の「我見」の偏った価値観であることに、今更ながら気が付いた。自分が社会化しなければならないと、知らず知らずにしかも強迫的に自分に実現を強いる自我意識。それに応じるように私の視野を覆った「我見」。「我見」のフィルターの影に追いやられ、放り置かれた自分らしさ。

その自分らしさに、価値を認めることが出来なかったのだ。私には「気づきの体験」が山ほどある。私の「我見」のフィルターを破って、見ず知らずの出来事が顔を出す。

それは未知の私自身との出会いのはずなのだが、これまでの私はそれを他人事のように見ていて、自分(自我)にとって意味や価値のないモノとして扱ってきた。まあ、話のネタの不思議体験みたいなモノであった。ところがその「気づきの体験」こそが、私の本質的な個性を照らすモノ・コトだったのだ。

私は、我見の闇(無明)に纏(まと)わり着かれ、自己の正体が見えなくなっていた。社会に適応することに眼を奪われ、視野の外に放り置いておかれた自分。無視され続け、いま流に言うならそれは自分自身への「虐待」である。

「気づき」とは、我見の闇に沈む自己を救おうとして、「いのち」(自然・魂)の側から発されるメッセージだ。我見によっては、意味を読み取ることの出来ない言葉で描かれている。理解する必要はない。ただその体験(メッセージ)を繰り返し思い起こせばよい。その意味するところは時と共に変容し、やがて我見は氷解し「ありのまま」の自己と見(まみ)えることとなる。さらにその向かうところをも、教えてくれる。

この頃「気づき」という言葉が、人々の手垢にまみれて本来の意味を離れて使われているように思うことが多い。自意識の立場からすれば、思いがけず目の前にやって来るのが「気づき」である。意識的な予想や計画に拠らずに、ヒョイとやって来るのが「気づき」である。意識で予想がついたり、意識的操作によって姿を現すものは「気づき」ではない。「ヒョイ」とやって来るのだから、「ひょい」とでも呼ぼうか(笑)

自分(自力)で結果をだすのは「ひょい」とは呼べない。「ひょい(気づき)」は、どこからか突然やってきて、私の意識(視野)を奪うのである。

「ひょい」がやって来るには、今ここで自分がやっていることを、一所懸命にやり抜くしかない。「ひょい」を掴まえようと、直接に「ひょい」を目指していては「ひょい」は決してやってこない。

レッスンも生活でも、不器用な私は一所懸命に熟(こな)して行くしか出来なかった。その苦労のおかげで私は「ひょい」に出会えたのかもしれない。

「気づき(ひょい)」は、いわゆる学習の結果では無い。「こうやれば「気づき」を得られます」なんて言う、教師やセミナーの講座・講義は、言葉の意味からいえばインチキなのだ!

じゃあどうすれ良いか?目の前にやって来たことを選り好みせずに、見返りなど考えずに、一つずつ一所懸命にやり切って(取捨の選択も含め)、次に繋げて行くことしかないだろう。(貧乏だとこうしか出来ないのが良い!)

そして教師の役割は、それに付き添い励ますこと(かな?)。教師はお節介を焼かずに、当人の希望をどこまでも尊重し、その実現を妨げるモノ・コトから、当人を守ってあげること(かな?)。

私自身、自分が生きることで精一杯で、人の世話まではなかなか気が回らない(笑)

瀬戸嶋 充 ばん

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【1】 レッスン生活40周年記念(その7)「『歩く』と言うこと 」
【2】 あまねとばんの交換日記
【3】 レッスンのご案内
【4】 あとがき
【5】 バックナンバー( ばん|note )

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【1】 瀬戸嶋レッスン40周年記念(その7)『歩く』と言うこと

「景色がこちらにやってきて、その全てが私の中に飛び込み消え去って行く」これが『歩く』ということ。

景色が、自分の方にやって来てくれるのだから、向こうへ行こうと努力する必要がない。

私はといえば、景色が自分の中へと、通り過ぎるのを眺めているだけ。歩いてはいるが、考えなくとも足が滑らかに地面や床の上を滑っていく。(野山を行けばさらに気持ちが広々として来るだろう)

からだの無理・無駄な力みを取り去って、息を深くして、重心を地面に下してやると、自然とこんな感じの『歩く』が体験される。

踊りだしたくなるほどに『歩く』のが楽しくなる。気持ちも軽く明るく弾み始める。いつまでもどこまでも歩いて行けそうだ。自転車や車・電車に乗るなんて勿体ない。何か他の手段で代替のきかない体験だ。これを『歩く』の本源体験と呼ぼう。

ところで普段、私たちは『歩く』と言うことを、どのような体験として考えているのだろうか?

ちょっとそこまでの買い物に、自転車や車を使う。『歩く』のが「面倒くさい」という気持ちが在るのではないか。10分も『歩く』と体力と時間を消耗し、草臥れる。『歩く』とは、頭の中の地図に描かれたコンビニまでの距離と時間を、自分の意志と努力によって身体を移動させること。そんな観念が、私たちの頭(記憶)の中に、書き込まれているのではないだろうか?『歩く』ことは目的(買い物)を遂げるために、現実に重ねた地図の上に、苦労して足跡を刻むことだと。(この観念は学校で仕込まれたのだろうな)

人間はアフリカ南部の湖沼地帯に生まれ、世界中へと「歩いて」移動し生息地を広げていった。「なぜ拡げていったのか?」「何の目的で?」という問いがあるだろう。『歩く』ことは、目的を遂げるための努力だと考えるならば、食料の確保のためとか、人口蜜度の限界を超えるためとか、種の保存のためとか、当時の気候の影響だとか、いろいろとその目的を考え、仮説を説くだろう。そして進歩というものは人類の努力によって獲得された、素晴らしいものだと。

私のレッスンの立場からは『歩く』のが楽しく気持ちいいから、人類は世界中に歩みを進めていったのだと、答える(笑)それしか答えようがない。

人類は、いつ頃から『歩く』のが面倒だと考えるようになったのか。学校に入る前の子供たちの様子を見ていると『歩く』のが楽しそうだ。心の弾みが身体の弾みとなって、歩き、走り回っている。自動車が無い時代はどうだったのだろう。馬を持たない旅人はいやいや歩いていたのだろうか。

近代化・工業化が進められるに連れて、自動車や便利さを追求した製品に、人々の価値観をスライドさせていく。その過程で、『歩く』ことは無駄な労力や、下等なことと考えられるようになって(されて)しまったのかも知れない。

自分の身体能力を器械に預けたり、今では頭脳の能力をコンピューターに預けさえしている。それは同時に「生活の中の身体行動の喜び」を、破棄していることにならないだろうか?

『歩く』のは、世界とのコミュニケ―ン(流れ合い)の喜びを伴う。筋トレ機器で補うのは叶わぬものである。生活の中の立ち居振る舞いも言葉や歌の表現も、生きる楽しみとして捉え直して行きたいと思う。

「からだとことばといのちのレッスン」とは、人間行動を、その根源に遡って検証する作業だ。

瀬戸嶋 充 ばん

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【2】あまねとばんの交換日記

あまねさんは、美大出身で油絵専攻、インタビューをライフワークとして、現在は子育てに奮闘中。
( あまねさんの最近の記事は「あそどっぐ インタビュー」 https://note.com/kobagazin/m/m52dc197ffbaf )
※交換日記、今月もお休みします。日記の往復は続いています。一息入れて再開しますので少々時間を頂きます。

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【3】 レッスンのご案内

● 初夏の伊豆川奈合宿開催 
2022年5月27日(金)~29日(日)
https://ningen-engeki.jimdo.com/2022%E5%B9%B4%E5%88%9D%E5%A4%8F-%E4%BC%8A%E8%B1%86%E5%B7%9D%E5%A5%88%E5%90%88%E5%AE%BF-5-27-5-29/
前回合宿の朗読劇『土神ときつね』を YouTube https://youtu.be/IB1K3s9XLqQでご覧になれます。

● 神戸ゆらゆらワークの会主催WS
『「からだ」から始まるコミュニケーション入門』
2022年6月4日(土)~5日(日) 神戸市東灘区会場にて開催します。
https://ningen-engeki.jimdo.com/2022%E5%B9%B4%E7%A5%9E%E6%88%B8%E3%82%86%E3%82%89%E3%82%86%E3%82%89%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%81%AE%E4%BC%9A-6-4-6-5/

● 琵琶湖和邇浜夏の合宿開催
2022年7月16日(土)~18日(月)
https://ningen-engeki.jimdo.com/2022%E5%B9%B4%E7%90%B5%E7%90%B6%E6%B9%96%E5%A4%8F%E5%90%88%E5%AE%BF-7-16-7-18/
前回朗読劇『鹿踊りのはじまり』を YouTube https://youtu.be/-rm3YAVdIoQでご覧になれます。

● ワークショップ・合宿などのイベントのご案内は Facebookページ https://www.facebook.com/SensibilityMovement に「いいね!」して頂ければ、詳細が出来次第、FB通知でご案内します。

● オンライン・レッスン『野口体操を楽しむ』のご案内は、
https://ningen-engeki.jimdo.com/%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%95%99%E5%AE%A4/

● オンライン・プライベート・セッション開始
http://karadazerohonpo.blog11.fc2.com/blog-entry-370.html

●「出会いのレッスン☆ラジオ」https://www.youtube.com/playlist?list=PLnDMDlLE0m1LaDrvijAQA8RwzaiNAAdpZ
番組表は、https://ningen-engeki.jimdo.com/

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【4】 あとがき

● 伊豆川奈合宿スタッフの大澤さんが「からだとことばといのちのレッスン」PVを作ってくれました。楽しく仕上がっています。ぜひご覧ください。
https://youtu.be/9ro2xpaGYnc

● レッスンに参加したいけれど、どうも内容の説明が分かりづらい。との問い合わせを受けました。レッスンの資料をホームページにまとめてみました。ご覧ください。
https://ningen-engeki.jimdo.com/%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B9%E3%83%B3%E3%81%A8%EF%BD%97%EF%BD%93%E3%81%AE%E6%84%9F%E6%83%B3%E3%81%A8%E5%8B%95%E7%94%BB/

● 5月から7月のワークショップの予定が決まりました。瀬戸嶋はレッスンが何よりの元気の秘訣です。皆さんどうぞいらして下さい。

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● 私、瀬戸嶋 並びに 人間と演劇研究所『からだとことばといのちのレッスン教室』の 活動と情報は、ホームページで告知しています。
レッスンへ参加頂く際は、ホームページをご確認ください。
https://ningen-engeki.jimdo.com/

● 問合せ・申し込みは、メール karadazerohonpo@gmail.com 又は 電話 090-9019-7547 へご連絡ください。

人間と演劇研究所代表 瀬戸嶋 充 ばん

『からこといのち通信 №23』5月号 2022/4/24 発行

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