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金玉が腫れた話

 左側の睾丸がニワトリの卵の大きさに腫れてしまった。夜中に目を覚まし、便所で腫れあがった睾丸に触れた時は、卒倒しかけた。それは文字通りのことで、人は本当に驚くと意識が飛びそうになるのだなと思った。この症状がクラミジアの感染によるものであることは、ネットで調べたので明らかだった。

 三日前くらいから、腫れて痛みだしていたし発熱もしていたので、早く病院に行かなければならないと思っていたのだが、それが卵サイズになってしまったので、いよいよ急がなければならなかった。自分の住む街には泌尿器科が一軒しかなく、同じ症状の人が誤診されたとうGoogleのレビューがあったので、隣街まででかけていくことにした。

 駅前の雑居ビルの中にある院内は、コロナ禍のために冷房をつけているものの窓が開いていて、ちっとも涼しくない。一台の扇風機が、ぬるい空気をかき混ぜている。柱に飾られた院長の写真は、金玉のように威厳のある佇まいだ。

 問診票に「この症状が一生続くとしたらどうか」という条項があって、一番上の「非常に苦痛だ」に丸をした。待ち時間が長いとの評判だったので、午後診療の始まる時間より少し前に到着したものの先客もすでにいて、診療までには三十分以上待たされた。

 実際の院長は写真よりも、ずいぶん痩せていた。対面した瞬間は別の医者かと思った。歳もとっているし、なにか大病を患ったのかもしれない。

 寝台に仰向けに横たわり、ズボンをおろす。医者は慣れた手つきでゴム手袋をはめ、チンカスを、忌々しそうに取り払い、包茎を剥いた。そして、肝心の睾丸を診るや、

ーーこりゃタイヘンだ!

 はい、ズボン穿いてと、すぐにもとの椅子に座るよう促す。医者は居住まいをただすと、カルテを診ながら問診を始めた。

ーー大変、失礼な質問をこれからします。奥さんはいらっしゃいますか。

ーーはい。

ーー最近、奥さんと性行為をしましたか。

ーーいえ。

ーー大変失礼な質問ですが。奥さん以外の方と性行為をしましたか。

ーーはい、、、風俗にいきました。

 医者は予想通りだな、という渋い表情をしていた。この病院の向かいの線路を越えた先にあるピンサロはサービスが異常によかった。生理の娘もいないし、本番以外のことはだいたいできた。花魁コンセプトの店で、シックスナインをしながら「炭治郎の歌」を聴いていたのが思い出される。

ーーおそらくクラミジアでしょう。淋病にも感染しているかもしれませんので、ダブル処方でいきます。

 やおら、看護師に向かって、

ーーはい、採血。それから点滴の用意!

 分かってはいたが、改めて病名を告げられるとたじろがずにはいられない。採血を命じられた看護師は痩せぎすの年配の女だが、なかなか具合の良い血管を見つけることができないようで、なんとも不慣れな様子である。ようやく右腕でに注射を刺すものの血がうまく吸い上がっていかず、しばらく突き立てた状態がつづく。

ーーいたい、です、か?

ーーいたい、です、よ。

ーーそうですよね。

 こうして採血と点滴で三回、注射を射たれた。他人と性行為しないこと、飲酒しないこと、来週ぜったい来ることを約束させられた。薬局で大きな錠剤四粒がでた。これを寝る前に飲めば一週間は効くそうだ。副作用として下痢になるということだった。

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