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日本で4番目に古い動物園から見えてきた、「ヤバさ」

 機会があったので、日本で4番目に古い動物園である甲府市立遊亀公園附属動物園へと訪れた。けれどそこは、動物園に関して「ヤバい」と思えるような現実を僕に突きつけてきたのだ。

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 エリマキキツネザルが、「ひとり」だけで、しかもそれほど広くない空間にいたのだ。他にも、マレーグマ2頭が暮らすにはさすがに狭いスペースであるのに、そこで2頭一緒に展示してあるのだ。

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 マレーグマは単独で暮らす生きものであるし、繁殖期でもない限りはオスメスが一緒に出会うことはあまりない。それであるのに、あきらかに狭いスペースであるのに、2頭がまるで押し込められているかのように暮らしていた。ズーラシアや多摩動物公園といった、広い動物園ばかりを見てきた僕にとってはあまりにも衝撃的な光景だった。生態を見せずに形態だけを見せる展示方法で、オスメスがケンカするような光景も少しだけあった。

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 それに加えて、あまりにも暇そうなチンパンジーを見ていると、なんだかかわいそうに見えてくるほどだった。隠れられるようなスペースもなく、何かできるようなこともない。こちらまで悲しくなるような感じだった。

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 アジアゾウに関しては、やがては井の頭文化園と同じように飼育しないという選択肢を取ることになるとは思うほどだった。というか、そうして欲しいほどだった。

 けれど、ある点を考えると、面白いことができるんじゃないかとは思えてくることもあった。

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 小型のサルであるマーモセットが、近くで見ることができるようになっている。それだけでなく、サル目の生きものたちの種類が規模の割に多いのである。

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 また、展示の際に絶滅危惧種であるとワシントン条約に記載されている絶滅危惧度合いをきちんと書いているのだ。位置や学名、英名や大きさといった細かな情報も記載しており、解説を工夫しているということが伝わってくるのだ。

 確かに、お世辞にも飼育環境は良いとは言えない。けれど、それであってもなんとか工夫しようとしているというのが伝わってくる展示もあったのだ。

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 ヒトが中に入れる檻があって、来園者も入って写真が撮れるという展示があるのだ。使われなくなった設備をなんとか工夫しようとしている光景が、なんとか伝わってくる。けれど、僕としては、飼育環境の改善をなんとかして欲しいという思いがある。とはいえ、設備面の改修というのはとてもコストがかかる。そう簡単に変えることはできないのだ。

 そして、見えてきた「ヤバさ」が、動物園の危機を予感させてくるのだ。

 感じたヤバさとは、決して展示方法だけではない。存続がかかっているほどにも、相当危機的な状況でもあるのだ。

 地方の動物園が置かれている状況を、僕は目の当たりにした。それは、財政が良くないことと、設備が古いこと、そして、生きものの置かれている環境が悪い場合が多いということだ。このまま生きものを飼育することができないような、良いとはいえない環境で飼育せざるを得ないということが常態化しているのだ。このままでは、今いる生きものがいなくなった場合に、新しく生きものを導入できなくなるという未来が見えてくる。けれど、自治体はどこまで動物園の危機に対して親身になって考えてくれるのだろうか。

 このままでは動物園が存続できない危機感を、自治体はどこまで抱いているのだろうか

 なんのための、誰のための動物園なのか。それが明確になっているところはあまりないだろう。けれど、「動物園が好きな人」というのは少なからずいる。けれど、そういう人たちのためだけにある施設ではない。多くの人が、生きものを通じて様々なことを学べるような施設が動物園であるのなら、動物園というのは開かれた施設でもあるべきではある。しかし、入園料による収入だけではそういったことは難しいからこそ、様々な方法を用いて収支を安定させていくということが求められている。けれど、それであっても動物園はなかなか安定して収入を得られるわけではない。昨今流行してきているCOVID-19による休園を余儀なくされてい場所もあるし、天気といった条件にも左右されてしまう。けれど、それであっても、工夫できるところは工夫をしている。

 それであっても、目的をはっきりとしていない動物園というのは、遠くない将来に淘汰される危険性があるのではないだろうかとは思うこともある。市民に聞いたとしても、「動物園側から提案をしなければ」、より良い動物園にしていくのは不可能ではないだろうかとは思う。どういう目的があり、どういう展示をしたいのか、それをはっきりと提示したうえで、支援を求める。それが上手な場所はうまくAmazonの欲しいものリストを活用しているし、クラウドファンディングなども使っている。

 それに加えて、人口減少によって財政難になってくるからこそ、もはや動物園のことを自治体だけが支えることが不可能になりつつある今こそ、遠くにいるファンも増やすことが大切なのではないだろうか

 遊亀公園附属動物園も、公式Twitterアカウントはある。けれど、活用されているとは言い難い。おそらく、人手も足りていないのだろう。Twitterの使い方が上手い水族館や動物園のアカウントはある。けれど、それであっても、宣伝するだけではなかなか難しいところもある。

 設備の老朽化、生きものたちにとっては良くない環境、来園者の減少、生きものたちの高齢化や価格の上昇など、考えられるコストは多い。けれど、それに対する補填能力は追いついていないのだ。そんなヤバさを、僕はこの目でまじまじと見せつけられた。

 どうにかしたい。けれど、何をすればいいのか分からない。だからこそ、まずはどういうことができていないのか、どういうことをしたいのか、どういう目標を持っているのか、そういったことをもっと発信して欲しいと思えるような経験であった。

 

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